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宵越しの茶  作者: 雪間
遠望テレスコープ
2/5

もくぜん




実技のとき一緒になるからごまかしが利かないのでおとなしく保健室で1時間ほど睡眠をとってから授業を受けた。

万全ではないが及第点だろう。第一おれの及第点なんて普通の人の満点に等しいからへいきだ。こういうこというと方々から殴られるので言わないが。






この世界には魔法が存在する。


……ついでに魔物も。

ただ暮らすぶんに魔物なんてお目にかかることはないけれど。街から街への移動も公共交通機関を使えば最悪体当たりで蹴散らして進むぐらいのことはできるし。



普通の人間に魔物は意識されないものとなった。どころか、魔法そのものすらただのスパイス、習い事の一つ程度の認識だ。異端扱いがないことは良いことだが。いや、過去にはあったことだが若い人間にとっては無縁の話だ。



因みに今魔法職ではアート系が盛んだと聞く。魔法はその必要性、日常性を科学に取って代わられている最中だ。なくてはならなかった存在もいつかは消える。唯一無二であり続けるには別の何かを排除し続ける必要がある。それでは魔法は発展しても人は成長しないだろう。

だから、仕方ない。


戦闘職だって本当は科学に任せられるはずだ。実際交通機関は体当たりで蹴散らせるわけで。

とはいっても30代にして職を失うとか怖いからやめてほしい。恐ろしい。まあ本気で怖がっているわけではない。魔法は長い歴史ゆえに余裕がある。科学はまだその余裕がない。戦闘に口出しするよりはまだ地盤を固める時期。

おれが退職するまではそのままでいてくれるといいけど。




そんな心配がありながらもわざわざ魔法を選んだのはただの酔狂だ。完全に。

適性があってほぼ確実に合格できて主な就職先の給料がいいとかもういくしかねぇぐらいのしょっぼい理由なのである。給料がいいのはその危険性故だということも承知の上だ。お金はあって困るものではないし死んだらその時。


で、ようやく本題な訳だが。ここまでいえばわかるだろうが先ほど話していた男……やっぱり恋人とかいったほうがいいのだろうか?あまり分からないが。茅ヶ崎の言ったテストというのはもうわかるだろうが魔法のテストだ。おれも彼も戦闘科なので、要はそういうこと。

今回のテストは今後に多いに影響を与えるお遊びでないテストだ。

茅ヶ崎が普段よりもわかりづらい言葉遣いになったのもそういった緊張があるのだろう。無論学生なので死ぬことはない。が、今日は戦闘職についている人間を呼び出して護衛兼試験監督としてつけ実際に外に出て行う討伐テスト。今までも教師が魔法で作り出した魔物を倒す訓練は積んできたが学校として外に出すのは初だ。三年間授業をこなし、そして最後の関門として本当に使えるか、ふるい落とす。本気でだめだったら三年という時間と金を棒に振るはめになるもの。


とにかくそういう大事なテストの目前、目と鼻の先だというのに体調が万全でなさそうなおれを心配したという次第だ。一応二人で動くがチーム点ではないから足引っ張るとかそういうこともない。おれの心配。ちょっときゅんときたのはないしょ。




服を着替えて会議室へ行く。何故会議室なのかというのはおれも謎だったのだがもはやこの部屋会議室などではなく魔防を担当する教師の根城になっているらしく、いい広さがあるから空間転移のために使われているだけらしい。ネームプレート変えて魔防科教師の準備室にでもすればいいのに少なくともおれが入学してからずっとこうだ。


「集まりましたね。……おや、菅瀬くん。1時間目は保健室ですか。次にも回せますが?」

「お心遣い感謝します。ですが大事をとっただけですので問題ありません」


この先生誰だっけ?なんて関係のないことを考えつつきっぱりと申し出を断る。全員を一気に受けさせられない都合上、受けていない生徒は通常授業を行なっているため教師はいつもの担当でない。別にいつも教わっている教師の顔を覚えていなかったわけではない。

しかし。過保護だ。いくら明暗をわけるものとはいえ。……いや下手をして死なれても困るだろうが。


今回の授業でテストをするのは五組。二人組はおれたちだけだ。上限は五人なので当然といえば当然か。

人数も含めての提案だったのだろうな、と断ってから気付いた。

すでに何度も聞いたテストの注意を再度聞いて試験官の説明に移った。おれたちについたのは武内という今回来た試験官の中でいちばん位の高い人間らしい。筋肉隆々のこわもてだ。すごい、秋といえど結構冷えてきたのに二の腕ぐらいまでまくってる。制服の前めっちゃあいてる。たぶん中のTシャツ半袖だ。

若干の畏敬を抱きつつ説明が終わってようやく茅ヶ崎と合流する。説明を受けるときはクラスがちがうから場所が遠いのだ。


「コンディションは」

「悪くはないですよ、ふつう」

「ならいい」


仏頂面。表情を隠そうとするとこうなる。彼は感情を隠すのが下手くそなのだ。

それでも、いい、とかいいながら心配しているとでも言わんばかりの顔をする人間よりは付き合いやすい。後腐れがないのは楽だ。


その後その武内試験官も来てとりあえずはと最低限の挨拶を交わしたところで教師から号令がかかる。移動するらしい。

空間転移などせずともいけるが二時間で終わらせる必要があるためか、空間転移の魔法になれさせるためかこれで移動する。

船酔いに似た感覚を味わうものが多くこれでへばられても困るから、というのは大いにありそうな理由だ。

順番に入っていく。時々つっかえってちょっとうざい。通るだけで怖じけづくな。

と思ったら茅ヶ崎も少し止まった。


「お前もか……」


ぽつりともれた一言だったが仕方ねぇだろ、と逆ギレされた。きゃんきゃん子犬ちゃんになった彼をほっといてさっさとくぐる。魔法の渦。濃い密度の魔法に囲まれると人は魔法酔いを起こす。慣れていないものは特に。


しかし。おれには関係のない話。

もともと魔法適性がずば抜けて高かったから入った学校。自分の魔法で酔い続けて体調不良が通常装備だったおれにいまさら効きはしない。

とりあえずあたりを確認する。茅ヶ崎が来る前に索敵魔法ぐらいは放てるだろうな。

魔法の膜を広げていく。未だ体内の魔力生産量と保有量が噛み合わずつねに魔法を使っているおれにはさほどの手間ではない行為。いつもは体の上に膜をはって触れられる前に気づくためのもの、なのだが。索敵には便利。


「……うえっぷ……」


こんなふうにグロッキーな彼の存在に不意を打たれることもないので索敵も便利だ。


「武内試験官どの、ずいぶんかかったようですが、こいつどうやって渋ったんです?」

「おお、いやな?心の準備がとかどうたらいうからケツ蹴って突っ込んだ」

「途中まで聞いたんですね」

「お前は聞かねぇらしい!」


今度からは問答無用だな、と茅ヶ崎にとっては死刑宣告にも等しいだろう言葉をがさつに笑いながら言う。あわれ。


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