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ドラゴン・フォール〈竜騎妃と弩砲の射手〉  作者: Biz
5章 地上に降り落ちるのは――
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最終話 ドラゴン・フォール

 ルトランはノスキー国の南方の峰に墜ちたらしい。

 役目を終え、大地の上で静かに眠る竜に、シィエルはずっと大粒の涙を流し続けた。


 その半月後。タウルは王座に就くと同時に、シィエルとの婚約を発表した。

 反対の声も多かったが、浮遊大陸が争う理由を失し・和睦を結んだ功績の前では小声にならざるを得ず、表向きは“政略結婚”と言う形で納得させた。

 それに伴い、城の名を変える。

 闇人との約束を守り、彼らに居場所を与えた。その場所は――何とタウルの居城なのであった。

 ロザリーの冗談が奇しくも現実のものとなり、常に夜の中のように暗くなった城・〈常夜城〉が誕生した。


『闇に数は存在せぬ。闇は常に光の傍にある――』


 最初は不気味がっていたものの、使用人たちは『闇よ、少し明かりをちょうだい』と言えば避け、『笑って』と言えば闇に白い三日月を浮かべる。

 また話相手にもなるので、城の者たちも不便なく暮らしていた。


 シィエルとの挙式はすぐに行われた。

 これまで類を見ない、竜が参列する中での式である。二人はルトランの牙を胸に掲げ、天と地の者たちに見守られながら、永遠の愛を誓い合った。

 しかし――ここからが大変である。

 秋の風が吹く頃に結ばれたのだが、シィエルは常春のようにタウルにべったりなのだ。

 二人の世話役を命じられたロザリーも、


『シーツの管理より、芝生の管理の方が楽しかったです』


 と、苦言を呈するほどである。

 この日も彼女の小言に苦笑しながら、タウルは中庭の方に足を向けていた。


「――あ、タウル!」


 ドゥドゥに包まれながら夜空を見上げていたシィエルは、ゆったりとしたローブを揺らしながら駆け寄ってきた。


「シィエル。厚着してないとダメじゃないか」

「平気よ。天空の冬に比べたら、こっちの寒さなんてまだ秋の口くらいよ」

「しかし……」


 タウルはシィエルの腹に目を向けた。

 僅かであるが膨らみを見せている。


「また考えすぎ」


 シィエルはそんなタウルの鼻をつんとついた。


「ドゥドゥもいるから大丈夫なんだから」

「うぉん」


 体調管理は任せろ、と言うかのようにドゥドゥはひと吼えした。


「まぁ、お前がついていたら大丈夫か――。ただ何と言うか、やっぱり、か……?」

「うん……。ほぼ確定よ……」


 シィエルはこの日、天空からやって来た医師に診てもらっていた。


「竜、だって」

「跡継ぎが竜……って大丈夫、なのか?」

「あら、一人で済ませる気?」


 シィエルは艶めかしく微笑む。タウルは胸が熱くなるのを誤魔化すように、首の後ろを揉んだ。


「タウルだって三男だし、人間が後でも大丈夫でしょ」

「まぁ、それもそうだな」

「実際はまだ決着つけるべきことがあるし、竜は運命みたいなものかもね……」

「ああ。兄さんを倒さなくちゃ、完全に闇を晴らしたことにはならない」

「イリーナさん、無事に会えたのかしら」

「会えただろう。〈セカンズ〉は何かに引かれるように、一箇所に向かって動いているらしいし」


 タウルたちが帰ってくる数日前のことであった。

 残っていた兄・ザラムの悪党組織〈セカンズ〉が国を発ってからすぐ、これまで治めてきた女王・イリーナが失踪したと言うのである。

 彼女の寝室のベッドの上にはドレスとティアラ、そして、


【我はもはや女王に非ず。持つのは冠のみ。】


 このような書き置きを遺し、忽然と姿を消した。


「国を棄てたのは許せないけれど、女としては応援するわ」

「おかげで彼女の実家、ひいては父親に説明するのが大変だったよ」


 タウルは苦笑を浮かべ、肩をすくめる。


「浮遊大陸も未だに和睦と反対派で対立してるし、親ってのは頭固くなるものなのかしら」

「親と言えば、初孫が出来たと知ったお義父さんは嬉しそうだったな。……口で悪態つきながら、小躍りしてたし」

「そう言う人なのよ。地上に移住しても、プライドだけはお空の上だから」


 二人は浮遊大陸のある方角を見上げた。

 中核に据えられていた〈賢者の石〉が失われたが、まだ天空に浮かび続けている。

 天空の王はこれを、『ベヒモスが地を支えているのならば、この浮遊大陸は〈シズ〉が引っ張り上げているのかもしれないですな』と冗談めかす。

 その表情は、何か憑き物が落ちたような、柔和なものだった。

 しかしいつ墜ちるかも判らない。天空の者たちは対立し合う空気に嫌気が差した――などの尤もらしい理由を挙げ、シィエルの実家〈ミエール家〉と、その従姉妹の実家〈テリット家〉を代表に、約三分の一の住民が地上・ノスキー国へ移住したのである。


「あの大陸が墜ちたら、この国は海になるのかしら?」

「こ、怖いこと言うな……」

「ふふっ。でも私は、結果的に地上に墜ちてよかった、と思っているわ」

「結果的に、か……そう言えば、ルトランも同じことを言っていたな」


 タウルはシィエルのお腹をそっと撫でた。

 騒動の引き金を引いたのは自身であるが、


「竜は墜ちたけれど、ルトランは地上に存在を遺した」

「ええ。この子が産まれたら、見せてあげないとね」


 ルトランが激突した衝撃で岩壁が崩れると、そこから水が溢れ出したのである。

 それはやがて滝となり、悠然と誇り高くある姿を見たタウルは、滝をこう名付けた。


〈ドラゴン・フォール〉


 今も竜の足音のような轟きをあげ、水が大地を駆けてゆく。

※ドラゴン・フォール〈竜騎妃と弩砲の射手〉は、これにて完結となります。

 ブックマークや評価、そしてここまで読んでいただき、ありがとうございました<(_ _)>


 また後々の参考にしたいので、面白かったかそうでなかったかなど評価を頂けたらと思います。

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