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血縁

蒼凌は私を一瞥すると、無造作に枯れ枝を折って火の中に投げ入れた。

「そう言う以上、お前はあれが何者か知っているわけだな」

「まあね」

私は肩をすくめた。


私も、前から知っていたわけではない。省烈に書簡を送った時点ではまだわかっていなかったが、それから更に背後関係を調べて貰っている間に、ふとその可能性に気付いたのだ。

気付いた瞬間、正直呆れた。


「蒼凌のことだから、最初から知ってたんだろう?知っていて傍に置くなんて、いつか命を狙われるとは思わなかったのか?」

私が言うと、蒼凌はなんでもないことのように答えた。

「当然、その可能性は考えていた」

だろうね。

「だが、野放しにする方が危険だ。気付かないふりを装っておいて、あちらが動いたら押さえればいい」

「先手を打って消そうとは思わなかったんだ?」


私が発した言葉に、蒼凌以外の全員がぎょっとしたようにこちらを見る。普段の私からは、こういう過激な発言が想像しにくかったのかも知れない。

蒼凌は、じっと私を見ている。私も、その目を見返した。


「……王に警戒されている状態では、愚鈍を装うのが適切な手だ」

「そうだね」

ましてや、王は何も知らないにせよ、王に近しい者達が差し向けて来たのならば尚更、ということなのだろう。もっとも、彼らも自分達の持ち駒がどれ程の価値を隠しているかには気付いていなかったようだけれど。


ぱちり、と焚き火がはぜる。それに気を取られた時、蒼凌がぼそりと言った。

「しかし、お前はよく気付いたな」

蒼凌はかなり調べあげた上に推測も交えて彼が何者か判断したらしい。私は苦笑した。

「わかるよ。可能性に気づきさえすれば。だって」


そう、だって。

私は蒼凌に目を向けた。


「よく似てるじゃないか」

灰色の瞳が、僅かにすがめられる。

「……そうか?」

「そうだよ」


青みがかった黒髪も。

灰色の瞳も。


「……俺は、あまり似ていなかった筈なんだがな……兄上とは」


詠翠が、ぎょっとしたような目でこちらを見る。そちらに視線を返して、蒼凌は呟くように言った。

「あれは、我々の甥に当たる」

「あ、兄上……それは……」

「当時既に成人していた兄上は、正妻はまだ定めていなかったが、幾人かの妾を持っていた」

詠翠の問いにすぐには答えず、蒼凌は語り始める。

「乱の後、彼女らは実家へ帰された。そのうちの一人が……」

ぱちり、と火の粉がはぜる。

「身籠っていたということだな。そして、人知れず子を産んだ」


不幸なことに、と言うのは残酷かもしれないが、その子は男の子だった。


「彼女の実家にはその子を密かに育てるほどの力はなく、懇意にしていた有力貴族に頼った……のだろうな。推測だが」

そして数年の後、その貴族はその子を王の側近の地位を夢見る大夫達に紹介する。本当の血筋は伏せ、ただ蒼凌に恨みをもつ手駒として。


「で、では……」

思わずといった風に発せられた索興の声が震える。彼は同じ王族の従者として、接点も多かったのだろう。

「私に、危害を加えてくるだろうか?」

詠翠もどこか沈んだ声で言う。私と蒼凌は視線を交わした。

「雪鴛本人には、王位への執着は無いように見えたが……今出てくるということは、何か目的があるのだろう。用心は怠らないことだ」

「そうだね……雪鴛にその気が無くても、その背後にいる人間が何かを企んでいる可能性は十分にある」

私は蒼凌の言葉に続けてそう言ってから、立ち上がった。

「宮中では武力行使をしてくることはないと思いますが、何かを仕掛けてくるのは間違いありません。お気をつけください」

それだけ告げて、その場を後にする。

恵玲達ともよく打ち合わせておかないと。




鴻宵を見送って間もなく、詠翠達も幕舎へ戻った。その場に残った春覇は、気にかかっていたことを蒼凌に問いかける。

「背後にいる人間、と鴻宵は言いましたが……見当がついているということでしょうか」

蒼凌は春覇にちらりと目を向けてから、厳しい表情を見せた。


「お前も、わかっているだろう」

目の前の炎を睨み付けるようにして、低く言い放つ。

「朱宿に嫌疑をかけられる程の炎……それを起こせる人間を、我々は知っている」

春覇は言葉に詰まった。

数度唇を開閉して、それから漸く声を舌に乗せる。

「ですが……そんな」

「あの男と鴻宵の間に何があるのか、我々にはわからない。鴻宵が何も言わない以上、我々に今できることは無い」

蒼凌はあっさりと言い切り、立ち上がった。


「明日も働いて貰うことになる。もう休め」

話の終わりを態度で示す蒼凌にそれ以上何も言えず、春覇はただ黙って一礼した。


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