ユウの闇魔法
鳥も飛んでいないこの空を一人、ポツンと飛び、王都へと向かっていた。
闇の魔法、ユウにも使えると分かったら早速使ってみたい。しかしどういう想像をすればいい。他の魔法は前世の世界にあったものからの想像なのだが闇に関してはなにも経験がない。あるとすれば先日会ったスワロウの魔法。
あれは物体から魔力まであらゆるものを飲み込んでしまうものだ。
前世の世界でそんなものがあったか?
「ブラックホールか?」
あれは光さえも飲み込んでしまう。あれは超高密度の重力だ。一度飲み込まれれば二度と出ることはできない。
スワロウの闇魔法はどうだ。影に入り、影から出てきていたから少なくとも出られないことはない。ということは異次元か。
ユウは闇魔法を異次元への扉を開くものと仮定することにした。つまり、異次元への扉を任意の場所に開くことができる魔法だ。そしてそれを打ち出すこともできる。か
控えめに言って最強の魔法だろう。そしてその最強の魔法を破ったのが干渉魔法だった。
さて、どうしたものか。むしろこれはいい機会かもしれない。どう言う現象なのか理解していないものを魔法としてこの世に具現化することを試すことができる。
おそらくこれは可能なのだ。この世界の人達は原理を理解していないのにできているし、ユウとしても身体強化について原理を理解しているわけではない。
「早速やってみるか」
ユウは王都へと向かいながらそう呟くとイメージした。イメージはこことは違う世界への穴を作る。
イメージしているとユウはピタリと動きを止めた。このまま飛びながらやった時ミスったら自分がバラバラになると思ったからだ。空中に浮いている状況を保つのも危険な可能性があるので地上に降りた。
そして右手に暗い色をした塊を作り出した。中に光はないように見える。そしてそれを上下左右、色々な方向に自由に動かすことができることを確認した。
(よし、次は飲み込めるかだな)
ユウは近くの木にの前まで移動した。そして右手にある暗い色をした球を前に打ち出した。
そして木に触れた。
何の音もしない。木ならメキメキ言ってもおかしくはないが、だが暗い塊は確実に木に命中している。
そして暗い塊を木から離すとそこには丸い穴がぽっかりと空いていた。異次元に飛ばしているため折れる、や切れる、などと言うものではなく、ただそこからなくなるため音などならないようだった。
そしてユウは闇魔法の中から少しの違和感を感じた。その違和感をなんとなく暗い球から出してみるとそれは木の破片だった。
つまりこの魔法はユウの予想通り、異次元へとつながる穴を作る魔法。それを利用して何かの一部を削り取ることができるものだった。
「これは殺傷能力が高すぎるな…」
これを人に使った場合、確実に殺すことができなくても腕の1本や2本は持っていけるだろう。闇魔法とはそう言う魔法だ。
ユウはこの魔法を簡単に習得することができたがそれは王として当たり前だからだ。基本的には人間の魔法は精霊からの加護を受けることで使えるようになるものだ。
「これは本当に俺人間じゃないのかもなー」
少し落ち込んでしまった。自分が人間ではなく、精霊の王だと知らされたのだが、まだユウとしては人間の可能性も捨てていなかった。しかし自分が簡単に闇魔法を使えることで人間ではないと言う実感が強まってしまったのだ。
だが、よくよく考えれば人間にこだわっている必要はないのではないか?この世界での親代わりのレイラ。もし自分が人間ではなく、精霊の王だとしても一緒に過ごした期間は嘘になることはない。それにレイラ自身もそんなことでユウを変な目で見ることはないだろう。
むしろ「すごいじゃないか!」と言ってくれそうだ。
そんなことを思っているとこんな悩みなどどうでもよくなってしまった。
「よし、先を急ごう」
そういうとユウは再び飛び上がった。ちなみに影を移動する能力だが、実際には違うようだ。何度か試したが影に入ることなどできない。だが、影の中だと闇魔法が使いやすく、さらに影に同化させることで闇魔法だと気付かれなくなることを知った。
ユウ自身も闇の中に入ったが真っ暗で何も見えなかったが自分は手に取るようにどこにいるのか理解できた。とても不思議な感覚だった。
これでスワロウに遅れをとることもないだろうと言う安心感を胸に王都へと道沿いに飛んでいると賑わいを見せる小さな町が見えてきた。
この町がセントラルと王都の中間と呼ばれている町「フェスト」だろう。2つの街を行き来する上で人の往来が激しく、休憩所として使われていたがそこに人が増えていき町になったらしい。その土地のほとんどは場所を止める場所と食料品の店となっている。街というよりは本当に休憩所という場所だった。
ユウはフェストよりも少し離れたところで地上に降りて、歩いて入り口に向かった。
日は少し傾いていて空が赤くなり始めている。
(また怪しまれないだろうか)
ユウはこれまで街につくたびに怪しまれていたので極力怪しまれないように努力することにした。入り口に近づくと門番が2人立っていた。
「こんばんは、身分証の提示をお願いします。」
2人とも槍のような武器、いや槍だな。槍を持った2人は優しそうな顔をしてこちらに聞いてきた。人の出入りが激しくないのは時間も時間だからだろう。
優しい顔をしながらもユウという子供に対してしっかりとした言葉遣いをするところから仕事に対する真面目さが伺える。
「はい、これでいいですか?」
ユウは事前に準備していたギルドカードを差し出した。
門番の1人がギルドカードを受け取り、少し驚いた表情とともにこちらを見てきたがおそらく魔法師階級のことだろう。
「失礼しました!魔法師団3番隊の方でしたか。セントラルの警備の方はよろしいのでしょうか?」
そっちだったか。そういえば3番隊のままなのを忘れていた。
「えっと、1週間ほど3番隊で働いていたのですが今はもう所属していません。それに王都からの召喚で今向かっているところです。この村へはその途中で来ました。」
1週間だけの所属では疑われるかと思い、自分の目的まで話したが、そんな心配は必要なかったようで2人はすぐに納得してくれた。
「いい1日を!」
「ありがとうございます」
気持ちのいい挨拶を交わして門をくぐったユウは辺りを見渡した。門をくぐったすぐにはやはり大量の馬車が馬と共に置いてある。中央の道は門から門をつなぐ道で本当に通り道の周りに町ができたという感じだ。街の中に人は多く、酒場や食事処というようなところが賑わい始めようとしている。
ユウはそういうところに用は無いので真っ先に宿屋に向かった。少し遅い時間だったのでもしかしたらもう一杯で野宿になるかもしれないと思っていたのだが、宿にはかなり余裕があるようですんなりと入ることができた。
質素な店でこの街の中では高くも安くも無いのだがユウとしてはこの程度が丁度いい。1泊のみで銅貨2枚だそうだ。フェストの町は警備の兵を雇っており、治安の維持もフェストに委ねられているので物価は高くならざるを得ないのだそうだ。まぁそれでも安いのだが。
ユウは宿の一室で闇魔法を思い出していた。それに精霊の王ということも。
ロクスが言っていたが精霊魔法を使うことでより精霊と同化しやすくなり、精霊としての力が使えるようになる。そんな感じだったはずだ。
「精霊さーん。いますかー」
シーーーーーン・・・
王の呼びかけに応じ参上仕りました!
とかなるのかとおもったけど何も起きなかった。
ユウとしては精霊の王については何もわからないので出てきて教えてもらいたいことは山ほどあるのだが
今は闇の魔法について調べ、実験することにした。
まずは闇に入る魔法。
足元に闇を出し、広げる。その上に立っているだけでは何も起こらないが、ユウが頭の中で(入れ)と思うと闇の中にユウの体が沈んでいく。そして別の位置にも闇を作り出口にしてそこから出てくる。
しかしこの移動可能距離はかなり短いし使いどころは限られてくるだろうな。
しかし便利な使い方を思いついた。何か物を入れておいて闇を一旦消す。そしてまた別の場所で出口を作り取り出す。つまり自由に物を出し入れできるのだから場所を取らない倉庫のような使い方だ。
「アイテムボックス的なあれだなーこれ」
ただ闇を消すタイミングを間違えるとそこでちぎれてしまう。これが自分なら体が真っ二つになってしまうから気をつけないとな。
「次はもっとたくさん出してみるか」
ユウはベッドに座ると目を瞑り、集中した。闇の玉をできるだけ多く体の周りに発生させた。
12。それがユウが完璧にコントロールしながら生み出せる最高の個数だった。
「よし、次だ」
ユウの周りに発生した闇達がユウの周りを回り始めた。
これは近寄ってきた物を異次元に取り込みながら回っているので最高の防御を誇るだろう。干渉魔法には対抗できないが実際これは殺傷能力や対魔法、対武技共にかなりの効果がある。
「ふー、これでも難しすぎるな。味方に当たれば終わりだ」
ユウは額にジワリと汗をかいていた。大気中の魔力を使えたり、精霊の王として生まれてきているユウですらこの有様。それほどに難しいのだ。
おそらくスワロウはこのコントロールをせずに前にひたすら飛ばしていたのだろう。それ以外にありえない。
「これは本当にやばくなったときに防御に使おう。あとは収納として、それ以外では使わないようにしないとな」
ユウは闇魔法を覚え、コントロールできるようになったのだがそれをほとんど封印することに決めた。
それにしてもこんな魔法が簡単に使えるようになるとは闇の精霊、恐ろしいやつだな。
ユウはまだ闇魔法の本当の使い方に気づいていなかった。




