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精龍の血  作者: 落ちこぼれた烏賊
セントラル編
17/40

セントラルに入れない

 

 メキ、メキメキキキキ!!


 大きな木が折れる音がすぐ近くでする。


「で、でたあああ!!!」


 まだ何も出てきていないのにフィアナはもうびっくりしている。


 ギイィィィドズンッ!


 折られた大きな木が地面に倒れ、大きな音をあたりに響かせた。早くセントラルに入らないと俺たちは食われてしまうというのにそこにいるすべての人の視線は音がなった方を向いている。あまりの驚きに全員の思考が停止してしまったのだ。セントラルまであと3組というところでスピードがガクッと落ちた。


「は、早くしろおお!!!大熊に食われるぞ!!!」


 ユウの前の男が大声で叫んだ瞬間、そこにいた人たちは金縛りが解けたかのように急に動き出した。


「おい!!全員すぐに身分証を用意しておけ!とりあえず全員の身分を把握して中に入れる!急げ!!!」


 門番をしていた人達のリーダーのような男が大声で叫んだ。

 するとさっきまでの渋滞は嘘のように前の2組はすんなりと門をくぐっていった。

 さっきまでの渋滞は身分証確認の後の荷物チェックのせいだったのだ。門番達はセントラルに入る人たちの荷物を隅から隅まで呆れるほどに確認していた。そのせいで進むのも遅くなっていたのだ。


「ほら!そこの坊主と嬢ちゃんも!早く身分証を出せ!」


「そ、そう言われましても…フィアナは?」


「も、持ってないですうう!!!食べられちゃううよおおお!!」


 ユウは身分証など持っていないしフィアナもどうやら持ってないようだ。これは困ったな。身分証とか聞いたこともないし。ガノルさん、教えておいてよ…


「そうか、じゃあ銀貨2枚だ!早く出せ!!」


 銀貨2枚もするのか、宿屋で銅貨2枚で一泊できて街に入るだけで銀貨2枚も。もしかしてこの人俺たちが世間知らずに見えたからここでぼったくろうとしてるのか?ユウはレイラから貰った大事なお金を無駄にしてはなるものかと疑い始めた。こういうぼったくりは、「私はあなたのことを疑っていますよ」という姿勢を見せるだけでもそれなりの効果があるのだ。


「あのー、身分証がないだけでそんなにするんですか?」


 みんなが必死になって急いでいるというのにユウは門番のことを疑い始めた。しかし、銀貨2枚というのはこの世界においては妥当か少し安いぐらいだった。身分の分からない者を街に入れてトラブルを起こされた場合、負担をするのは街の方である。そのための解決費用として銀貨2枚を回収しているのだ。

 そこを渋られた門番はたまった者ではない。


「はぁ!?当たり前だろ、身分がわからねぇんだぞ!払えねぇならすまんが街には入れられん!門を閉じろ!!」


 男は全速力で門の中に走って行って叫んだ、途端にさっきまで分厚い壁に開いていた小さな門の上から壁と同じ素材でできているこれまた壁が下りてきて門をふさいだ。すると壁と門の境目は消え、1枚の壁となった。おそらくこれはなんらかの魔法による者だろう。あの壁に対する信頼。壁そのものにも何か防御系の魔法が仕掛けてあるのだと予想できる。


「ちょ!ちょっとおおお!!ユウさん!?何してるんですか!閉じられちゃいましたけどおおお!!」


 そう、俺たち二人を残して門はビクともしなさそうな壁により閉ざされちゃったのだ。壁の周りには堀があり、そこを一本の橋を渡ることで中に入ることができていた。だが、今は橋の先が閉ざされているので意味がない。


「お願いです!あけてええ!!」


 フィアナは門の前で叫んでいるが向こうに聞こえているかも怪しい。

 そうこうしているうちに森に住む猛獣が今にも姿を現しそうだ。

 木々が倒されたことで巻き上がった砂埃が視界を悪くしているが、その奥に一つの大きな影が見える。それがさっきの人たちが言っていたような大熊ならば相当な大きさだろう。


 ユウは森の方を向くと右手を一つ、下から上に振り上げた。少しの風が起こったかと思うと砂埃は舞う速度と高度を上げていき、みるみる視界が良くなっていった。砂埃がはれた森に現れたのは大熊などではなかった。


「ん、人?フィアナ、下がっててね」


「ふぁ、ふぁい!」


 フィアナは緊張と絶望からかボクシングでも始まるのかという返事をしたがユウはそれ「聞き流してもう一度森の方を凝視する。

 大熊だと思われていたのは筋肉が異常に膨張したバランスの悪い身体。右手右足はこれでもかと筋肉と血管が浮き上がっているのに左足はか細く、左腕には筋肉は浮き出ていないが血管が浮き上がっている。

 目に白目の部分はなく、茶色と黒が入り混じっている。口からは涎のようなものが垂れており、近づきたくはない見た目だ。


「フィアナー、あれ何か知ってるか?」


 体のバランスが悪い人、「あれ」を知らないのはユウが世間のことに疎いからなのかもしれないという考えのもと一応フィアナ方を振り返り尋ねてみるが全力で首を振られた。


「そっか、、、」


 一瞬考えたユウだが、そのあとすぐに行動に出た。


「こんにちはー、あなたもセントラルに用事ですか?あいにく門しまっちゃいましたよー。はははは」


 接客時のように少し高めの声で気さくに話しかけてみる。相手は人間なのだ。話し合いで解決できるならそうするべきだ。さらには門が閉まって取り残されてしまったという笑い話付きだ。同じ取り残され仲間として仲良く行こうじゃないか。ユウはこのトークで相手の心を掴んだことを確信して心の中でガッツポーズした。


「ぐぅぅ、あ゛あ゛あ゛!!」


 どうやら話は通じていないようだ。

 いや知ってたよ。

 通じないだろうなって思ってたし。

 右手を顎に当て、次の策を考えているユウが次に見た光景はすごいスピードで距離を縮めてくる()()だった。


 あっという間に目の前まで近づかれたユウは油断して少し目線を外していたがバランスの悪い人(以下バラ人)が振り下ろした右手を横に飛ぶ事で軽々とかわしてみせた。

 さすがのユウも自分のことを襲ってきた相手に容赦するほど甘くはない。ユウは右手をバラ人に向けて拘束系の魔法をすぐに放った。


「サンドロック!」


 これはフェルトから教えてもらった土属性の魔法だ。

 ユウが言葉を放った瞬間、バラ人の足元の砂が舞い上がり始めた。その砂達がバラ人を囲んだかと思うと太くて丈夫なロープのように繋がり、バラ人を締め上げた。足に2つ、胴体と腕を3つ、合計5つの砂の塊に締め上げられたバラ人はそのまま地面に倒れた。

 しかしこの魔法はこれで終わりではなかった。砂の塊が地面に触れた瞬間、砂の塊と地面の接地面が合体し、バラ人はその場に拘束された。


「ふぅ、意外と早く動けるんだなぁ。それにしてもなんだこれ?人間…だよな?」

「ゔぐゔぅ!!ゔあぁあ!!」


 必死に拘束を解こうとするが解けることはない。砂浜で友達に埋められたことがあると思うがそれを想像してほしい。しっかりと固められたら自分の力で抜け出すのは無理だろう?今のバラ人はそんな感じだ。

 拘束したはいいが人のような見た目の()()を殺すのは気がひけるしかといってここに置いていくのもおかしいだろう。

 うーん困ったなぁ。フィアナはポカンとしているし。。。

 足や手をツンツンしてみたりどういう生き物か観察しているとゴゴッという見た目の割に小さい音を鳴らしてセントラルの門が開いた。


「動くなっ!!一歩でも動いたものは黒焦げになると思え!!」


 開いた門からとても遠くまで通りそうな声が響いた。

 フィアナもユウもその声に反応してピタリと止まった。バラ人はユウの拘束により元から一歩も動かことはできない。


 門から出てきたのは白いローブを着た黄色い長髪を持つ美しい女性だった。身長は170cmほどだろうか。ボディラインはローブで全く見えないがキリッとした目鼻立ちと輪郭から弛んだ生活を送っていないことが想像できる。アリアのように着崩しておらず、キチッと服を着こなしている。ローブの下から覗くパンツはローブと同じ白。右手には先端に黄色の水晶をつけた長めの杖を持っている。

 その女性の後ろには紫のローブを着た男女5名が見える。それぞれが1本ずつ杖を持っており、今にも魔法を放ちそうな勢いである。


「お前か、身分の分からない銀貨2枚を渋ったやつわ!大熊はどこへいった!ん?なんだその地面に埋まりそうなやつは」


 ユウの方をキッと睨み大熊の場所とバラ人のことを同時に聞いてきた。銀貨を渋ったことと身分証がないことまで知られているようだ。ここで下手をすると最悪セントラルに入れなくなる可能性があると感じたので全て素直に答えることにした。別に何もなくても素直に答えるけど


「初めまして、旅の者でユウと申します。大熊の正体はそこに倒れている奴でした。いきなり襲いかかってきたので一応拘束させて貰いましたが殺してはいません。銀貨については必要ならば払いますのでセントラルに入れてもらえませんか?」


 質問に対する正確な答えと自分は相手に従うつもりであるということを伝えるべく、言葉を選んだユウだった。フィアナのことは後回しでも大丈夫だろう。実際あいつは無害だし。


「なるほど、だがその年でこいつを拘束したなどとお前のことは信用できん。私たちの拘束を受け入れると言うのなら、教会で真実の間にて潔白の証明をさせるチャンスをやろう」


 かなり警戒しているようだ。こいつの速さを知っているからこそ、ユウが拘束したと言うことを信じられないのだろう。つまりこの人は、バラ人のことを知っている。

 ユウは他にセントラルに入る手段がないと考えたので拘束を受け入れることにした。


「わかりました。拘束を受け入れます。そこにいる少女フィアナも僕の同行者ですので一緒にお願いします。」

「はひぃ!大丈夫です」


 フィアナの了承は取るまでもない。街の中に入れるなら喜んで拘束されるだろうことはたとえ短い時間しか一緒にいないとはいえわかることだ。


「了解した!だがまずはそいつの拘束を解いてもらおう。そのままでは何もできんからな」

「こいつは動きがとても速いのですがいいのですか?拘束を解いた途端に逃げられる可能性もありますが」

「それはお前が心配することではない。早く拘束を解け」


 ずいぶんな物言いだ、どうなっても知らないぞ。あのスピードはユウが追いつかないような速さではなかったが果たしてこの女性が追いつけるのか?それに後ろの魔法使い達も…そんな心配がよぎるが上から目線で命令されたのだ。最悪、危なくなれば守ればいい。そんな気持ちでユウはバラ人の拘束を解いた。

 パラパラと固まっていたはずな砂達が砕け粉々になった。


「ゔっ?ゔぉあ!!」


 拘束が解けたことに気がついたバラ人はなぜか再びユウの方を向き襲いかかってきた。ほらー、これが1番嫌なケースだよ全く。結局自分が戦わないといけないんだ。そう思ったその時だった。


「ファストスパーク!」


 白ローブの女性が魔法を放ったのだ。それは本当に一瞬だった。そこにいた人の何人が見えただろうか。白ローブの女性の足元から地面に沿って電気が走り、バラ人の真下まで来ると途端に跳ね上がり、バラ人はその電撃を受け、ユウの目の前で黒焦げになっま。それほど高圧の電撃があの一瞬で流れたのだ。

 ユウは寒気がした。あとほんのちょっとずれていたら自分に当たっていただろう。そして黒焦げになっていた。あの速度に自分が反応できるか?100%反応できると言う自信はない。これまでで少しついてきたユウの自信が、今の魔法1つでポッキリと折られたのだった。


「ふんっ、3人はあいつの回収に回れ!残り2人は身分不明のものを拘束しろ!教会に連れて行く。」

「「「「「はっ!」」」」」


 ユウとフィアナは両腕を後ろに縛られてそのままセントラルに入ることになってしまった。この、白いローブの恐ろしい魔法の使いに牽引されて。







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