審判の天秤
道はわかりやすく、教会を出てまっすぐ進み、一番大きな道に出たら左に曲がるだけだ。セントラルに入った時に正面に見えたあの大きな建物がギルドというところだろう。道中、フィアナはまたフラフラと辺りの建物やお店に興味を示していたが「置いていくぞ」と一声かけるとすぐに後ろをついてきた。まるでペットのようだ。
二人は問題なくギルドの入り口についた。遠くから見てもわかっていたが近くに来てみると本当に大きい建物だ。入口は一つでとても大きい教会と同じで扉のようなものはなく、開け放たれている。中には結構な人がいたので田舎者のユウからしたら少し気分が悪くなりそうだったが身分証のためだ、周囲の人と比べると圧倒的に小さな体をしたユウは人ごみの中に入っていった。
「うわぁ、すごい人だね。ここがギルドかぁ、ってちょっと待ってよ!ユウ!」
「早くしないと暗くなるまでに宿につけないぞ」
ゆっくりと生きていくといったところだが、時間もゆっくりになるわけではないので急ぐところは急がないといけない。今はまさに急がないといけない時だ。夜になる前にここで身分証を発行し、宿につきたい。
ギルドに来たはいいもののどこに行けば身分証を発行できるのやら、さっぱりわからないがとりあえず奥に進んでいる。人ごみに慣れていないせいでうまく前に進むことができていない。
ギルド内は入り口を入ってすぐ左に掲示板がある。そこには数々の依頼が張り出されているようで人が群がっていた。右側は個室が3つ並んでいる。一つ一つの個室にだいたい10人ぐらいの人が入るだろう大きさをしている。それぞれの個室に1~3の番号があてはめられている。そして正面。5つある木製の受付窓口の向こう側にはそれぞれ女性が座っている。受付窓口のすぐ上には左から順に「依頼受付」「依頼受付」「依頼受付」「各種申請受付」「各種問い合わせ受付」となっていた。依頼受付ではないが申請か問い合わせか、さてどっちだろう。
「申請かな?身分証の発行を申請すればいいよな」
「いいと思うー」
ひとまず各種申請受付に行くことが決定した二人は人ごみをよけ受付に何とかたどり着くことができた。
「すみません。ここで身分証の発行ができると聞いてきたんですけどあってますか?」
「こんにちは、初めてセントラルに来られた方ですね。こちらでの身分証の発行ということでギルドカードを発行しますがよろしいですか?」
違和感のない笑顔となめらかな口調でスラスラと述べた彼女はユウ達のことを初めてセントラルに来たことを見事に言い当てた。あれだけ人ごみに動揺し、翻弄されていたところから予想されたのだろうか。「よろしいですか?」といわれたがこの受付の女性はもう確信しているのだろう。彼女の足元から一枚の紙を取り出し、ユウの前に置いて見せた。
しかし、ギルドカードとは身分証と違うのだろうか。
「えっと身分証は作りたいんですけどギルドカード?とはなんですか?あと作るのは二人分です。」
「二人分ですね、かしこまりました。」
そういって紙をもう一枚取り出した。その紙には明らかに「ギルドカード発行申請書」と書かれていたのでユウは紙を2枚要求したのだ。再び紙を取り出した受付の女性は無駄のない喋りと動きをしていてまるで機械と喋っているかのように感じた。日本でいうアンドロイドというやつだ。まぁこの世界にアンドロイドがいるなんて話は聞いたことはないが。
「続いてギルドカードの説明を始めますね。ギルドカードとは当ギルドにおいて所持者の職業及びその他すべての行いの正当性を証明するためのものとなっております。しかし犯罪や特定のトラブルを起こした場合は前言の内容は適用されず、登録は即抹消されます。こちらの書類に最低限指名をご記入いただき、あちらの個室にて手続きを行い、審査に通ればすぐに発行することができます。ほかに何か質問はありませんか?」
すごいな、正当性が証明されるということはこのギルドが登録者の行動すべてに責任を持つということか。いや、犯罪や特定のトラブルを起こすとそれは適用されないんだだったな。つまりいい人の後ろには立つが悪い人はすぐさま切り捨てる。ギルド自体に多少の責任は発生するだろうが基本的には所持者の責任になるシステムだ。
入り口右側の個室は何かと思っていたがこういう時に使われるのか、個室を使うことにより情報の機密性がより保たれるのだろう。よく考えられた機関だ。
「なるほど、わかりました。ギルドカード作成の手続きをお願いします。フィアナも同じ部屋でいいな?」
「うん、ユウに隠していることは何もないからいいよ」
「了解しました。それではこちらの書類をお持ちになって1番の個室にどうぞ、すぐに担当の者に向かわせます。」
ユウは2枚の紙を受け取り、礼を言った後1番の個室に向かった。
個室に入ると部屋の中央には左の壁から右の壁までまっすぐに繋ぐ長いテーブルがあった。そのテーブルのこちら側には5つの椅子があり、その2つにユウとフィアナは腰かけた。二人が座った後すぐに一人の女性がユウとは反対側の扉から入ってきた。その女性は受付の女性とは違い、体格のいい筋肉質の女性だった。
どうやらこの個室の裏はギルド内部とつながっているらしい。
「やあ、初めまして!君たちちっさいねぇ。私はネシアだ。今回君達の手続きを担当する。よろしくな」
豪快だ。体つきはセルグの町のバロに匹敵するほどに筋肉がついている。テーブルの向こう側にある木製の椅子に座るときに「ギシィ」と音を立てていた。さっきユウとフィアナが座った時には何の音もならなかったほどに丈夫な椅子のはずなのだがいったいこのネシアという女性は何キロあるのだ。肉弾戦になったらかなり強そうだ。
それを見たユウ達が少し固まったことにネシアはおそらく気づいたのだろう。
「ははは、正直な反応だな。ここで暴れる人も少なくないのでね、私のように多少戦闘能力がないと務まらないんだ。そんなに怖がらないでくれ、これでも傷つく乙女の心は持っているんだぞ?」
「あ、すいません!こちらこそよろしくお願いします。」
「だ、だめだよユウ、そんな反応しちゃ」
ネシアから出た「乙女の心」というワードにも納得できないがフィアナの言葉のほうが納得できない。お前も固まってただろう。というかユウよりも露骨に「でっかい」って顔に書いてあったくせにユウに対して注意し始めたのだ。どう考えても理不尽である。しかしこのでっかいネシア女性もまたフレンドリーな感じでよかった。ユウの周りにはこういう人が多くて助かる。
「さて、こっちも仕事中だからね。さっさと手続きを始めようか。ほい、君たちが作るのはギルドカードだからね。一応適性も測らないといけないんだ」
そういって取り出したのは秤、天秤か?と一辺が5センチほどの薄い正方形の石板だった。
「えっとこれはなんですか?」
「これは審判の天秤。君たちが魔法か剣かどちらに適性があるか判別してくれるものだ。まずはこの石板に触れてくれ」
そういってネシアが前に差し出してきた物は小さな石板。これに何の意味があるのかわからないがユウとフィアナは一枚ずつ石板を持った。すると少し石板に魔力を吸われたような気がしたがほんの少しだったのでどうということはない。普通の人ならこの少しの違いを実感できない。ユウだからこそ感知することができたのだがそれに気づく人はこの部屋にはいない。現にフィアナはきょとんとしているのだから。
「よし、じゃあ1人ずつこの天秤に置いてみてくれ。あ、そこじゃない皿の上じゃなくて台座のほうに置くんだよ」
「ああ、こっちですか」
天秤の台座には石板を丁度はめることができる穴があった。そこにパチッとはめると天秤が動き始めた。右の皿には剣と盾の模様が、左の皿には※の・のところにそれぞれ火、水、風、土を表す模様が刻まれている。おそらく右が剣、左が魔法の適正を表しているのだろう。石板から台座を一本の光の線が、天秤の支点にあたるところまで続きそこで消えていた。
グラグラと二つの皿が動いたかと思うと左の皿がトンッと台座にあたるまで皿をつるしていた糸が伸びた。
「おお!えっとユウ君だね、君には魔法の適性がかなりあるようだね、こんな天秤の反応は見たことがない。うん。君は魔法師だな。」
どうやらこの審判の天秤は下がった皿の方に適性があるというもののようだ。ユウが置いた石板に反応し、魔法のほうの皿が大きく下がった。皿を吊るしている糸は伸び縮みするため、本来の天秤の使い方はできないだろう。
この審判の天秤により、自身の適性を知ることができる。さらにその者が何を得意としているか一目でわかるギルドカードを作ることができる。という代物だろう。
それにしてもこの天秤といい石板にも何かの魔法が付与されているのだろう、すごい技術だ。
ネシアがユウの名前を知っていたのは2人がギルドカード作成申請書に名前を書き、既に提出していたからだ。
ネシアはユウたちが提出した申請書にいろいろとメモをしている。
「次はフィアナちゃんお願い。」
フィアナもユウと同じく石板を台座にパチッとはめた。
・・・
少し待っても何も起きない。ユウの時とは違い光の線も起きない。
「フラッシュ」
「ひぃっ!」
ネシアが小さな声でつぶやいたと思うといつの間にかフィアナの後ろに立っていた。フィアナは弱弱しい悲鳴のようなものを上げた。ネシアの右手にはナイフが握られていて切っ先はフィアナの首元にあてがわれている。ネシアの目は今すぐにでもフィアナを殺しそうになっていた。
ユウは圧倒的に反応が遅れてしまった。いつもなら魔力の流れを感じ、すぐに反応できている。油断していたとはいえもはやユウは反射的に身体強化をするような体になっているのだ。それなのにまったく反応できなかった。これじゃあまるで瞬間移動だ。
「油断していたようだな、どうやって忍び込んだか知らないが審判の天秤は欺けない。何をしに来たか吐け、龍の国の者が!」




