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精龍の血  作者: 落ちこぼれた烏賊
セントラル編
21/40

ホーリーライト家

 今ネシアは何と言った?「龍の国の者が」そう聞こえたが気のせいだろうか。ネシアはフィアナが龍人族だと言うことに気付いたわけではないだろうが龍の国から来たことは完全に把握しているようだ。それに「審判の天秤は欺けない。」つまりさっきフィアナが石板をはめたことでネシアはフィアナが龍の国から来たと知ったのだ。

 警戒を強め、身体強化を始めたユウに対しネシアは声を放った。


「動くな!君のことも信用したわけではない。身体強化を解かないとこの子の首を飛ばすっ!」


 まずい、ユウが思っていたよりネシアは強い。それに筋肉だけではない。身体強化を見破られたのだ。魔力を感じる力を間違いなく持っている。まずいのはそれだけではない、フィアナが精神的にかなり緊張してしまっている。国交の断絶から龍の国と精霊の国は同盟があれど仲が悪いことがわかる。そんな時に明らかに龍の国出身の龍人でも現れたらちょっとしたパニックどころでは済まないかもしれない。


「痛いっ」


 ユウが思考を開始しているとフィアナの首元にあてがわれたネシアの持つナイフの先がフィアナの首を少し傷つけた。タラリと流れるフィアナの血を見たその時だった。

 ユウは自分の身体を流れる血が熱くなるのを感じた。

 暴龍の時ほどではないが血が意識を持ち始め、ユウの思考が冷静なものではなく、怒りに染まっていく。制御のできないものというわけではない。ただ、ユウの中にある怒りの感情が呼び起こされた状況だ。


「やめろ、フィアナを離せ」

「なに!くあっ!!」


 ヒョウヒョウとなる強い風の音と木製の個室がバキバキと破壊される音がギルド内に響く

 ユウが言葉を発するとほぼ同時にフィアナを守るように竜巻が起こった。ネシアは咄嗟に離れたがその風に巻き込まれ吹き飛ばされた。竜巻は個室1を破壊したがそれ以上に発達することはなく、静かに収まっていった。


 ギルド内の注目と警戒を一身に浴びるユウはフィアナを近くに抱き寄せている。


「大丈夫だよユウ、ちょっとびっくりしただけだから。ほら、もう血も出てないし。」


 フィアナの首には血を拭った後が付いていたがたしかにそれ以上血は出て来ない。「大丈夫だ」というフィアナの言葉を聞いた途端、ユウの頭にのぼっていた血は何もなかったかのように消え去り、冷静な思考を取り戻した。


「そうか、よかった。」


 自分でも驚くほどにフィアナのことを心配していたようだがその感情にユウは違和感を感じることができない。とりあえずはフィアナを守ったのだという認識だった。

 しかし問題はここからである。ギルド内の職員とそれ以外を含め、全員がこちらを警戒している。

 誰から動き始めるのか様子を伺っている状況だ。


「くっ、よくもやってくれたな龍の国の者。いや、龍の国の者達!!他の者は下がっていろ!敵う相手じゃない!」


 先程吹き飛ばされたネシアが起き上がり、周りの者達を制止した。ネシア本人はというと油断なくナイフを右手に構えている。その鋭い目はユウを捉えており一瞬たりとも目を離そうとはしない。対するユウも身体強化を行ったままネシアの方を警戒している。少し前にネシアが瞬間移動したように感じたが今のユウは大気中の魔力と自分の魔力を繋げているため遅れをとることはない自信があった。


「フラッシュ」

「は!?」


 ところが慢心というのは怖いものだ。ユウは大気中の魔力と自分の魔力を繋げているため、周囲のことをかなり繊細に把握することができている。だがそれでは見えないものがあった。それがこの「フラッシュ」という武技である。これは距離や速度こそ熟練度により違うものの思った場所に瞬間移動する武技である。ユウは何かが動いた時に影響される空気などからかなりあたりの状況を把握していたのだがネシアは辺りに何の影響も与えずにユウの後ろに瞬間移動していた。


「死ね」

「ユウ!!!」


 ギラリと光るナイフの切っ先がユウの命を刈り取るべく接近してくる。ユウは自身の能力に慢心し油断していたため反応がほんの少し遅れた。このほんの少しの遅れをネシアは見逃さなかったのだ。フィアナの声も虚しく、ユウはナイフを止める事が出来ないことを理解してしまった。


 ーー死ぬーー


 ユウは自身に迫り来る体格のいい女が持つナイフを未だに視界に入れる事が出来ていない。そこからも確実に自分がこのナイフにより殺される未来が見えるようだ。体感時間がゆっくりになり目まぐるしく思考が回る。何か出来ることはないか自分の使える魔法、技術全てを総動員してこの場を生き延びる術を考えていたユウは1つの結論にたどり着いた。

『炎迅』だ。ユウの身体強化に加え炎迅による加速、それが加わればナイフを回避できるかもしれない。しかし、あれをすればまた龍の力が暴走するかもしれない近くには大勢の関係の無い人達がいる。


(巻き込むのか?自分のために関係の無い人たちを)


 自分の中の善と自己を中心とした考えが戦いを始めた。人間、極限状態になれば誰でもそうなってしまう。生物として自己を守るということは大事なことでどんなことよりもまず自己を優先するようになるのだ。

 ユウは意を決した。

 龍魔法を使う。


 今、この場を生き延びるために。


 死んでたまるか。



「炎じ」

「2人ともそこで止まりなさい!!」


 あまりの声量に空気が、自分の耳がビリビリと痺れた。自らの意思の力ではなく、その言葉の力によりユウの言葉とネシアのナイフの動きは止まった。

 間一髪というところ、ネシアのナイフはユウの首を完全に捉えていた。これでは龍魔法を使っても生き延びる事が出来たかわからない。悔しいが、自分はこの人の声が無ければ死んでいたかもしれないのだ。


「危ないところでしたね。もう安心していいですよ。ネシアさんもその物騒なものをしまってください。大丈夫、ユウ君とフィアナ君は善ですよ。」

「し、しかし!この者は龍の加護を受けています。ここにいるはずがありません。」


 フィアナを指差して龍の加護を宣言したネシア。それを聞いた周りの者達がざわつき始めた。


「龍の加護持ちがまだいたのか」

「不法入国じゃないの」

「国交が断絶してるんじゃないのか」

「何をされるかわからんぞ」


 人々の中で噂が伝わり、その中でどんどんと脚色されてしまう。今この場がその噂が流れる原点になろうとしている。

 せっかくセントラルに来たのに龍の国の者であることがわかると普通には生きていけないかも知れない。迫害や差別があってもおかしくはないのだ。


「安心してください。この件については私が責任を持って解決しましょう。この私、アルバラン・ホーリーライトがホーリーライトの名に誓いましょう。」


 ホーリーライト家とは普通の精霊ではなく、特別な魔力、聖属性の魔力を持つ聖の精霊から加護を受けた先祖を持つ一族だ。聖属性魔法は使えるがそれ以外は全く使えないらしい。それほどまでに聖属性魔法とは強い魔法なのだろう。

 よかった。一先ず難を先延ばしにすることが出来た。

 これはとてもいいことで今後の対策を考える時間もでき、さらに先ほどの死を回避する事ができたのだ。

 ホーリーライト家現当主、アルバラン・ホーリーライトの言葉によって。


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