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精龍の血  作者: 落ちこぼれた烏賊
序章
14/40

暴走

 

 ユウは炎を体に纏うことに成功した。その時、明らかにこれまでとは異なるモノを感じた。おそらくこれが気の流れだ。ユウは体内を隅々まで流れる血のように自分の気の流れを感じた。


「これが気なのかな」

「もしかしてお前も龍の国から来たのか!?」


 国について詳しくはないがおそらく精霊のほうだろう。生まれてからこれまでこの龍魔法を見たことがなかったからだ。


「よし、やってみるか」


 ユウはこの男に言われた岩に近づいて右手を触れた。手に、さっき炎を纏ったときのように意識を集中する。繊細な力加減がいると思っていた。いつもの魔法、精霊魔法を使うときはうまく魔力をまとめないと発動すらしてくれないからだ。

 慎重に行っていてよかった。そう思ったのは集中してすぐのことだった。体の中の血が自分の意志で動いているかのように暴れ始めたのだ。ついさっきまで感じることすらできていなかった自分の中の『気』という存在。それが想像をはるかに超える量、体中をめぐり始めた。

 ユウは額に汗を浮かべながら顔をゆがめ必死で暴走を抑えていた。


「くっ!なんだよっ!これっ!!」


 手はとっくに岩から離している。膝をつき身体中を流れている血を力尽くで制御しようとしているのだ。服を握りしめる手に力が入りものすごい力で歯を食いしばっているのだろう、口からは血が滲んでいる。その時だった


『ドクンッ』


 それはユウの心臓の音ではない、なにかが目覚めた事を辺りにしめすかのように空気の波がユウを中心に広がって行った。


「くっ!うぅ、うぁぁあああ!!!!!」


 大地と空気が揺れ、悲鳴をあげるかのごとく地面が割れ始めた。ユウの周囲の小さな石は浮きはじめ、今起こっていることがただ事ではないことがよくわかる。


「ニ、逃ゲロ」


 その声はユウの口から出たがユウの声ではなかった。暴龍の一団の拘束は完全に解けている。しかしそのユウの声に反応したものはいない。そう、先ほどの空気の波に直に触れ、意識を手放していたのだった。






 その頃セルガノル邸では…




「おい嬢ちゃん、あいつ階級いくつなんだ」


 長く続いた静寂を破ったのはこのバロの一言だった。

 ユウがまさか空も飛ぶことができるとは少しも思っていなかった3人は目と口を大きく開いたまましばらく硬直していたのだ。


「階級?なんですかそれは」

「あれだけ魔法が使えるのよ、きっと魔法第5位以上でしょうね」

「魔法第5位は間違いないだろう。」


 フィアナの質問には答えることなく、大人達3人の会話は進んで行く。

 魔法第5位や階級、そんな言葉は聞いたこともなかったフィアナは会話についていけず首を傾げている。


「嬢ちゃんは階級知らないのか?まぁ龍の国から来たんだもんな仕方ねぇ」

「あのね、ここ精霊の国にはギルドというものがあるの。動物を狩るにも商売をするにもこのギルドに登録しないと何もできないのよ。そこで一定以上の成果があると階級ってのが上がって行くんだけど、ユウ君の階級聞いてないの?」

「聞いたことないです。」


 フィアナを覗いた3人はユウから最近旅に出たばかりということしか聞いていない。


「そういえばユウ君は旅を始めたばかりで初めてき たのがこの町って言っていたわね。」

「そういえばあの坊主そんなこと言ってたな。」


 2人が記憶からユウの発言を引っ張りだしてきたことで驚いていた心を少し冷静にすることができた。


「よし、ユウ君は大丈夫だろう。そろそろセギルさんも落ち着いているだろう。応接室に行ってみよう。」

「そうだった!あの爺さんにキチッとケジメつけねぇとな」


 さっきまでの心配はどこへ行ったことやら、ユウが空を飛ぶのを見てそんな感情はその通りどこかに飛んで行ってしまったのだろう。




 ガチャリ。


 ドアが開く音に反応して中にいた1人の男が体ごと視線をこちらに向けてきた。今日、風の魔導書を使い、町唯一の宿に大穴を開けた張本人、セギルだ。


「、、、、」


 セギルは黙りこくっている。しかしそれは悪い傾向ではなかった。さっきまでは呪文のような独り言をブツブツと呟いていて、決して話せるような精神状態ではなかったのだ。それが今は少し落ち着いているのがわかる。

 バロもそれを察したのだろう。あれだけ怒っていたがここはガノルに任せると腕を組み、口を閉じている。ガノルのことを相当信頼しているのだろう。


「セギルさん。つい先程、あなたが風の魔法を放った少年に娘さんのことを話しました。」

「!?」


 驚いたと書いてありそうな顔をするセギルを前にガノルは続けた。


「彼はそのことに心を動かされ暴龍の撃退に向かいました。彼はかなり強い魔法使いだ。心配はいりません。私が保証しよう。もうわかるでしょうセギルさん。。。ユウ君が帰ってきたら一緒に謝りましょう。しっかりと生きてください。」

「うぅ、セシルは本当にいい子だったのに、」


 セギルはうなだれ、涙を流していた。今まで娘がもういない事を必死で忘れて暴龍を殺すためだけに生きてきたのだろう。長い年月をかけ、ようやく現実を受け止められたようだったがその現実は妻と娘を両方失うという酷いものだったのだ。

 応接室にはしんみりとした空気が流れ、バロももう怒ってはいない。同じ町の住人が一歩前へ進めたのだ。これだけで十分ではないか。

 感動すら感じていたが突然、空気と地面が揺れる。恐ろしいほどの力を感じそこにいた人たちは警戒態勢に入った。


「な、なんだこれは!一体何が起こってるんだ!」

「クソ!せっかく落ち着いてきたのに次はなんだ!!」


 ガノルはセギルをバロはリリーを庇う態勢に入っている。だがその時急にフィアナが立ち上がった。


「ユウだ。ユウが危ない。」


 急にフィアナが呟いた。視線がフィアナに集まり、周りの3人、ガノル、バロ、リリーは違和感を感じた。これだけの力を肌に感じていながらフィアナが龍化していない。それどころかこれまで見てきた中で特に冷静でこの力の元がユウだと断言したのだ。


「それは本当なの?フィアナちゃん」

「行かなきゃ。」


 フィアナはリリーに懐いていたはずだ。だが、そのリリーの言葉を無視してフィアナは走りだした。

おかしい、今のフィアナは冷静などではない。どこか狂信的にユウの元へ向かおうとしている。


「待て!危ねぇぞ!嬢ちゃん!」


 フィアナを先頭に走りだし、応接室を出て廊下を走り、家から出た。

 もうすぐでバロが追いついて捕まえることができるという時、フィアナを少しの風が纏った。そしてフィアナの背中から立派な一対の翼が生えていたのだ。


「「「なっ!」」」


 そのことに気づいた時にはもうフィアナの体は宙に浮いていた。

 そして次に訪れたのは空気の波。体には触れずに心を攫っていくかのような波だった。それには暖かさなどかけらもなく。ただの『力』だけたった。別の言い方をするならば暴力が相応しいだろう。

 そして次の瞬間セルガノル邸から見えるほど、ユウの行った方の森を中心に大爆発したかのように光のドームが出来上がっていた。それはかなり広範囲で危うく町をも巻き込む勢いだった。その爆発の風圧で町の門は倒壊し、いくつかの家の屋根や扉は吹き飛ばされている。いくつかの吹き飛ばされた物がフィアナの体を掠め、ガノルたちからも鮮血が見えたがフィアナは痛みを感じないかのごとくただただ飛んで行った。

 幸い、爆発や風圧はすぐに収まり、ガノル、バロ、リリーの3人はすぐにフィアナが飛んでいった方向に走っていった。


 町を抜け、森に入ろうとするとそこには大きなクレーターがあった。


「なんだこれは、星でも降ったのか」

「嬢ちゃん!坊主!生きてるかー!返事しろ!」

「いいえ、違うみたいよ。あそこを見て」


 リリーが指差したのはクレーターの中心。そこにはユウがフィアナに膝枕されながら眠っている。フィアナはというとどうやら座りながら意識を失っているようだった。

 あたりには草のかけらすら残らず、最も深いところでは4メートルほどの深さまで綺麗に地面がえぐられていた。

 ユウの服は破れているが傷の1つすら見当たらない。この状況を見て3人は1つの考えにたどり着いた。


「も、もしかしてこれ全部この坊主がやったのか?」

「付近に誰の気配もないから、おそらくね」

「とりあえず私の家まで2人を運ぶ。バロ!手伝ってくれ」


 こうして、ユウ、フィアナはセルガノル邸まで運ばれていった。










 ユウは夢を見ていた。

 空では龍と呼ぶにふさわしい牙、爪、翼そして大きな体を持つ動物と人のような体だが少し色が薄い身体で蝶のような綺麗な羽を持つ生き物が飛び交い争っている。地上を見ると死んでいるのか気絶しているのか。いや、おそらく前者だろう。多くの死体が転がっている。

 あたりに人間らしき人間は見当たらない。

 そんな光景が永遠と続く、まさに精霊と龍の戦争といえよう夢を見ていた。

 その中に龍の中で1匹、精霊の中で1匹、お互いに神々しい光のようなものを放つその中では異様な2匹がいた。その2匹だけはユウの存在に気づいているようにこちらをずっと見ていた。


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