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log:1 壁に挑む者

壁。


まだら模様の、苔むす岩壁と金属により築かれた、垂直な壁。


総長二十キロメートルにもおよぶ長大な絶壁を、今一人の若者が登っていた。


彼は岩場の切れ目に指をかけ、全身の力を用い体を押し上げてゆく。


遮るもののない青空からは絶え間無く太陽が照りつけ、汗ばむその身体には疲労が蓄積されてゆくく。


過酷な道のりはまだ序盤の域であり、常人ならば既に心折れそうにる険しさを秘めていたが、この若者はそれすら征服せんとする強靭な意志を持っていた。


彼の名はブーン。


まだ二十代と若いものの、この世界では名の知られた凄腕のクライマーだ。

気を抜けば滑落して即死の危険な岩場で、ブーンは巧みに手を伸ばし、次の足場へ身体を運んでゆく。


歩みは鈍足であり、だが極めて慎重。


それでも運が悪いことに数日前ザイルが切れてしまい、現在命綱なしにここまで登坂してきた彼の熟達した技術は、ひとえに才能であり、またそれを導いてくれた恩人たちのおかげでもあった。


あと数十メートル登った先に、梁のよう突き出した奇妙な構造物が見える。


ふっ、と浅い息を吐き、全身に力をみなぎらせてより近くまで接近する。


根元の梯子まで手が届いた時、ようやくそこでアンテナの形を取っていることが判った。


( ^ω^)「おお……播種船の遺物だお」


視界いっぱいにそれをおさめながら、感嘆まじりにブーンは呟いた。


播種船(はしゅせん)


この壁の正体は遠い昔星々の彼方より訪れた移民船なのだ。


長い年月を経て老朽化したものの、船内の電源はまだそこかしこで生きている。


ステップに腰を降ろし、休憩もそこそこに早速荷物をほどくや、ブーンはそこから蛇にも似た一台の機械を取り出した。


背中に覗く電源スイッチを入れると、とぐろを巻いていた蛇がしゅるりと一本の紐へ変わる。


( ^ω^)「行け! 僕のスクワーム!」


主が命じると、するすると蛇が壁の亀裂へと潜り込んでいった。


ブーンの目的は、この船内に眠る超古代文明の遺物を探すことにある。


たとえ発見できなくとも、どこかで充電が出来ないかと期待しなから報告を待っていると、しばらく後に(しもべ)から通信が入った。


('A`)「おーいブーン、ちょっと来てくれないか?」


どうやら蛇がなんらかの遺物を探し当てたらしい。


( ^ω^)「何かあったのかお? ドクオ」


彼が所有するスクワームに搭載された疑似人格AI・ドクオにブーンは応じた。


('A`)「ああ。なんか人らしきモノが倒れているんだけれどよ。流石に俺の力じゃ運べねぇんだわ。手伝ってくれ」


( ^ω^)「おkおk。じゃあ直ぐに向かうお。さて、取りあえずは……っと」


壁面に半ば埋もれるように設置されていた、ハンドル式のドアに指をかけて回す。錆び付いていて硬いドアだが、ブーンの鍛えてられた腕力ならばそれすら容易にこじ開ける事ができる。


( `ω´)「フッ!」


一息で回したドアが奥へと開いて、そのまま室内へとブーンは侵入する。ドクオの報告にある例の人物のものなのか、埃がつもる床の上に、何者かの足跡が奥へ向け続いていた。


一旦屈んで、その足跡をよく調べてみる。埃の厚さから察するに、この足跡はまだ新しい。


どちらにせよ、こんな辺鄙な場所を訪れるなんて余程の物好きに違いない。


( ^ω^)(ま、僕もその内の一人なんだけれど)


思索にふけるのを程ほどに切り上げ、ブーンは更に奥へと進んでいった。




数分後。ドクオのビーコン反応が強まってきた。そろそろだな、とブーンは彼へもう一度通信をつなぐ。


( ^ω^)「ドクオ」


( 'A`)/「おう、こっちこっち」


居場所を告げるためコツコツとドクオが壁を叩いた。首を巡らしようやく彼の下へ辿り着くと、そこには確かに一人の女性が仰向けに倒れている。


川 ー )


眠っているのかそれとも気絶しているのか。整った顔立ちをした彼女はぴくりとも動かない。


その姿を見下ろしながら


( ^ω^)「……死んでる?」


と相方に訊ねてみるも


('A`)「さぁな」と蛇は首を振るばかり。解らない、というリアクションが返ってきた。


('A`)「取りあえず放っておくのもアレだし運んでやろうぜー」


あとで目覚めたら相手に何者か訊ねてみよう、と二人で決め、ブーンは彼女を背中におぶってやった。

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