楽しい山登り
ヘレナとカイルはバスケットの中を覗き込む。
「大きいわねー!」
ヘレナが驚きと感嘆を込めた声でいい、カイルがうなずいた。
「これをね! 手土産にするの!」
疑問に思ったヘレナは、「お茶会の?」と聞く。するとエレナは、「うん!」と大きくうなずいた。さっきまで泣いていたせいもあり、瞳が一倍輝いて見える。
「あなたの話ではあと、ハーブと湖で採れるお花がいるのよね」
「そう!」
ひと際元気に答えた。もう、いつものエレナに戻っている。あぁ~もう少し元気がないエレナのままでいて欲しかったな、とレーンは少し思った。
そんなことを思っていてもエレナは元気が一番だ、とも思うレーンなのである。
「今日は疲れたから、無理だけど、明日から私たちもその、ハーブ集めと、花摘みを手伝うわ。ね、あなた」
ヘレナはカイルに同意を求める。カイルは何も言わずうなずいた。明日からまた、エレナに振り回されるのか、レーンは落胆するが、エレナに振り回されるのも悪くないかな、と思い始めている自分がいるこに多少なりともレーンは驚いた。
*
「見つかってよかったわ!」
レノはエレナに抱きつき、長い髪を撫で続けた。翌日、家まで駆け付けたレノとロンはエレナが見つかったことを涙を浮かべながら、喜んだ。
「心配したんだからな……」
普段強がっている、ロンも涙を浮かべている。袖でまぶたを乱暴にぬぐっても、とめどなく涙があふれてくるようだ。レノも同じで、流れた涙がエレナの背中に消えた。
「どこいってたんだよ?」
ロンは涙をぬぐって訊ねた。
「山だよ。前にみんなでベリーの実を見つけたところ」
ロンは思い当たったようで、「あぁ~あそこまで行ってたのか。一人で……凄いな!」と感心している様子だった。
そんなことをいえば、「へっへ~ん」とエレナは胸を張った。褒めれば褒めるほど、つけあがるのがエレナの悪いところであり、良いところである。
つまり、良いところを褒めれば伸びる子だ。
「だけど、どうして、一人でベリーの実なんて取りに行ったんだ?」
待ってました! とばかりにエレナは、「もうすぐお茶会があるのよ!」と飛び跳ねそうな勢いでいった。
まるで、うさぎのようだ、とレーンは思う。
「お茶会って、なんの?」
不思議そうにロンが訊いたとき、レノが口を挟んだ。
「もしかして! モーガンさんがいっていた、アンジェリーナさんのお茶会のこと!」
目を輝かせながら、エレナに詰め寄るレノ。
エレナはレノの圧に負け、後下がりしながら、「そ、そうだよ」といったそばから壁に背中をぶつけ「いた!」とつぶやいた。
しかし、どうしてレノにはエレナのいうお茶会のことが分かったのだろうか。
女の子の気持ちはレーンには分からない。女の子はお茶会が好きなのかな? と思うだけだった。
「やっぱり! あの話は本当だったのね~! 私も招待してくれるかしら……?」
レノは夢見る乙女の目を急に曇らせて、エレナに問う。どうやら、レノは本気でアンジェリーナさんの話を信じているようだ。
思ったのもつかの間だった。
「俺も、招待してくれるかな……?」
ロンまでもが本気で信じていることにレーンは驚かずにはいられない。意外だ、ロンはてっきり、幽霊やこういう不思議な話は信じない人間だと思っていたが、信じる派らしいことが分かった。本当に意外だ。
「大丈夫よ! アンジェリーナさんのことを信じている人はお茶会に招待してもらえるわ!」
それを聞いて、ロンは安心しきった顔をし、レノもロンとまったく同じ顔をした。どうして、みんな信じるんだろう……レーンは戸惑ってしまう。
「いまから、ママとパパとお兄ちゃんで山にハーブを取りに行くところだったの、レノとロンも一緒にくる?」
バスケットを両手で持ち、エレナは問う。二人の返事は即答だった。
「行くわ!」レノの声と、「俺も行く」ロンの声が重なり、聞こえる。それを聞いた、エレナは満面の笑顔で、「一緒に行きましょ!」といった。その光景を見ていた、ヘレナとカイルも顔を見合わせ満面の笑みで、喜んでいる。
*
「ん~ないね~……」
エレナは先頭を歩いていた。登りだというのに、その元気が落ちることはない。カイルとヘレナは子供たちについて行くのがやっとだった。
「この峠を越えたところに、川辺があるんだ。そこにいけばきっと良いハーブがあるよ」
駄々をこねだしたのを見計らい、カイルがなだめる。
「本当ね、本当なのね」
エレナは何度もカイルに確かめた。カイルがうなずくと、元気を取り戻したエレナはうさぎのように飛び跳ね、坂道を登ってゆく。
「あ! あれじゃないか」
それからしばらく坂を登ったころ、川のせせらぎが聞こえ遠目に川が見えた。それをいち早く発見した、ロンが浮足立って報告した。
レノとエレナ、ヘレナ、ロン、レーンは息を止めるほどの美しくきらめく、川辺に目を奪われた。
それを見て、カイルは満足気にうなずく。みんなのこの顔を見れただけで、この山を登って来たかいがあるというものだ、とカイルは思った。
なぜなら、川辺には目を疑うほどの、緑に包まれた原っぱが広がっていたから――。




