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ドラゴン・フォール〈竜騎妃と弩砲の射手〉  作者: Biz
3章 闇のトンネルの向こうには
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第4話 聖戦士部隊

 ――絶対に連れ戻してやるからな


 エルブはそう捨て台詞を吐き、逃げるように空へと戻って行った。

 西の空。浮かぶ白い雲の中に消えたのを見届けると、タウルは腹から長い息を吐く。

 そしてそれと同時に――


「タウルーっ!」

「わっ!?」


 感極まったシィエルが、飛びつくように抱きついてきた。


「タウル、ありがとう……! あなたがいなかったら私……!」

「い、いや、さすがに見てられなくて……出すぎた真似かと思ったんだけど……」

「ううん、私すごく嬉しいっ!」


 タウルの胸の中で、猫のように(ひたい)を擦り付けるシィエル。

 頬を染めながら上目づかいに見上げると、甘い声で「本気で惚れちゃったかも……」と、強く抱きしめる。

 どうしていいかと分からなくなったタウルは、キョロキョロと目配せし、その様子に目を細めるルトランに気付いた。


「そ、そうだルトラン、さっきは助かった!」

「あの若造に灸を据えてやっただけだ」


 いい加減叩いておかねばと思っていたしな、と素っ気ない態度で述べるが、どこか声が弾んでいるようでもあった。

 竜同士が仲がいいとは限らない。シィエルがエルブを心良く思わないのと同時に、彼女らが乗るルトランとルカミヨンもまた、ソリが合わないようだ。


「しかし、ドゥドゥがいなくてよかったよ……」

「どうして?」タウルに抱きつきながら、シィエルは顔を見上げた。

「弱者を守ることになると容赦しなくなるんだ。特にあんな状況だと、エルブって男だけじゃなく竜まで殺しかねなかった」

「殺してくれてもいいのに」


 平然と言うシィエルに、ルトランも同意して頷く。

 タウルはしばらくシィエルに抱きつかれるままであったが、茂みに隠したマリアの方へ目を向け、「危害が及ばなくてよかった」と言ったが最後、シィエルの様子が急変してしまう。


「へぇー、心配なんだぁ?」

「え、いや、そりゃまぁ」

「へぇー……()()()()()()?」

「いや、それとこれとはまた別の――」


 タウルはルトランに目を向け、助けを求めたが、


「女の面倒な部分まで強化されている、と話したはずだ。竜騎妃は嫉妬深い」

「失礼ね。私は嫉妬なんてしてないわ」


 蒼い微笑みを浮かべるシィエルと、ニマニマと楽しげな笑みを浮かべる竜。

 タウルは、『覚悟しておけ』との言葉の意味を、ようやく理解しつつあった――。



 それから一週間――ドゥドゥは未だ戻ってきていなかった。

 書簡を届けるだけなので五日もあれば到着すると考えていたため、タウルは次第に相棒の身を案じ始める。

 マリアの方も慣れぬ野営に疲労の色が隠せない。しかしシィエルが綿密なケア……常に女同士の会話に花を咲かせているので、精神的な疲労は窺えなかった。

 話題は専ら“結婚”についてである。特にマリアの婚礼衣装には興味が尽きないようだ。


(僕自身、白黒ハッキリさせるべきだろうな……)


 シィエルその姿に、タウルは深いため息を吐いてしまう。

 そう考えていた時――カヤ村の方角から、地鳴りのような音をたてながら駆けてくる、大きな獣の姿が見えた。


「ドゥドゥ!」

「うぉんっ!」


 ドゥドゥは嬉しそうに目を細め、やって来るなりタウルに頭を擦りつけた。


「調子の方はどうだ?」


 タウルが訊ねると、太い腕をヒラヒラと振る。


「まぁまぁ? そうか」


 白い毛皮はじっとりとし、土埃で汚れている。

 長く駆け続けてきた相棒を労い続けていたのもつかの間……やって来た方角から、馬に乗った一団が現れたのが分かった。


「あれって……〈タスラム〉の人たちじゃないの!?」

「〈タスラム〉って……お前まさか、直接連れてきたのか!?」

「うぉんっ!」


 ドゥドゥが腕を組んで頷く。

 リーダーであるシスター・マレーは一行の前で馬を降り、むすっとした表情のままタウルたちの下に向かってくる。


「――お久しぶりです。大公殿」


 そう言って胸の前で手を組み、片膝を立てながら腰を一度落とした。


「え、遠路はるばるようこそ……?」

「まったく……急にベヒモスが訊ねたかと思えば、ゾンビが現れたから対処法を教えろと言う。ノスキー国には礼節と余裕というものがないのですか」

「急を要するものでしたから……しかしまた、どうして〈タスラム〉の一団が……?」

「さぁ? コネシー国では持て余すのでしょうね。私すら口説けぬキザ男では、ドランドルとの交渉も難しいでしょうし。私には分かりません」


 タウルは無言で納得の表情を浮かべた。

 人質交渉で相当にゴネたのだ。ドランドルの聖戦士部隊は、『神のために死ぬ』と教えられているので、人を簡単に切り捨てると言われている。

 処刑するぞと脅しても『どうぞ』と返されるだけなので、交渉による戦争賠償を得る取っかかりが失われてしまう。


「……もしかして、ノスキー国に丸投げですか?」

「そちらの国王に『神のために死にたいのなら、お前の国にあのブサイク突っ込ませるぞ』と言われ、我々は追放という形で釈放されましてね。ええ」


 地上に唯一残る神獣・ベヒモスである。

 そう言われたら仕方ないのか、ドランドルは渋々賠償金を支払ったのだろう。


「そういうわけで、我々が“山狩り”して差し上げますが、その後の責任を取って頂きたい」

「こちらにも責任の一端がありますし、あなた方の住まう地は約束しましょう。……ですが、ドランドルに対して警戒を強める者もおりますので、居住地や処遇に関してはあまり期待しないで下さい」

「結構。我々は水さえあれば生きてゆけます」


 マレーとの交渉を終えたところで、話題はすぐにゾンビの話に移った。

 まず彼女が語ったのは、『珍しい話ではない』という驚くべき内容である。


「――死者の復活は、ドゥドゥがリヴァイアサンを食べたことが起因ではない?」

「ええ。大きく表沙汰になっていないだけで、昔からちょこちょこと出ています」

「原因は判明しているのですか?」

「闇の力が漏れ出る()()()を確認しています。カルマ――業の深い者がそれを浴びると、闇の力に取り込まれてしまうというのが我々の考えです」


 しかし、人の身では耐えきれず、リビングデッドになってしまう。

 驚かすようなマレーの口ぶりに、シィエルはタウルにしがみついた。


「彼らは生前の習慣から外れた行動ができない、と判明しております」

「ああなるほど。だから山から出られないのですね」

「掃討は我々が行います。この山なら、二日……いえ一日あれば終わるでしょう」


 マレーはそう言うと、配下の者から見るからに重そうなカバンを受け取り、目の前で広げてみせた。

 そこには鋲や投刃、爪……と言った、鈍色の刃物がぎっしり詰め込まれている。

 タウルとシィエルはぎょっとすると、マレーは「あら?」と意外そうな顔を向けた。


「聖職者だって刃物は使いますよ。特に生前は人に迷惑をかけ、死してもなお人に迷惑をかけるような輩への慈悲なぞ、我々は持ち合わせておりませんので」

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