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麦畑での出来事

 むかしむかし、西側を山々、東側を湖に囲まれた、小さいけれど美しい村がありました。

 その村には、エレナという女の子とレーンという男の子、そして両親のヘレナとカイルという、四人の家族が暮らしていました。このお話は、わんぱくな妹エレナとそんな妹にいつも振り回される兄レーンの物語。

 西の空が赤く染まりだした頃。麦の()が夕日に照らされ、黄金色に輝いている。まだ幼い顔立ちの男の子、レーンが麦をかき分けながら誰かの名を呼ぶ。


「どこにいるんだよ、もう家に帰ろうよーおー」


 語尾を伸ばし、心配そうにまだ幼さの残る声が、「エレナ、家に帰るよ」と何度もエレナと名を呼ぶ。しかし誰も現れない、「エレナったら!」先ほどよりも大きな声で女の子の名を呼んだ。


 草に足を取られながらも、男の子は一歩一歩前に進む。すると突然。ガサガサ、ガサガサ、横の麦が揺れたことに気付く。揺れた麦は金の粉をあたりにまき、新たな生命を広げる。


 やっと見つけたぞ、とレーンは心の中で思いながらゆっくり、ゆっくりと麦に近寄る。足音をたてないように、慎重につま先立ちで、差し脚抜き足で歩いた。


「わぁ」


 麦影の中から、栗色の髪を肩の下で束ねた女の子が、「お兄ちゃんびっくりした?」と、目を輝かせながら、無邪気に笑ってレーンを驚かせた。


「そんな問題じゃないよ! 心配したんだからな」


 お兄ちゃんと言われた男の子は、「突然いなくなるなよ!」と強く女の子に言い放つ。今にも泣きだしそうに、エレナという女の子は、「ごめんなさい…。」と言った。


 強く言い過ぎたかなと思いながらもレーンは心を鬼にするが、「……反省してるんだったら許すよ」と、妹の泣き顔は見たくないと思い急に弱気になった。


「ご飯の支度ができてるから、家に帰ろう」


 レーンはエレナの腕をつかみ元来た道を歩き出した。



 家に着いた頃には、外は暗くなり、お月様が見えていた。


「こら! 暗くなるまで何してたのレーン! エレナ!」


 エレナと同じように、肩の下で髪を結んでいる女の人が声を荒らげながら言った。


 レーンは何か、言い訳を考えながら、「僕がわるいんじゃないよ、早いうちに帰ろうって、僕は言ってたんだ」言って弱々しく、「なのにエレナが麦畑の中に入っていちゃて、僕は捜してたんだ……」ズボンを握りしめた。


「それで」


 そういったきり、レーンは声を落とし、うつむいてしまった。


「エレナ、本当なの?」


 扉の後ろに隠れている、エレナに問いかける。すると、顔を半分だけ出して、きまり悪そうにうなずいた。


「反省してるようだし、もう許してあげたらどうだ」


 突然、椅子に座って様子をうかがっていた父カイルがいった。


「もう、あなたったらいつも子供に甘いんだから!」


 ヘレナは鋭い目つきでカイルをにらんでから、「次からは、明るい内に帰ってくるのよ」と、逆三角にひきつった顔を戻し、優しく二人の子供に言い聞かせた。


 エレナは反省しているのか、いないのか元気な声で、「ご飯たべよーよ!」とレーンの腕を引きながら椅子に座らせる。


「先に、顔と手を洗ってきなさい」


 ヘレナは、いつものように注意をした。

               


 その日の夜。

 毛布を首まで被り、レーンは、「何で、麦畑に入ったりしたんだ?」と横で眠っているエレナに問いかける。まだ眠っていなかったらしくエレナは、「あの麦畑にはね、猫がいるんだよ」と声を潜めながらいった。 

 

 気になることがあったら、後先考えずに行動するのはエレナの悪いところでもあり、良いところでもある、とレーンは思う。


「猫? その猫を探しにいったのか?」


 窓から差し込む月の光がエレナの髪を黄金色にきらめかせた。


「うん」


「見つかった?」


「見つからなかった……」


 悲しそうにエレナはいった。


「明日の朝、僕も一緒に探してあげるよ」


 レーンは妹をはげますつもりでいった。するとエレナは、「ありがとう、でも私以外は見つけられない……」と先ほどよりも、弱く言葉を返す。


「それでも、一人で探すよりいいに決まってるよ!」


 レーンは言い返した。しかし返事が返ってこない。と、思ったらエレナの寝息が聞こえてきた。


「寝ちゃったのか」  


 自分しか会えないってなんでだよ? レーンは妹の寝息を聞きながら、眠りに落ちた。

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