善か悪か
「ここは真実の間。この部屋に入った者は思考、発言共に偽ることはできず、真実を述べるしかない。しかし、発言は強制するものではない。いいかいユウ君、フィアナ君」
「「はい」」
この部屋に入った者は何も偽ることができない。それが本当ならアルバラン本人も言っていることは嘘ではないだろう。そんな考えのもとアルバランの問いに迷いなく答えた二人にサラは質問を開始した。
「ユウ、お前はセントラルの門の前でなりそこないに襲われたことに間違いはないか!そしてなりそこないを拘束した。その発言に嘘はないか!セントラルに来た目的は龍の国に行く馬車に乗るため、その発言にも嘘はないか!」
「全て本当のことです。間違いも嘘もありません。」
その質問にユウは堂々と答えた。それもそのはず、ユウは元から嘘など一つもついていないのだ。
ユウが質問に対して回答をすると真実の間の紋様たちが激しく光を放ち始めた。そしてそのまま何もなく光は収まっていって再びさっきまでと同じ明滅を開始した。その光景を初めてみたユウは何が起こっているか理解できなかったがアルバラン、サラは別だったようだ。
「ユウの門前での発言は全て真実のようだな。」
「うむ。ここ、セントラル大精霊教会真実の間にて、ユウ君の善は証明された。拘束を解いてあげなさい。」
ふぅ、アルバランの発言により、ようやく何も拘束がされていない状況で壁の内側に立てたユウ。何か凄い久しぶりな気がする。軽く伸びをして身体が自由に動くことを確かめた。
「次にフィアナ、ユウの同行者で同じく龍の国に行く馬車に乗るためにセントラルに来た。それは嘘ではないか!」
「はい!間違いありません」
フィアナもサラに同じ質問をされたがユウの返答を見て心の中で練習していたのだろうか。今回は何も噛まずに言葉を発することができている。
ユウの時と同様、部屋中の文様が輝きを放ち、そのまま光が収まった。どうやらフィアナも善であることが証明されたのだろう。
「セントラル大精霊教会真実の間にて、フィアナ君の善は証明された。彼女の拘束も解いてあげなさい。」
こうしてようやく2人共拘束を解いてもらうことができた。フィアナは自分が先ほどまで拘束されていたため特に罪を犯していないのだが、気が弱いせいかかなり緊張していた。ようやく自由になり安心したのだろう。表情がかなり柔らかくなった。
「2人とも、拘束してすまなかったな。真実の間にて2人の善が確認された以上これからはもう疑うことはない。だが理解してくれ、疑わしい者を簡単に街に入れることは出来ないんだ。」
「いえいえ、サラさんの言いたいことは理解できます。それに今回の費用も負担していただいてむしろ感謝していますよ」
ユウ達は身分証を持っていない。普通ならセントラルに入るために銀貨2枚を払うところを真実の間に通され、その費用をサラに負担してもらったため、結局のところタダでセントラルに入ることができたのだ。これはユウがなりそこないを拘束していたことに対するサラからの礼でもあるのだが、かなりお得な気分になっている。だってそうだろう、ここセントラルがセルグの町と同じ物価なら銅貨2枚で一泊することができる。銅貨100枚で銀貨1枚なので銅貨200枚分の得だ。つまり宿に100泊できる結構なお金なのだ。
とはいえ、田舎町と大都会を比べた時に同じ値段で泊まることはおそらくだが不可能だろうから、「セルグの町で」と付け加えておこう。
(早くお金を稼ぐ手段を見つけないとなぁ)
「ところでユウ君とフィアナ君は龍の国に行くつもりだったよね。残念だけどそれは今はできないだろうね。」
「アルバラン司祭様の言うとおりだ。今は龍の国に行くための馬車は出ていないし、ここセントラルから龍の国に行くことを禁止している。」
「ん?なぜ龍の国に行くことを禁止しているのですか?」
どういうことだろうか。「今は」というところからガノルさん達が言っていた「セントラルから馬車で行ける」と言うのは嘘では無いのだろう。しかし龍の国に行く馬車が出ていないだけでなく、行くことを禁止している。とはどういうことだ?
「それについては私から説明しよう。まず、精霊の国と龍の国は元々仲が良いわけではない。しかしお互いに戦争による侵略はしないということで同盟を結んでいる。それを目に見える形で象徴するものが国交なんだが、最近龍の国へ行く道中、襲われる馬車が後を絶たないんだ。これが龍の国の者の仕業である可能性を危惧し、セントラルはとりあえずの処置ということで馬車の運行を取りやめ、龍の国に行くことを禁止にしているんだ。すまないがこの問題が解決するまでは諦めてくれ。」
ということらしい。同盟を結んでいるのに自国に来る馬車を襲うのか?そんなあからさまな行動を一国が起こすはずがないと思うが、セントラルからの繋がりを一時絶っているところからセントラルとしてもまだ事件の実状を掴んでおらず、被害を抑えることを最優先に考えたのだろう。
それにしても被害を抑えるための行動が一時的とはいえ龍の国へ行くことを禁止にするとは、国家間の信頼関係はどうなっていることやら。精霊の国から龍の国へ行こうとしている身としてはいささかの不安はぬぐえないがユウが口を挟んでどうにかなるものでもないだろう。
「君たちが目的地へ行くことができないことはとても残念だが精霊の国はいい国だよ。特にここセントラルはみんなが協力して作られた街だからね、ぜひゆっくりしていってほしい。そういえば君たちは身分証を持っていなかったね。旅人において身分証がないのは致命的だろう。一度ギルドに行って身分証を発行してみるといい。きっと役に立つよ。」
「そうだった!ユウ、君はあのなりそこないを拘束していたな!是非、ギルドで魔法師階級も診断してもらってくれ。ユウならおそらく身分証の発行時点で高い魔法師階級になるだろう。」
ユウ達がこんなことになっているのは元はと言えばなりそこないのせいでもサラのせいでも門番のせいでもない。二人が身分証を持っていなかったからだ。これから旅をする上で毎回毎回拘束されたり、銀貨2枚を要求されていては面倒だ。ユウはギルドというものに聞き覚えはなかったが、身分証を手に入れることができるなら、行く価値はあるだろう。しかし知らないことをサラは言っていたな。
「えっと、身分証を発行してもらえるならギルド?というところに行ってみようと思います。それで魔法師階級とはなんですか?聞いたことがないのですが」
知らないこととは「魔法師階級」という言葉だ。階級という言葉と高いというところからおそらく魔法使いとしての強さや格を表すものかと想像できるが知らないことを自分の中だけで片付けるのは不安が残る。こう見えてもユウは慎重に事を運ぶタイプなのだ。
「それはセルグの町の人たちも言ってたよ。『ユウの階級はどれぐらいだ』とか『魔法第5位はある』とか言ってた気がする」
「ははは!魔法第5位とは大きく出たものだ。もしそれが本当ならユウを今すぐに魔法師団にスカウトしたいぐらいだが。すまないな、私も暇ではないのでそろそろ行かなくてはいけないようだ。門からの道をまっすぐ進めば正面に大きな建物がある。そこがギルドだから迷うことはないと思う。ぜひ行ってみてくれ。それでは司祭様、今日もありがとうございました。失礼いたします。」
「はい、サラ様もご苦労様でした。」
サラは大司祭アルバランに一礼をし、ユウとフィアナに笑顔を向けてから後ろを振り返り、教会を後にした。その一つ一つの動作は美しくいい家のお嬢様なのだろう。初めはきつく感じた性格も今では人当たりのいい美しい女性という印象に書き換えられている。仕事に熱心、礼儀を大事にし、人当たりもいい。さらには魔法師団3番隊の隊長で魔法もすごかった。よくできた人だなと思わずにはいられず。街中に去っていく後姿をしばらく見つめてしまった。
空は少し朱色に染まり始め、夕刻に差し掛かっていることを伝えてくれる。ユウはそんな淡い色に染められたこの街をきれいだと思った。前世にはなかった感覚だ。日本にもこんな光景があったのだろうか。ユウは昔のことを考え始めていた。あの頃は自分の人生に余裕がなく、常に何かに追われているような状況だった。しかし今は違うだろう。レイラや魔法を教えてくれたみんな、一緒に旅をして今は友達と言えるフィアナ、初対面なのに自分のために行動してくれたセルグの町の人たち、そしてサラさんやアルバラン司祭様。こんなにも素晴らしい世界で今ユウは生きているのだ。こういうきれいな風景を見る時間があってもいいのではないか、もっとゆっくり、今を大切にして生きていこう。
「アルバラン司祭様、ありがとうございました。僕たちはこれからギルドにいき、身分証を発行してから宿をとってしばらくセントラルでゆっくりしてみようと思います。いいよな?フィアナ」
「そうですか、わかりました。存分に楽しんでくださいね。また何かあれば遠慮せずに教会を訪ねてください。あなた達の旅が良いものになるよう願っておきましょう。」
「うん!私は大丈夫だよ。司祭様ありがとう!」
ユウはレイラに追い出されてから今まで常に動き続けてきたので新天地セントラルでゆっくりと過ごすことを決めた。二人はお世話になったアルバランに礼をしてからひとまずギルドを目指すのだった。




