あくむ
おおまかにしか決まってない見切り発車なので、タイトルに相応しくなれる、といいなぁ。
何度でも言いますが平然とBLしてます。どうか苦手な方はご注意を……!
花が咲く。咲き誇る。
ひどく美しい、赤い花。
一瞬咲いてすぐ消えた。
目を開く。何度か瞬きを繰り返して、また目を閉じた。ふう、と大きなため息。
あんな夢を見るとは思わなかった。……いや、必然か。
昔から度々夢を見た。未来に起こる現象の先見。所謂予知夢。
世界滅亡の危機、とかは流石に見たことがないが国が滅びそうぐらいならみた。子どもの頃だったし何もできなかったが亡国にはならなかったのでおれ以外にも何人かは星詠みがいるのだろうということは感じさせる。
まだ学生であることや様々な事情もあって大々的に動いたことはないがそれでも細々とできそうなことだけやっていた。やはりあまり気持ちのいいものではないのだ、見過ごすというのは。いつまでもいつまでも頭にこびりついて離れない。無論ひとの行く末をそんな気持ちのいいものじゃないからと勝手に変えていくことの罪もなんとなく理解はしている。結局何かを変える、ひとの不幸を除くには別のひとが不幸になるほかない。
そのままでは五人を引くトロッコを見ていたという事実に耐えきれなくて一人を殺すためにレバーを引く。おれはひとを助けた、引いた先も見ずに次第に忘れていくのだ。それを罪と言わずしてなんと言おうか。
そんな夢の中で、時折ひどく個人的な夢をみた。予知夢だったのかすら疑うような。こんなひとが神サマ的に生きていてほしいと思わせる何かをするのだろうか、という疑問を抱かずにはいられないぐらい平凡なひとが死んでしまう夢。もちろん赤の他人。
不思議に思いながらも場所が分かれば避けさせようとはした。それで何度目かに、バレた。知らない人に。
――君は不思議な夢をみたことがあるかい?
その人曰く。その個人的な夢はご褒美なんだそうだ。普段ありのようにせっせと働く星詠みたちへの。自身に起こる災厄を時折流してくれるのだという。
今回の夢は、それだ。
しかもおれ宛。
ご褒美を与えるだけの働きと認められたのか、それとも単純に悲運を嘆いてくれたか。
どちらにせよ吉報とは言い難い。
はああぁ。なんでこんな目に、とばかりのため息がもれた。
「寝不足か?」
開口一番。
言葉にされるとそうかもしれないとか思うんだよスルーしてくれ。あまりにも理不尽な要望を思いつつも彼の顔を見る。いけめん、だとは思う。まあ、ひとの顔は普通と美しいの差がわからないから完全に他の人(主に女子)が言っていたという補正も入っているのだが。
しかし。
そんなにひどい顔をしていただろうか。いや別にそこまでではないと思うのだが。おれの顔に気付いてか顔色悪い、と言葉を付け足す。
「……えぇ。ちょっと」
「大変だな」
「いえ別に……。でも甘やかしてほしいです」
「どっち」
くくく、と喉を鳴らすように笑った。無防備で無邪気なこの笑顔は結構好きだ。
スカした態度に隠れた寂しげな本性。弱々しい強がり。
可愛らしいと思うのに時間はそうかからなかった。
とはいえ知り合うきっかけですら彼側からのアプローチだった。そもそもおれは彼のことを知りすらしなかったので当然である。正直なところ同じクラスの人間でさえ名前と顔が一致しないことが多いおれに接点のない男を把握しているはずもなかった。
そんなおれたちだったがどこで目をつけたというのかいつの間にか図書室に来るようになって、毎日訪れて最後までいると思えばおれが図書室に行って最後まで残らず帰ると彼も大抵似たような時間に帰っていた。
「その本、面白いのか」
出会いの瞬間である。
図書室で話しかけてくるやつ初めてみたとか思っていたが流石にこの時ストーカーしていると思わないし今的には別に自分が好意を持っている人間の行動だしそれほど咎めることはしない。さすがに全肯定するほど恋愛にうつつ抜かしてもいないが。
それから、人付き合いの苦手さはどこに置いてきたのかゆったりゆっくり、気長に距離を詰めいつのまにか昼食を一緒に摂るようになっていた。見ている側的には水と油なのでちょっとヒヤヒヤするらしい。
「そこどけ邪魔」
「はい?すみませんが聞こえませんね。もう一度、はっきりと、明瞭に、頼んでいただけますか?」
「はん、その顔の横にあるもんは飾りかよ。ただの穴か?使えねぇもんならむしっといたほうがまだ見苦しくないと思うぜ」
会話の一例である。仲の悪い人間の会話ではない。恋人同士の会話。これで。別に偽装のためではない。これが素なのだ。
おれたちは本質が似ている。大抵の言葉を普通に受け止められる。いちいち凹むような人間では彼としてもやりづらいのだろう。性格を直せというのはもっともな指摘だが難易度が高いこともまた事実。それにおれが口を挟むことでもないし、彼のことは彼が一番考えているだろう。口出しは不要。
詳しく言葉にせずとも伝わる相手というのは、楽だ。そういった相手があれば踏み出す一歩はそこまで悩みぬくほどのものではなくなるだろう。確実に帰って来られる場所があるならば。
とはいえ依存しすぎれば危険極まりない相手であるのは確か。しかしある程度の距離感を保ちさえすれば。
と、思っていた時期がおれにもありました。
という言葉はたぶんいちばん当てはまる。初めこそ付き合ってなどいなかったはずなのだ。ずるずる流されているようなそうでないような。よくわからない。
とはいえ関係が変わろうともふたりとも意地っ張りなのかなんなのかいつか見たゲームの殴り愛(誤変換ではない)にも等しい雰囲気は消えなかった。
大事なようで、そうじゃない。いちばん雑に扱う相手。
……いや、大事なんだろう。こんな夢に取り乱すぐらいだから。
「……おい。本当にへいきか?」
「……はい?」
「今日テストあんだぞ。足引っ張んなよ」
学校ついたら保健室行け、かな。
「ご心配痛みいります」
適当に笑ってやりすごす。げんこつでぽこっと殴られた。ちょっといたい。