同居人
時を超えた愛という題材で書いてみました。
他にも悪魔たちや、妖精など伝説の生き物も登場します。
長い目で見てください。
「人」を捨ててでも愛する人を助ける事、あなたにはできますか?
魂を失っても救いたいものはありますか?
戻れない道をあなたは歩むことが出来ますか?
何かの為、誰かの為に人生を投げ捨てる事は出来ますか?
東京都内のとある高校、蔦鷹高等学校の最終下校時、一人の少女が誰もいなくなった廊下をコツコツと歩いていた。
半袖のシャツに学校指定のスカートと、通学カバンを手に少女は廊下から階段を下って下駄箱で靴を履き変えている。短い黒のショートヘアのその少女は静かな学校の校門を出た。
私の名前は荒佐木雪
高校生活がスタートして3か月が過ぎた夏の日。親の仕事の都合で一人暮らしを始めたが、バイト禁止の高校に通っている為親からの資金援助で暮らしている。親は二人とも共働き。基本的な仕事は夫婦そろって弁護士事務所を経営している。今は沖縄のほうで長期の仕事があるためそっちにいって、ほかに預かってくれる人もいないということで一人暮らしをさせられている。正直親がいないのは楽といえば楽だ。成績だけはしっかりしていれば小遣いもくれる。耳鳴りがするほどのミーンミーンと鳴く蝉の声が頭にガンガン響いてイライラする。家は学校から徒歩5分バスで10分程度のところ、1Rの10畳ほどの広さはあるマンションに住んでいる。ガラス張りのエレベータからはいつも通り、毎週いつも通りの土曜の街が見える。が、家に帰ればいつも通りなんてなくなる。通学カバンから鍵を出してドアを開けるとヒンヤリと冷房が強く感じられた。
「お帰り雪。」
部屋の奥でベッドに横たわっている私を呼ぶその男は悪魔。
うちには悪魔が取り憑いている。
銀色になびく艶やかな長髪に白く透明感のある肌、金色に輝く眼。悪魔の翼はカラスのような羽根で蝙蝠のそれとは違う。
そして聖なる十字架を嫌う悪魔が山羊のように剃りあがった角に十字架のネックレスやアクセサリーを、合わせて7つはしている。冷房をガンガンきかせているのにワイシャツ一枚に黒いズボン。
「....。デイルさん、冷房をいったい何度にしてるの...?」
「18℃と出ているが、何か問題があるの......」
「大ありだよ!!電気代一体いくらになると思ってるわけ!?冷房だってお金なんだよ!ただじゃないの!」
そう言うと雪は冷房を止めた。
「何をする!折角帰ってくる時間を見て冷やしたんだぞ?」
「大きなお世話です。扇風機で十分代用できます。」
家に取り憑いているこの悪魔はデイル・ランディロッド。821歳の半分悪魔で半分人間の男。
そもそもこの人との出会いは今から2か月前になる。
学校の帰り夕食の買い出しの為にスーパーの帰りに会った。
「ハァ...あともう少し早かったらお豆腐買えたのに、流石はタイムセールに群がるおばさんパワー。恐ろしい...今日は簡単に野菜炒めにしておくか。-あれ?」
雪の視線の先には道路の先の電柱に寄りかかる銀色の髪をした長身の若い男がいた。
どう見てもかなりの美形で雪はついつい見とれていた。
例えるなら白い朝露を浴びた薔薇のような、人間離れした姿だ。
「きれいな人...俳優さん、かな?」
男は雪と目が合うとスッと目の前に現れた。
車が通っている道路をまるで風のようにスッと。
「うわっ!え?今どうやってー」
男は雪の手を握りしめてじっと目を見つめた。
金色の瞳は蛇のように鋭く吸い込まれる程の魅力でそれと同時に、雪の心を覗いているようだ。
「あ!あの!」
「......アレッサ...?君なのか...?」
一瞬私は、は?と思った。それ以前に目の前でこんなにかっこいい男に手を握られて、新手のナンパかと思っていた。
「あの...人違いです。私アレッサなんて名前じゃないんですけど。ていうか、あなた誰?」
「私は悪魔のデイル・ランディロッド。」
「は?悪魔?...なんかの口説き文句ですか?もしかしてホステスとかですか?警察を呼びますよ!」
「事実だ。私は悪魔だ。」
「付き合ってらんない!あなたバカじゃないの?中二病みたいなこと言って。」
「おい!」
雪はデイルに握られた手を振りほどくと小走りで離れたが、前を見ず突っ込んだのは車道、横を振り向くと大型トラックが大きなクラクションを鳴らしてこちらに突っ込んでくる。
死んじゃう...否。本当に死ぬ。
いかがでしたか?
この次の2話もよろしくお願いします。