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精龍の血  作者: 落ちこぼれた烏賊
セントラル編
23/40

4番隊隊長シギルの実力

「僕のこと知らんのかな?」


 こんなふざけた身だしなみも整っていない男があのサラさんと同じ魔法師団の団長格なわけがない。ルーシアさんもひどい人だ。「嘘をつくな」ぐらい突っ込んでもいいのに容認している。大体、サラさんからは強そうなオーラが伝わってきたのにこの男からはなんだ?微塵も感じないぞ。


「えっと、あはは、ルーシアさんもやめてくださいよ。この人が4番隊隊長なんて」


 反応に困ってしまう。だって二人とも真顔でこっちを見ているし、なんて演技力だよ。そこまでこのバレバレの嘘を突き通す必要なんてないだろう。この変な男シギルがかかとをザッザッとすりながらこちらに歩いてきた。それにしても「変わった魔力を持っている」と言われたが何のことだ。もしかして大気中の魔力を使っていることに気付かれたのか。この弱そうな男に?あり得ないだろ


「ふーん、信じてへんのか。まぁそうやろな。気づかれたら意味ないもんな!ははは」


 ――グニャリ――


「え、な、んだこれ」


 いきなり視界がゆがんだ。自分の脳が目の前の光景をしっかりと認識できなくなってしまったようにどこにも焦点が合わず男の顔やルーシアさんの体がグニャグニャに、曲がっていく。

 いったい何が起きたんだ。誰かの魔法か?

 ユウは得体のしれない魔法の可能性を考え身体強化を始めた。周囲の魔力と自信をなじませる。

 ユウはそれをすぐに感じ取ることはできなかった。ほんとうに極々薄い魔力の紐の様なものがシギルの左手からユウの体まで伸びていることに。


「くそっ!」


 ユウは思いっきり後ろに飛んだ。シギルという男から距離をとるとその魔力の紐はあっさりと消えた。しかし感覚が急に戻ってきたせいでユウの脳は対応でできずにバランスを崩し、着地に失敗した。地面に倒れたユウだがすぐに態勢を立て直しシギルのほうをキッと睨む。


(いない...?)


「あーあ、あかんあかん。君もう5回死んでるで。ちょっと変わった魔力持ってるけどど素人やな」


 声のしたのはユウのすぐ後ろだった。

 全く気付かなかった。また例のフラッシュという武技を使われたのだろうか。それにしても後ろにいるのに気付かないなんてことがあるのか。

 そんなことを思った瞬間この男が大きく感じられた。恐怖ととっさの判断で振り返りながら右手を振るう。ユウの身体強化により強化された右手は岩を殴るだけで粉々にすることができる。これが当たればこの男は死んでしまうだろうがそんなことはいまさら関係ない。ユウの中の危険信号が警笛を大きく鳴らしているからだ。

 やらないとやられる。

 さっきまで侮っていた男にそう思ってしまったのだ


「くっそ!」

「おっとーあぶないなーもうすぐで死ぬとこやったー。はい6回目」


 棒読みの中の棒読みで言ったシギルはユウの強化されているはずの右手を軽々と右腕一つで止めている。そんなはずはない。このレベルの強化をした腕をそんなに簡単に受け止められるはずがないのだ。「6回目」その言葉はおそらくユウが6回死んでいるといいたいのだろう。


「今『そんなはず無い』って思ったやろ。分かるでーその気持ち。でも身体強化を解いたらあかんな」


(は?俺は身体強化を解いてないぞ...!!)


 なぜかはわからないが身体強化が解けている。なんだこの男は。不気味だ。視界をグニャリとゆがめる魔法に相手の身体強化を解く魔法。そんなもの聞いたことがない。

 仮にあったとしてそんな相手にどう対応すればいいのだ。自分の意識の中では身体強化を行っているのに実は解けている。ユウが今まで学んできたことが全く通用しない相手だ。


(それなら、距離をとる)


 ユウはシギルから一気に離れた。さっきの魔力の紐、あれがこの違和感の原因だろうという予想から距離をとれば大丈夫だと思ったのだ。


「判断の速さはええけどな、今の君がそんなことしても意味ないで?なんなら魔法使ってみ」


 舐められたものだ。確かにさっきまでは相手の射程範囲内だったがここなら一発ぶち込める。


「ハリケーン!!」


 ユウはあたりの風を操り竜巻を発生させた。目標は離れたところにいるシギルだ。これで終わりだろう。そう思ったが何かユウの周辺の風が動き始めた。そしてユウを巻き込んで台風が巻き起こったのだ。風の刃に皮膚が切られていく。一瞬にして体中が傷だらけになりユウは膝をついた。すぐさまハリケーンを止めた。だがどうしてだ?確かにシギルのほうに魔法を放ったはずだ。なのにハリケーンが発生したのはユウのすぐそばだ。

 魔法の練習を始めた頃ならそういうミスもあった。しかし魔法の練習を積んできたユウは1cmのずれもなく、正確に魔法を使うことができる。それが今、誤差という範囲におさまらないズレが生じたのだ。


「ギルド長、その辺にしてください!ユウさんも落ち着いてください!」

「えー、今いいとこやったのにここで止めるん?ひどいなぁルーシアちゃんは」


 ルーシアが止めに入らないと死んでいたかもしれない。魔法は使えない。身体強化も使えない。そんなユウに何ができるのだろうか?ユウは気づいてしまったのだ。

『自分はこの人には勝てない』ということに。ユウがこれまで学び、練習してきたことはすべて無駄だった。そう思わせるほどにシギルは強かった。4番隊隊長としてふさわしい実力を持っていたのだ。ひょろい男なんかじゃない。


「ユウさん、大丈夫ですか。安心してください、ギルド長に1回目で勝てる人はほとんどいませんから」


 慰めだ。今の俺はみじめに見えたのだろう。当然だ。初めの攻撃には気づけず、拳は片手で止められ、自分で発動した魔法を自分でくらい、膝をついているのだ。相手には傷の一つも負わせることができていない。

 完敗以上の言葉が見当たらないから完敗というが圧倒的にユウの負けなのだ。

 呆然としてしまった。今まで自分の魔法を褒められて生きてきたので自分でも自信を持っていた。その自信をたった今折られた。それも完膚なきまでに。

 それと同時にユウはこうも思っていた。

『もっと強くなりたい』と


「とりあえず君の魔法師階級やけど暫定的に第5位ってことにしとこか。大丈夫や、君かなり強いで」


 魔法師階級第5位、それは魔法師団の団長格が第6位なのを考えるとかなり高い位置にいる。しかし満足できない。今のユウには何も満足できない。


「ありがとうございます。今日はもう帰ります。」


 暗いユウの雰囲気にニヤニヤするシギルと心配そうにユウを見るルーシアだった。


「すぐギルドカードをお持ちしますのでカウンターでお待ちください。」


 ユウは無言で試験会場を出た。そしてカウンターで魔法師等級第5位と書かれたギルドカードを受け取るとギルドを後にした。そのまま宿に向かった。宿は一泊で一人銅貨2枚だったのでセルグの町の2倍だ。しばらくはセントラルに泊まれるだけの金はある。ユウはしばらくセントラルにとどまることにした。

 自分が弱いことを知り、セントラルには自分よりも圧倒的に強い人がいることも分かった。自分も強くなるためにここにとどまることにしたのだ。いくつか考えはある。とりあえず今日はもう眠ろう。明日からここでのユウの活動が始まるのだから。


 その日ユウはぐっすりと眠った。試験での戦闘に疲れていたのかベッドに横になるとすぐに眠気が襲ってきたのだ。




 ドンドンドンドドンドン!!!!


 次の日の朝早く、ユウは不快な音を目覚ましに目を覚ました。ユウの部屋を激しくノックする音だ。

 なんだこんな朝早くから迷惑だな、無視してもう一回寝よう。その音が不快だといわんばかりに布団にもぐり寝ようとしたがドアの向こうから聞こえた声に飛び起きることになった。


「ユウ!!いるか!お前を魔法師団にスカウトしに来た!!とりあえず話を聞いてもらえないだろうか!」


 この遠くまで響く声、この声の主は忘れるはずがない。

 魔法師団3番隊隊長、サラの声だった。



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