昇格2
ドゴォォ!!
凄まじい轟音が響き、サラの右手が当たった地面は大きくえぐれている。
あんなのに当たれば一撃で首から上が粉々になってしまうだろう。
ユウはサラの拳を間一髪で避けることに成功していたがあまりの威力に勢いよく飛んできた小石がユウの頬をかすめた。
「ほう、今の体勢からよくかわしたな!」
いやいやいやいや、かわせないと思ってたの?もし当たったら死ぬんですけど。『3番隊体験入団2日目の訓練中に事故死』なんてことになってしまうけどいいのかよ。しかも事故じゃないし、団長に殺されてるし。
ユウはさっきのサンダーを見て油断していた。この人も団員同様弱すぎるパターンかと思っていたらちゃんと強い。サラは身体強化と2属性の魔法を操る間違いなくエリートだ。
「じゃあもう一回行くぞ!サンダー!」
またサンダーを使ってきた。今回ユウは動こうとはしない。だが全く油断していなかった。しっかりと無属性の魔力で障壁を作っている。やはりサンダーは無属性の魔力にあたる寸前で今度は右に方向転換した。そして右から全く動かないユウめがけて電撃が走る!しかし電撃はユウの無属性魔力によって阻まれた。
先ほどと同様一気に距離を詰めようとしたサラだが、ピタリと身体が止まった。ユウを警戒したのだ。ユウは先ほどの失敗を生かし力技でサラのサンダーを攻略した。それは全方位に無属性の魔力の壁を発生させどこからきても防げるようにしたのだ。
「ほう、全方向とはなかなかやるな」
「次は僕から行きますね」
お互いに楽しんでいる。ユウとしても久しぶりだしサラも久しぶりに力を存分に出してできる戦い。滾るものがある。
ユウはサラへのお返しに面白いものを思いついた。
「サンダー!」
サラと同じ魔法だ。4属性を扱えるユウからするとサンダーなんて簡単に撃てる。そしてさっき見た方向を指定してのサンダーを試してみようと思ったのだ。
「同じ魔法とはな、舐められたものだなっ!」
そういうとサラも無属性の魔力を全方位に纏った。これを行うのはかなりの難易度だが、日頃のシギルとの対面で鍛えられているのだろう。ユウのサンダーを防ぐには十分だった。
電撃は無属性の魔力に触れる寸前で方向を変えた。しかしここからがサラとは違う。ユウの放ったサンダーは確かに方向を変えたのだがそれだけではなく、5つの電撃に別れたのだ。1つ目の電撃は最短距離でサラの後ろへいき、魔力障壁によって防がれた。しかし直ぐに2発目の電撃が同じ場所に飛んでくる。
「んなっ!!」
魔力による障壁は当たった魔法の魔力と障壁の魔力をぶつけることで相殺するものだ。しかしそれが連続で当たればどうだろう。だんだんとその部分の魔力障壁は薄くなっていく。
3発目、またもや同じ場所に当たった。そして4発目が当たった時、サラの魔力障壁に1つの穴が生まれた。
「甘いっ!」
穴ができた瞬間にサラの魔力障壁は全方位から穴の部分に集まってきた。そして5発目、今は塞がっているが穴があった場所に向かっていき魔力障壁に、、、
当たらなかった。当たる寸前で再び方向転換したサンダーはサラの右から直撃した。先ほどの穴を塞ぐために全方位の魔力障壁は解かれていたのだ。そしてユウはまたもや同じ行動に、サラの目の前まで一気に距離を詰めた。
「これでどうだ!」
ユウは右手を握りしめて上からサラの顔に向かって思いっきり振り下ろした。
「こんのぉ!!」
サラは身体を無理やりひねり、ギリギリのところでユウの拳を避けた。がしかし、地面をえぐったユウの拳はそのまま魔法を発動させた。
「サンドバインド!」
えぐられ、空中に浮いた砂や小石がまとまっていき、サラを絡めとろうとし始めた。至近距離での魔法の発動、身体強化により強化された敏捷性に2人とも思考が追いついている。その場にいる誰もがサラが負けたと思った。だが
「ッ!アクアウォール!エアロ!」
サラは自身の真下から水の壁を作り出し、エアロを自分に当てることで後ろに飛んで行った。自身にも少しダメージを負ってしまうが逃げることを優先したのだ。この判断は並の者にできる思考ではない。いくつもの戦いを経験してきたからこそのとっさの判断だった。
両者が再び距離を取った。ユウの服は背中の部分が少し焦げている。対してサラはローブの右に穴が空き、中の服が少し焦げていた。さらに先ほどのエアロの影響で所々ローブがほつれ始めていた。
「楽しいぞ、ユウ!久しぶりにこんな気持ちになった!」
「ええ、僕も楽しいです!でもまだ終わってませんよ」
お互いがお互いを認め合い、笑顔で話す。周りから見れば傷ついていることはわかるのにそれでも笑っている2人は異常に見えるのだろうか。
2人の戦いはまだ終わりではない。何方も気持ちが負けていないのだ。
「次が最後だ、私の最高の魔法を使う。受けてみろ!!」
くる!あのサラの本気の魔法だ。
さっきまでは詠唱を破棄することで瞬発力にかけていたが、サラは今回の魔法をスピード勝負にするつもりは無いらしい。
サラの詠唱を見るのは初めてだ。
「空を走り、地に衝撃を与えよ。」
ん?何か聞き覚えのある詠唱だ。レイラ達からいくつも詠唱を聞いていたユウは記憶の中を探り始めた。
明らかに聞き覚えのある詠唱文だ。これはもしかして、あの時にアリアとレイラが2人で発動させていた。
「大精霊の怒りを我が力に」
間違いない、空が局所的に暗い雷雲に染まり始めた。雨こそ降っていないものの、ゴロゴロと雲が怒りの声を上げている。
これはレイラが編み出した混成魔法、その名も。
「トールッ!!!」
その魔法は空と地面を一筋の光で繋いだ。
ユウはその魔法を知っていた。生まれて初めて見た混成魔法だ。覚えていないわけがない。それならば、
ユウが使えないわけもない。
ユウはトールを理解している。上からくる高威力の電撃にどう対応するのか、問題はそれだけだった。
方法はいくらでもあったがユウが選んだのは真正面から受ける。そして勝つ。これだ。
「よしっ」
一言ボソッと言い、切り替えることで自分の集中力を高めた。
ユウの身体強化には副産物としてあたりの状況が手に取るように分かる。というものがある。
そしてユウは上を見上げた。目を凝らし、気を張り詰め、集中する。
上空に溜まっている雷雲と電撃に意識を集中させるとその魔法を理解することができる。
ユウはサラが発動したトールを全て理解した。そして雷がユウに降り注ぐその瞬間、ユウは右手を上に挙げた。
「なっ!」
声を上げたのはサラだった。
ユウの右手は服の袖がなくなり、腕が丸見えになっている。そして右手の先には雷でできた球があった。
ユウはサラの魔法を全て理解し、トールが当たる瞬間に自身の魔力をサラの魔力に干渉させ、自身の管理下に置いたのだ。これはシギルが使う干渉魔法の力ずくバージョンで、思考には干渉できないが他人の魔力に無理やり自分の魔力を流し込み権限を奪うというものだ。
「おらぁぁ!!」
ユウは右手に溜めた雷の玉をサラに向かって投げつけた。
この方法はユウが魔力を無限に使えるからこそできた力技で本来ならば不可能である。
サラは先ほどの魔力障壁といくつかの魔法、身体強化、そしてトールを使った事でほとんどの魔力を使っていた。そのサラにトールと同じ威力を持つ玉が迫ってくる。
「こ、降参だ!」
雷の玉はサラの顔スレスレのところを横切り、数十メートル後ろの地面に落ちた。その途端、眠っていたトールが目を覚ましたかのように雷が天と地を繋いだのだった。
今のサラがあれを食らったら確実に死んでいただろうそう思わずにいられない威力だった。
「ははは、ユウ、お前、、強すぎだろ」
サラが使える最強の魔法をユウは力技で自分のものにしたのだ。負けを認めるしかない。サラはその場に座り込んでしまった。魔力の消費が激しく、立っていることが出来ないのだろう。
「ありがとうございます。サラさんも僕があった中で5番目に強かったですよ」
満身創痍のサラに対して、ユウはピンピンしている。魔力が切れることはないのでずっと身体強化を使っていたからだろう。
サラは自分が負けて地面に座はされているのにどこか清々しそうな顔をしている。自分の全力を出しきり、そしてそれを真正面から受け止めて、耐えるどころか魔法を奪われたのだ。悔しくないといえば嘘になるが今思えば負けて当然だと思える。むしろ久しぶりの全力で気持ちいい疲労だった。
「5番目かー、1番から4番は一体どんな奴らなんだ」
「1番から4番は僕に魔法を教えてくれた師匠達です」
レイラ、アリア、リオン、フェルト。この4人はやはり強かった。訓練中いつも少しふざけていたり、力を抜いていたり余裕を見せていたがユウはそんな時でも勝てる気がしなかった4人だ。
「師匠か、ユウより強いってことはこれ以上か、私では一生勝てんな」
団員達は2人の激しすぎる戦闘を見て口々にユウやサラを褒めている。
そんな中団員の誰か1人が拍手を始めた。すると1人、また1人と拍手が広がっていき、大きな拍手は勝ったユウを褒めるだけではなく、負けたサラを励まし、そして褒め称えるように続いた。
すると門の方から先ほどのトールの轟音を聞きつけた住民や、ギルドの人達、セントラルを巡回中だった3番隊の人が集まってきた、
「心配するな、これは訓練だ。より強い力を付けるために私が直々に行なっていたため、先ほどのような轟音がなってしまった!安心して持ち場に戻ってくれ!」
見に来た人達を一喝するその声は先ほどの子供が遊ぶ時のように楽しみ、疲れ果てていたサラを思わせない、3番隊隊長としてのサラだった。
そしてその隊長にユウは正々堂々と勝った。
この日、ユウはセントラル最強の4属性魔法の使い手へと昇格したのだった。




