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救い主と揺蕩う夢

 ここで、鴻宵が如何にしてここに現れるに至ったか、またそれまでに水面下で起こった数々の事柄を語らねばなるまい。

 時は鴻宵誅殺の場面に遡る。


 王宮で無数の矛に囲まれて、鴻宵と漣瑛は意識を失った。その後、先に意識を取り戻したのは漣瑛である。


 彼は、全身を揺らす振動と耳元を過ぎ去る風の音の中で目を覚ました。何かに乗って移動しているような感覚だが、彼の体躯の下にあるのはややごわごわした毛皮の感触だ。状況が掴めずに身じろぎしかけた彼は、己の腕の下に一回り小さな体があることに気付いて一気に覚醒した。

「将軍!」

 漸く頭がはっきりとして、先程の一幕を思い出す。


 自分は生きているのか。

 何故。

 ここはどこだ。


 数々の疑問が湧き上がる中、彼が真っ先に確かめようとしたのは主君の安否だった。血に塗れた小柄な体は冷え切って、ぐったりとしたまま動かない。


「おう、目が覚めたか」

 不意にどこかから声が聞こえて、漣瑛は身を固くした。鴻宵を庇うように抱きかかえてから、改めて状況を確認する。そして、愕然とした。

「これは……」

「おっと下手に動くなよ。落ちるぞ」

 どうやら、彼と主君は大柄な獣の背中に乗せられているようだ。しかも、先程から話しかけてきているのは、どうやらその獣らしい。

「どういうことだ。どうなっている?」

「わかった。説明してやるから動くな。いくら俺でも二人乗っけて走るのは少しばかりきついんだ」

 灰色の毛色をしたその獣は、漣瑛のいる位置から見える耳の形や走り方からして、どうやら狼の類のようだ。但し、随分大きい。


「まずはっきり言っとくが、俺はお前達の敵じゃない。今回はそこの将軍さんを助けるように言われたんだ。まったく、いくら差し迫ってたからって俺一人で救出劇をやれなんて人使いが荒いぜ」

 やけに人間臭い嘆息に毒気を抜かれて、漣瑛は肩の力を抜いた。意識を取り戻したとはいえ、彼の傷も浅くはないのだ。緊張が解けると、一気に疲労が押し寄せてくる。

「あの場から、どうやって……」

 眠気に似た疲労に力を奪われながら、漣瑛は疑問を口にした。

「兵士に紛れて、お前達を運び出したんだ。お前達が他の兵士に息の根を止められる前に、特殊な薬を塗った武器でお前達に切り付けてな」

 どうやら、二人を仮死状態にして他人の目を欺き、死体として運び出したらしい。

「……無茶を……感謝する……」

「落としやしねえから寝てろ。お前も重傷だ」

 漣瑛は腕の中の華奢な体躯をそっと抱き寄せ、再び目を閉じた。




 目の前に広がるのは、真っ白な空間だった。


 ここを、私は知っている気がする。

 前に見たのは確か、夢の中だった。


 その白い空間に、やがて滲みだすように何かの情景が映る。それは私の知らない、それなのに酷く懐かしく思えるものだった。

「変わった走馬灯だな……」

 死の間際に見る走馬灯は、これまでの自分の人生を顧みるものだと聞いていたけれど。


「人生を見るという意味では、間違っていないと思うよ」

 不意に背後から声をかけられて、私は振り向いた。


 そこに立っていたのは、「私」だった。

 でも、「私」ではない。

 確かに私だけれど、髪型も、服装も、表情も違う。


「あんたは……」

「私が話すより、見て貰う方が早いと思う」

 とん、と、彼女の指が私の額に触れる。


「行ってらっしゃい」


 私の意識は、白い空間からどこか違う場面の中へ、滲むように溶け出して行った。


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