番外編ーシギルの過去ー
1人の男が生まれたのは大きくはない町だった。
母親は火の魔法師、父親は土の魔法師としてこの町の警備隊に所属している。
そんな2人が出会ったのは同じ警備隊でのことだった。お互いに魔法を極めようとするのではなく、ある程度の魔法でこの町を守ることを目的として生きていた。その信念が2人を引き寄せたのだ。
お互いに惹かれあい、結婚し、1人の子を作った。
2人は我が子を優しく愛し、3人で幸せて平穏な日々を過ごしていた。しかしその違和感に気づいたのは子供、「シギル」が3歳になった時だった。
ある日、この町では珍しく地震が起きた。その地震のせいでシギルにタンスが倒れてしまったのだ。
父親は警備をしていて母親は家事をしていたのたが、反応か遅れてしまい、そのままシギルは3歳という若さでタンスに押し潰されて死んでしまった。
死んでしまうはずだった。
タンスには穴が空き、シギルは丁度その穴に入るようにし、無傷だったのだ。
母親は安堵し、シギルを抱き寄せたのだが、このタンスの穴の開き方は明らかに人工的で滑らかだった。
「もしかして、この子が?…そんなわけないわよね」
この時は少しの違和感で済んだ。そんなわけないと、3歳の子がこんなことできるはずがないという常識的観点からの判断だった。常識など通用しない時もあるということも知らずに。
次におかしな事が起こったのはシギルが5歳になった時のことだった。シギルの魔法適正を測るために教会に向かい、魔水晶による魔法適正診断を受けることにした。
魔水晶は触れるだけで極少量の魔力を吸い取り、魔法適正を診断する。火なら赤、水なら青、風なら緑、土なら黄色に光る。その色で適性を判断するのだがシギルの場合、誰も予想だにしない反応を見せた。
シギルが魔水晶に触れた瞬間、少しシギルの魔法を吸い取った。それを害意とみなしたシギルの魔力は魔水晶を崩壊させたのだ。教会の人間はその反応を見てすぐにこう言った。
「呪いだ。この子には魔力の呪いがかかっている」
それは本来ならば口外されるべきではないのだが、人間は噂というものに敏感だ。それも珍しいものであればあるほどに広まるのは早くなっていく。シギルの呪いという話もまた珍しく、大きくない町では瞬く間に広まってしまった。
呪いの子を輩出した家としても扱われるため、両親の立場もグラグラと不安定なものになってしまう。
子が呪われているのだから親もまた…
などという噂も流れ始めていたくらいだ
シギルは10歳になる時にはその家は廃れていった。
親は子を愛さなくなり、しかしながら子は親を頼るしかない。
噂が広まるまでは近くの子供達とも仲良くしていたのだが、次第にその数は減っていき、残ったのは魔法師としてこの町では優秀な家系に生まれた年下の女の子だけになってしまった。その子ですら、親に内緒で会いに来てくれるだけの状況だった。
そしてシギルが10歳の秋、事件は起こった。
いじめだ。この年頃になると強いものは強くでて、弱いものはいじめられる。そんな時期に格好のいじめの対象となるのは当然、呪われた子だ。
1人の男の子がシギルを蹴ろうとして足が崩壊した。シギルが抵抗しようとしていたわけではないのだが勝手に魔力が動き出し、足を崩壊させたのだがそれを理解できたものはいない。
足を崩壊させられた男の子の親は呪われた子の魔法により自分の息子の足が無くなってしまったことに憤慨し、町の人たちと協力し、呪いの子を殺すという判断に至った。それは次は我が身という意識からだ。
両親はもはや止めもしない。見て見ぬ振りをしシギルを差し出したのも同然だ。シギルは幼いながらに見てきた町の人たちの魔法を、自分をこれまで守ってくれていた魔法を今度は自分が浴びることになるとは露程も思っていなかったのでショックが大きかっただろう。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんない。やめて!死にたくない!殺したくない!!」
シギルは必死に謝った。あの魔法を自分がくらえばタダでは済まないだろうという思いと、またあの時みたいに村の人の身体を崩壊させてしまったら嫌だ。
どうして、どうして、どうして
結果として、シギルは町を出て行くことになってしまった
シギルを捕まえようとして集まった人の半数以上が死んだ。
シギルは何も魔法を使っていないのだが死んだ。
父親の親友だった男の上半身が崩壊した。
幼い頃可愛がってくれたおじさんも死んだ。
よく家で一緒にご飯を食べたおばさんも死んでしまった。
魔法は無効化される。近づけば身体が崩壊する。その2つの能力はあまりにも強力でこの町では誰も対処できなかったのだ。恐怖した人達は危害を加えるのもやめ、その町、マレンから追い出したのだ。
それからシギルは1人ポツポツと歩いていた。当然お金を貰えるわけではないので時には狩りをして生きた。
次にたどり着いた町ではギルドカードを作り、傭兵として働いた。不思議とマレンでの人殺しは罪とは捉えられなかった。おそらく自らの意思で殺したわけではないからだろう。自分は罪人ではないという証明がされ、少なからずシギルを支えた。
薬草を積み、家の掃除をしたり動物を狩ったり、馬車の護衛もやった。いろんなことをやって生きていた。
そして6年後、シギルは16歳になり、傭兵の仕事にも慣れてきたのだがある日、シギルの興味をそそる依頼を発見した。
『マレンの町の近くで奇妙な祠が発見された。至急、調査と安全確認をして欲しい』
というものだった。シギルはあの町のことを思うと手が震えた。だが、こんなこともなければ過去の闇を乗り越えることは出来ないではないか。この依頼を受ける事でマレンでのことを乗り越える。
シギルは容姿も大きく変わり、幼かった頃とは違い、肉付きは悪く、ひょろっとしていたので気づかれないかった。マレンの町で事情を聞くときにシギルは自分の名前をルーフだと偽っておいた。
かつてシギルを殺そうとした男の話によると
マレンの東で発見された古い祠の安全性を調査して欲しいということだった。
祠には魔物や動物が住み着いていたり、トラップや呪いなどといった事が起こる場合がある。それを傭兵に見て確かめてきて欲しいというのだ。本来ならばおかしい以来なのだが、シギルはこの6年で干渉魔法をある程度使えるようになり、建物の構造を把握したりすることに長けているため、そのような依頼を多く受けていたのだ。今回もその1つということになっている。
ただ、今回は問題が1つあるらしい。村の男が1人、単独で祠を調査しにいってしまったらしいのだ。
「わかりました。すくに見てきます」
シギルは祠に向かった。
町から出て15分も歩けばすぐに祠は見つかった。入り口は石出来ており、奇妙な文様が刻まれている。苔や蔦が入り口付近に付いているため見つかりにくかったのだろう。しかし石でできた入り口は風化した様子はなく、文様も綺麗に残っている。そのすぐ下に1人の足跡があった。人1人がちょうど通れるほどの大きさの入り口をまずは干渉魔法で触り、構造を確かめた。
作りはいたって単純で入り口だけ石で作られているが、中は人口の洞窟のようになっていた。
迷いなく祠の中に入って行ったのだが奥の少し広くなったところに行くと1つの人影を発見した。
その男は奥を見つめている。その見つめる先には黒い塊が浮いていた。そしてその黒い塊が少しだけ分裂し、男に侵入したのだ。
特に何も起こらなかったが男が振り向いた時、シギルに衝撃が走った。
その男には右足が無かったのだ。そう、かつてシギルをいじめ、足を崩壊させられた男だった。
その男はこちらを見て言葉を発したのだった。
「お前、もしかして、、、シギルか」
ビクリと反応してしまったシギルだが過去の恐怖を思うと当然でもある。無言でその男を見つめ、警戒しているのだがその男はどこかおかしい。
「やっぱりなぁ!お前のせいで俺がどんだけ苦しんだと思ってるんだ!右足がない俺は同じように働くことは出来ない、厄介者扱いだ!お前のせいで!お前のせいで!!!」
男は頭をかきむしり、怒りを露わにし始めた。その姿には迫力がありはしたが自然とシギルは恐怖を感じることはなかった。6年の歳月を経て格上になりすぎたのだ。
「まぁ、いい。俺は今最強の力を手に入れた。今ならお前の足を消してやることもできるぜ。こういう風になぁ!!」
そういう時その男、スオンは手から横に向かって闇の玉を打ち出した。壁に当たった瞬間壁の一部が闇の玉に削り取られ、消え去った。
「ははははは!!この力があれば俺は最強になれる!シギルゥ!お前の足も消してやるよ!!」
そういうとスオンはシギルの右足に向かって闇の玉を打ち出した。そして足に当たろうかという時。
ヌルリ
シギルの体内から出てきた魔力がその魔法を瞬時に消した。
「はぁ!?何をしたシギルゥ!」
「スオン、おそらくお前は俺には勝てない。やめておけ」
シギルは冷静だった。この6年で自動防御についてはしっかりと理解していたのでこれを防いでくれると分かっていた。その上で試し、案の定防いだのだ。
「クソッ!俺は、俺は最強だああああ!!!」
ドクン。
嫌な感じがした後、スオンの体から闇が溢れ出し、あたりを包み始めた。それはスオンの身体も例外ではなく、体から溢れた闇に消し去られてしまっている。シギルは干渉魔法に全方位を守られているので大丈夫だったのだが、その溢れ出した闇はなおを広がりを続け、祠があったとかは一帯を更地にした。
そこに残ったのはポツンと佇むシギルだけだった。
シギルはマレンの町に帰り、事の顛末を説明した。
まずスオンが闇の力により暴走を始め、祠一帯を消し去ったということを。
町の人たちはスオンが死んだだけで悲しんでいた。自分の時はあれだけ殺意を込めて迫ってきたのに。悲しみ、泣く人たちがいる光景を見てシギルは拳をぎゅっと握りしめ、感情を殺した。
そして目を細めた笑顔で一言挨拶し、マレンの町を出た。もうこの町に来ることはないだろうと思って。
この時シギルを見つめる少女の存在に気づいていたか居なかったかはまた別の話。




