イリーガル☆ポエマーズ
禁詩法が制定された中世ヨーロッパの片隅から物語は始まる。
失業して飢えたストリートポエマーが街道に溢れ、都市の空気は鉛のように重く沈んでいた。
「この街も変わっちまったな」
俺の独白に反応する男が一人。
「だが、君は変わらない。たとえ、お上が君を追放しようとね」
試すような口ぶりで前方を歩いていた男は言う。
品の良いジャケットと小綺麗なシャツが、いまのこの街の暗さには似つかわしくない。
「それで、わざわざ俺を牢から連れ出して一体何をさせようっていうんだサレット卿」
ナロウ・B・サレット男爵。それが男の正体。
お互い若い頃はソーシャルジャスティスストリートポエムバトルで競い合ったものだが、それぞれが別の道を歩み始め疎遠になった。
サレットが貴族社会の一員として花を咲かせる一方、俺はアンダーグラウンドの競技ポエミングに心血を注いでいた。そんな俺が特高警察に捕まったのも当然の流れと言える。
「まずは出所祝いをしてからにしようじゃないか」
サレットに連れ出されてから、ずいぶんと路地裏を練り歩いた。表通りほどではないが、時折倒れたストリートポエマーのなれの果てが目につく。きまぐれに俺が10ポイントを放り投げると、まるで家畜のように集まってくる。とてもじゃないが、同業者のそんな姿を見てはいられなかった。
それからしばらくして、目的の店は入り組んだ路地裏の陰にひっそりと姿を見せた。
くすんだ真鍮製の看板には「七の輪」と書かれている。
無言で店に入って行くサレットを横目に、俺は看板を人差し指でなぞった。油の乗ったほこりが指にこびりつく。長いこと手入れをされていないのか。その割に店内から漏れる声は盛況そうだ。
内装は小洒落たバーのようで、薄暗い間接照明だけが店内を照らしている。
カウンターに佇んでいる初老の店主がグラスの水滴をぬぐいながらこちらに目礼した。
「個室を」
ここはサレット卿、貴族としての息の掛かった店らしい。
張りつめた空気がただの酒場ではないことを物語っている。異質なニオイが立ち込めている。異分子を警戒しているのか、店のあちこちから値踏みするような視線を感じるからかもしれない。ここのところ特高警察による検閲が厳しいのも確かだ。
「ブランデー。それからカルビ三種盛りを頼む」
「畏まりました、ヴァン・サレット男爵閣下」
サレットは目配せして俺の注文を促す。
「スコッチを。あとは鳥三昧セットで」
それから運ばれてきた酒を一気にあおる。
「安心していい、よほどの大騒ぎさえしなければ特高警察が来ることは無い」
「さっきの話だが」
俺は牽制して話を切り出す。ここで店員、火鉢をドン。
「俺に詩を書けっていうんなら、お断りだ」
サレットの目を見つめながらも、俺の右腕はノールックでカルビを取って焼き始める。
「待て、まだ君には何も話していないだろう」
ここでサレット、机をバン。衝撃で焼き目のついた肉がひっくり返る。奴は中々のテクニシャンだ。
「それに俺は、二度と詩を書かないと決めたんだ。俺の詩が、大切な人を傷つけてしまった過去は変えられない」
かつて俺と共に過ごし、そして俺の元を離れていったあの人。
片時だって忘れたことは無い。一緒に焼いた肉の枚数だって覚えている。
俺は大切に育てている牛タンを箸で牽制しながら呟いた。
肉汁が火鉢に垂れて、ジュウッと食欲をそそる音が広がる。
「君自身は気付いていないのかもしれないが、君はそこらのストリートポエマーとは違う。彼らはただポイントを求めるだけの弱者であり、君はコンテンツを与える側の強者だ」
サレットは肉を睨みつけたまま、あえて話題を逸らす。
俺は黙って牛タンをひっくり返した。表面に浮き出た脂が火を煽る。隣のロースを炙り過ぎないよう端にずらすと、サレットはすかさず隙間に鳥をねじ込んだ。コンマ0秒の早業。思わず舌を巻く。
「今の私なら君を枢密院に送りこむことだって出来なくはない。手段は問わない。なんとかして禁詩法を変えたいんだ。何なら、そのきっかけを作ってくれるだけでもいい」
第一弾のハラミがそろそろ頃合いだ。サレットの注意をそらした隙に、俺はスナップを利かせて箸をスウィングした。風圧によってわずかに浮いた網が勢いのまま時計周りに180度回転する。キマッた。チェス盤返し。俺の前にあった焦げ付き始めのヒレと、サレットの前にあったハラミの位置が見事に入れ替わった。策にハマったサレットが慌ててヒレを救出している間、俺は悠々とハラミを確保する。
「私だって禁詩法なんてクソクラエだと思っている。だがなあ、今の私の立場ではそんなことを表立って言うことは許されんのだ」
トングで牽制しつつ新たなカルビを育てる。鳥モモに箸でブラフをかけ、サレットの視線を誘導することも心掛ける。
本命のカルビは決して渡すつもりなどない。
ふつふつと肉の脂が弾け、いい塩梅に網目模様が刻まれていく。
サレットもカルビの存在を捕えたのか、目線でプレッシャーをかけてくる。
「それがあんたの本音か」
炙られた肉が鮮やかに色付き、俺とサレットはその味を想像し同時に舌鼓を打った。
「若い頃の私達を思い出してみろ。あの頃は良かった。陽が昇ってから暮れるあいだ、心身ともに限界までストリートポエムで殴りあったあの頃だ」
物寂しげな心境を漏らすサレット。しかしその視線は片面がうまく焼けたカルビから一瞬たりとも離れない。
「悪いが、他を当たってくれ」
それでもサレットの視線と箸先はカルビを捕えて離さない。
「つれないこと言うなよ頼むよマジで一生のお願いだからもう言わないから今日だけだからお前しか居ないんだから何とかしてくれよおおおおおおおおおおお」
肉汁が滴り、カルビの攻防は更に過熱する。瞬間、飛び散った油が手の甲にかかって俺は思わずぶち切れた。
「クソクソクソクソうるッせえなあッ、俺は今カルビ育てンのに忙しいンだよ焦げでも食って壁に向かってずっと喋ってろクソボケ!」
「私はああ!! 私はあああああんん!! 絡み酒なんだよおおおおおおウオワアアアアアアアアアアアAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「貴様等そこで何をしているッッ!!」
特高警察! 一体どうしてここがバレたんだ!
入口からは騒ぎを聞き付けた警察がぞくぞくと入ってくる。
いまだ絶叫しているサレットを警察にぶつけ、俺は店の裏口に向かって駆け出す。
しかしその逃げる途中で、取り押さえられながら必死に叫ぶサレットの魂の言葉が聞こえた。いや、聞こえてしまった。
「君は確かに、誰かを傷つけてしまったかもしれない! しかしそれでも、君は君自身と向き合って、受け入れて、カルビを焼いて、覚悟を決めて、そんなどうしようもないと思っている君自身と共存していくしかないんだ! なぜなら君がそれ以外の生き方を知らないから! 全てを捨てて詩に注ぎ込んだ君の人生を、せめて君自身は見捨てないでやってくれ!」
その言葉を聞いたからには、突きつけられたからには意識しないわけにいかない。
俺の脳裏には過去の後悔とカルビがフラッシュバックしていた。
大切な人を傷つけてしまった、そのカルビが作詩を妨げる。
しかしそれでも、サレットは俺に詩をカルビという。
このままじゃどうしようもないってカルビくらい頭では分カルビっている。
背後からは特高カルビが押し寄せ、悠長にカルビっているカルビなんて無い。
今はただカルビることしか出来ない。
ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう! 俺に一体どうしろっていうんだ!
俺は、この街は、カルビは一体どうなっちまうんだ!
俺は逃げる。特高警察から。
警察A「曲者じゃ! であえ! であえ~!」
警察B「ハチノス(※1)にしてやる!」
―― タンッ!ッターン!(※2)――
「奴ら、テッポウ(※3)まで持ってやがるのか…っ! 直線上はマズイ(※4)」
路地裏に入り左右交互に曲がって逃げる。そして時々ゴミ箱を倒し道を塞ぐ。挟み撃ちを避けるにはこれが一番安全だ。しかし、ソーシャルジャスティスストリートポエムバトルで鍛えた俺の肺活量では走るのに限界があった。
「AAAAHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!!!!! ぜぇっ…ぜぇ…」
気がつくと足音は一人分しかない。一先ずは特高警察どもを撒けたようだが、きっと虱潰しに捜索を続けているだろう。念のため俺は七輪の裏に身を隠し、一息つく。
(…ポエムバトル…皆夢中になってやってたよな。それが禁詩法なんてもんのせいで皆変わっちまった。変えさせられちまった。政府は刑罰、監視、それに密告者への報酬、果てに学校では詩を殲滅すべき悪だと教え込まれる始末。この間は父親を密告した子供がニュース番組で取り上げられてたっけ。英雄譚、ちっこいヒーロー。俺は見てたぞ、キャスターもインタビュアーも野次馬も、目は笑っていなかった…)
複数の足音が遠くに聞こえたので、俺はネクタイ(※5)を締め直し僅かな希望に賭けることにした。祈る気持ちで10ポイントを十字路に設置し、再び七輪の裏に身を隠す。もう体が台形になりそうだ。
(そして俺は見てたぞ、子供達の偽りない笑顔を)
早く手を打たないと国民全体が洗脳された世代に取って代わってしまうだろう。
サレット卿の切羽詰まった顔がよぎる。アイツに半ば押し付けられた禁詩法の撤廃…いや、変えると言っていたか。法を廃止するのではなく残す?…規制を、残す…守る…。
守る決意があったら、俺は大切な人を傷付けずに済んだのだろうか。詩をココロ(※6)の刃にせずに済んだのだろうか?
…徐々に足音が大きくなる…
―― BOOOOOOOOOOOOOM!!!!!!!!!!!!!――
警察たちは物の見事に地雷10Ptにかかった。爆発は連鎖し、ストリートポエマーをも巻き込んで巨大な津波を生み出す。俺は七輪をサーフボードにして、タイミングを見測り官海跳びを決めた。このまま混乱の波に乗じて逃げよう。
「FUUUUUUUUUUUUUU!!!!!!!! 愚かな人民共よ! やっぱりポイント大好きじゃねぇか! 本当はポエムりたいんだろぉぉぉぁ!???」
目線が高くなるに連れて、俺の気分も高揚していった。路地裏を形成する建物すら視界の妨げにならなくなった時、下から声が聞こえた。
?「路地裏でリオのカーニバルを開いてるバカはどこのドイツだね。君か」
「俺はイギリス人だ! バカ!」
?「私が下らないギャグを言ったように捏造するのはやめたまえ。勝手に私のセリフをカタカナにして、おまけにバカって…」
「サンカク(※7)形の…服? コスプレ? お前の恰好はどうみてもバカか変態だろう! しかも何故いつの間に俺のサーフボードになっているんだ! ドМの変態だろ!!」
?「私は七輪だよ。君が騒がしくするから目が覚めてしまったんだ。Мに目覚めたんじゃないよ」
「七角でもないし輪でもないじゃないか…」
七輪「気にしなくていい」
俺はその一言で、サンカク形の七輪に対する素朴な疑問を解決するのは難しいと悟った。無機物が変身して、言葉をしゃべって、生きている(?)という核心に迫る事が仮に贅沢だとしても、なぜ七輪をモチーフにした形じゃないのかくらい教えてくれたっていいじゃないか。ツラミ(※8)を感じる…。
七輪「これからどうするんだい」
「え?」
七輪「君、ウジウジ悩んでいただろう。禁詩法と…Fmm、君の過去などは私にはどうでもいいことかな」
「何故そんなことを知っているんだ」
七輪「傍にいる人間の考えてることが嫌でも分かるんだ。昔は皆私を囲って談笑してたもんだよ。楽しかったね。でも最近は秘密裏な話、人を騙す話、自由とは無縁の啓蒙活動、ウンザリすることばかりだった。私のいた店が特高警察に潰されて、不法投棄されてからの方が気分がいいくらいだよ。」
こいつホンマに七輪なのか…そして人の会話を逐一盗み聞きしてたのか。意外とマメ(※9)な奴だな。と、皮肉交じりに心の中で褒めてやった。
七輪「盗み聞きとは人聞き悪い」
うるせぇ俺の頭を覗くんじゃねぇ語感よく喋るんじゃねぇ。
七輪「っで、禁詩法に対して君はどう働きかける気だい?」
「まだ考え中だ」
七輪「勿体ない。良い所まで来ているのに。あぁ勿体ない」
「このビッグウェーブに乗って役所という役所を壊して回りたい」
七輪「…」
七輪は俺を呆れた目で見てくる。もちろん政府の巣窟を物理的に破壊したって意味がないことは分かっている。しかしどうすればいいか分からなかった。そもそも、法を抹消する事と改変する事の違いを俺は掴めていなかった。
俺が思考を右往左往させていると、七輪はシビレ(※10)を切らしたのか野放図に語り始めた。
七輪「実はずっとずっと昔、800年くらい前に禁詩法が発令されたんだ。」
「そんなの聞いたことがないぞ」
七輪「そりゃ、その時は法も記録も消しちゃったもんだから後世に伝わらなかったんだよ。でも今と似たようなことが起きていた」
「信じられん…」
七輪「私の作り話だからね」
「は? 〇すぞ。△から〇にすんぞ」
七輪「まぁ待て、この話が本当か嘘かを確かめる術はないだろう? 人は知ってることしか知らないのだから」
「…そうか!」
歴史は、残さねばならない! 消された過去は繰り返される。同じ過ちを同じと気付かぬまま! だから残すんだ。退屈な歴史の教科書ではなく、法に刻み込むんだ。サレット卿、アンタが言ってた”変える”って意味、わかったぜ。
七輪「私のサポートの賜物だr」
俺は人波を蹴飛ばしてサーフボードのスピードを上げた。
<注釈>
※1:ハチノス。牛の第二番目の胃袋。見た目以外は食べやすい。
※2:タン。牛の舌。さっぱりしてて美味しい。
※3:テッポウ。牛の直腸。開いた形が拳銃のようだ。
※4:マズイ。肉が不味い訳ではない。
※5:ネクタイ。牛の食道。肉っぽいホルモン。
※6:ココロ。牛の心臓。ハート。ソウルフード。
※7:サンカク。牛の肩バラ肉の一部、肋骨の前1/3辺り。絶品カルビ。
※8:ツラミ。牛の頬肉。辛くない。でも歯ごたえがある。
※9:マメ。牛の腎臓。上級者向け。
※10:シビレ。牛の胸腺と膵臓にあたる部位。まったり美味しい。
――― 一方、"俺"がサーフボード(※1)に乗り、無駄に細かいトコだけはキちんと取り締まる特高警察に追われながら眠れぬ街を駆け抜けていた午前三時。
(【※1】 実際には、サーフボードの形をした霊長類もしくは幻影でもって織り成された七色のプリズムで映し出された哀しき追憶の亡骸である。)
俺、巷じゃ”言い得てもないし実に意味が分からない発言が多い”でお馴染みの啓蒙活動家:木高 小恋漢は"俺"が猛スピードで街中に消えてくサマを見ながら、ちょいとオシャレぃなCoheShopで洒落乙なコーヒーを飲んでたってヮヶ。
……あ、一応言っておくけど、"俺"と俺は違う人物だからね?ごめんねー、紛らわしくて。ぇっトね、さっきさ、サーフボード?に乗ってどっか行った男いたじゃん。ほら、さっきの文に出てきたさ。アイツが"俺"。……あくまでも、"俺"って名前の人間なのョ。うん。そこ紛らわしいね。
……ぇ、なんで”俺”が特高警察に追われてるのかって?……知らねェよw。だって俺は”俺”じゃねェもン。もんもんもんもんもんもんもんもんもん。もんもんもんもん。もんもん。
で、いまカフェでコーヒーを飲んでるのが俺。つまり、木高 小恋漢ざんすよ。……区別つかないかな?(笑) まぁいいや、とりあえず……感覚で(笑)
ぁ、今「あっ、この小説の作者は自分でもどう書いたらいいのかわからないところは"感覚で(笑)"って済ましちゃう雑魚小説家なんだな」って思った、ソコ、の、メェーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!
オマエあながち間違えてない。
てかどうでもいいンだよそんな事!!!!
とりあえず話を戻しまして、コーヒーを飲んでたヮヶよ。……うん。
コーヒーを飲んでて……
……んで、
………………、
……ェェと。。。。(笑)
ェッとね、何か言いたかったンだけど……忘れちった(笑)
あぁ思い出した!コーヒーを飲んでて、それでカフェの中に置いてあったテレビに映ってた幼児向けテレビでね、次回予告でオニギリ頭のshyボーイがしゃっくり止まらなくなってさぁ大変!って内容だったンだけど、「これって確か10年前にも同じような内容やってなかったっけ……?」って思ってた所でね、何か店の外で事件が起きたのよ。
……あ、どうでもいいけどね、そのアニメね、確か鼻水垂らしBOYが「しゃっくりし続けたら死ぬ!!!!」みたいな趣旨のセリフ言ってたと思う。で、俺がさっき見たその次回予告にはその鼻水坊が、まるで恐怖に陥れようとでも言わんばかりの表情をしながらオニギリ坊主を脅してたから、多分同じセリフが出てくると思います。……恐らくですけどね。で、俺が10年前に見たヤツでは、確か幼稚園の先生に泣きついて、で「水飲もう?」みたいな感じで水道処行くンだけど、水飲む直前でちょっとしたハプニングあって、それでしゃっくり止まる……みたいなオチだった。もしそのアニメを見て、”ヤベェ……これ木高さんの言ってた展開まんまやン!”ってなったらですね。こっそりですね。感想欄に私への称賛コメントを残してほしいなぁと……冗談っすよ(笑)
あ。そういえば”俺”が何で特高警察に追われてるのかわからないって俺言っちゃったけど、俺思い出したゾ。
ほら、今この世界ってさ、詩って禁止されてるじゃん?そうそう、「禁詩法」ってヤツ。
……ココまで読んでるンだから、さすがにもう「禁詩法」の説明はしませンよ?というか、文字面だけでどんな法律なのかは……さすがにヮヵりゃすょね?てな訳で、この法律の説明については省略。
でまぁ、その、”俺”がですね……まぁ、きっと禁詩法絡みで何か違反しちゃったンでしょう。まぁわかんないけどね?もしかしたら最大辛口評価しちゃったせいで周囲から嫌がらせ受けまくって、なンでか警察に目を付けられたのかもしれないし。逆に、相手を批判したら何故か逆恨みくらって通報されてああなっちゃったのかもしれないからね。……一応言っておくけど、これらはあくまでも憶測ですから(笑) 実際はどうしてあんな状況になっているのかはわかりませんよ? 何度も言うけど、俺は”俺”じゃないからね。その辺まぁ、”俺”さんについて詳しくは話をお訪ねしてくださいなと。はい。
……さて、話を戻しましテ。色んな事考えてたら事件が起こったヮヶですね。で、まぁ、とりあえずコーヒー代の清算を終わらせまして、それで向かった訳なンです。はい。
「スタァァアアップ! 貴様は罪を犯した!」
俺が向かった先には人だかりとその中心に立つ特高警察、そして一人の男がうずくまっていた。
「た、助けてくれぇ! ほんの出来心だったんだ、まさか自分が詩を完成させちまうなんて夢にも思わなかったんだァ!」
どうやら"俺"を追いかけている特高警察に目をつけられてしまった不幸な一般市民がいたようだ。
たかだか詩を一つ書いただけで捕まってしまうのはバカらしいからできれば彼を助けてやりたいところだ。
が、実は俺さっきコーヒーショップでこっそり詩を考え付いちまったんだよな~。
あのファッキンポリスメン共の被っているヘルメットには特殊な機能が備え付けてあり、相手の頭の中にある詩を読み取ることができる。
普段は特に気にすることもないがことこの状況に至ってはあの装備が厄介だ。
あの不幸な一般市民ちゃんを助けたくてもあいつで頭の中の詩を読み取られちまうと俺まで豚箱行きだ。
ちぃ~ちぃ~ちぃちぃちぃっと難しいぜ。
「黙れ、詩を書いた者に人権はない! 禁詩法を破った貴様の未来は服役するか罰金を支払うかのどちらかだ!」
あのままじゃ罪を償うため地下労働施設で一生働かされるか莫大な罰金を支払うために地下労働施設で一生働かされるかのどちらかだ。
けど俺、木高小恋漢の座右の銘は『楽しく自分中心』。
わりーがここは逃げさせてもらう!
「詩は持たず作らず持ち込ませず。貴様も知っているはずだ。詩を愛するなど言語道断。そんな人間はこの社会に不要だ。公衆便所のクソ詰まりの中にいようが探し出してぶっ殺してやる!」
特高警察は座り込んで動けない市民を捕まえようと歩を進める。
しかし次の瞬間、俺の元へは奇妙な風切り音、そして怪しげな影が飛び込んできた。
風切る音と共に姿を現したのはサーフボードか、いやその姿は幻が如し七色のプリズムか。
悲しき追憶を呼び起こすその幻は人波を滑るように潜り抜け特高警察の前に立ちふさがった。
「フッ、"俺"をお呼びかい?」
「おっ、お前は! ……お前は……誰だお前はッ!?」
「出たな悪魔め! 詩ね! 違う! 死ねッ!」
現れた謎のサーフボードこそ"俺"、特高警察の標的である。
市民の叫びをよそに特高警察は親の仇に向けるかのような呪詛を吐きながら特製警棒を振り上げる。
危ない!
あの赤く煌めく警棒はフォースの何とかの導きによってあらゆるものを切り裂く!
当たれば間違いなく死ぬ!
サーフボードに命の概念があるかは知らんがともかく破壊される!
「甘いな……」
なんと"俺"は体を横にすることで警棒をかわした!
「上手いッ! 奴の体は薄いサーフボードのよう! 奴はその体を利用し横を向いて攻撃の当たる部分を『面』から『線』にして警棒振り下ろしをかわした! そう、さながらインテ○ジェンスシ○テムズ開発、○天堂発売のペーパー○リオのように!」
人だかりの中のおっさんが唐突に解説を始めるが今は無視だ。
しかし”俺”のやつどうして戻ってきたんだ?
奴は特高警察に追われていた。
この騒ぎは逃げるのにうってつけだったのになぜわざわざ……。
「詩を愛するものを殺そうとするお前を許すことは出来ない!」
「フン! 一回攻撃をかわしたからっていい気になるなよ社会の騒がせものめ! 貴様をこの世からBANしてくれるわ!」
なんてやつだ。
やつは詩人への愛、ひいては詩への愛から自らの危険を顧みず戻ってきたというのか。
俺だって少しばかり意味不明な発言の多い一啓蒙家として詩を愛している。
だがもし俺が”俺”だったらあの場へ戻ってこれただろうか?
戻ってくるかよ間抜けがァ!
俺はこの隙に逃げさせてもらうぜ!アバヨ!
「おいおまえ! いいものを持っているな!」
なっ、何ィ! なんかあのサーフボード俺に声かけてきたぞ!
ヤメロー! ヤメロー!
“俺”は俺のポケットに入っている先ほど喫茶店からうっかり持ってきてしまったマドラーに目をつけた。
やつは俺のマドラーを奪うとそいつを眼前にかざしてうなり始めた。
「ヌーンヌヌヌヌン。いいぞぉ、詩が出来上がってきた!」
何ィ! こいつこの場で詩を作り上げるというのか!
この"俺"、俺とはひと味もふた味も違う!
「マドマドマドラー(΄◞ิ౪◟ิ‵)ʃ」
「なっ、なんだお!」
"俺"が詩どころか文章にもなっていない謎の詩を詠うと地面から人の大きさほどもあるマドラーが生え始めた。
そのマドラーがあまりの驚愕に動くことができない特高警察にとびかかる!
マドラーは特高警察のヘルメットを弾き飛ばすと奴の脳天にグサリと突き刺さった
「アアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「こぃっはひ〒゛ェ」
脳みそをかきまぜられる特高警察。
スプラッタな光景を作り上げた張本人すらドン引きしている。
「それはともかく脱出だ! 行くぞ!」
いち早く我に返った"俺"は不幸な一般市民を自分の体であるサーフボードの上に乗せるとなぜかこちらへ向かってきた。
だからこっちくんな。
「君もだ! さぁ乗れ!」
「いやだよ! なんか気持ち悪いし!」
「ルルルルルルルルルルルルルルルル」
ダメだ日本語が通じねえぇ。
いくら拒否してもノレノレ連呼するばかりで俺が乗らない限り梃子でも動く気がねぇな。
このままでは俺も関係者としてしょっ引かれてしまう。
本当に嫌で嫌で仕方がないがこいつの提案に乗るしかない。
俺は"俺"に飛び乗ると"俺"はとんでもないスピードで飛翔した。
俺は振り落とされそうになるのを必死に捕まって耐えた。
とあるビルの屋上。
かなりの距離を飛んだはずだ。
これなら特高警察からも逃げ切れたはずだ。
一息ついた俺は端っこで一人黄昏ているキチガイサーフボードに声をかける。
「ちょっと聞きたいんだけど、なんで俺まで巻き込まれてるわけ?」
"俺"はしばらく黙っていたかと思うとふぅっと息を吐いてから話し始めた。
「さっきのを見てもらえば分かるように"俺"はその気になればあのファッキンポリスメンどもから逃げるのは造作もない。しかし俺はあえて町の中を走り奴らと追いかけっこを披露した。なぜかわかるか?」
「うーん……」
知るかよ死ね。あと俺の質問の答えを言え。
「それは君のような人間を探していたからさ。君にはほかの人にはない力がある。その力を"俺"に貸してくれないか」
屋上のヘリポートの上は風が強かったが、俺にはやけに静かに感じられた。
俺のような人間、俺の持つ力。 奴の言葉を反芻する。 その言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。
俺が……俺の持つ力……
一体なんなのだろう。 俺の持つ力をこいつは求めている……
でも返す言葉は一つしかない。
はああぁぁぁ???
知るかYOOOOOHHHHH!!!
詩なんて知らねー俺はラップに生きるんだYOOOOOHHHHHH!!!
俺は、自由だAAAAAAAAHHHHHHHHH!!!
…………。
知らん知らん!
そう言おうとした瞬間だった。
(憎い……憎い……特高警察から逃げる途中踏んづけていった人間が憎い……)
怨嗟の言葉を吐きながら俺のそばを一匹のうさぎが通り過ぎて行った。
なぜこんなところにうさぎが……と頭をひねっていると、突然野太い男の声があたりに響き渡った。
「誰もいないと思っていたのか?」
誰もいないと思っていた屋上から声が聞こえた。
いや、いないと思い込んでいただけだ。 ヘリポートは周りから少し突き出ており、その縁から下の部分が死角だったのだ!
「貴様は神聖不可侵の禁詩法を犯した重罪人だ。 お前を赦す事は出来ない!」
特高警察だ!
こいつ……確実に俺を殺そうと思っているくせに、その溢れる殺気を隠し、ここに潜伏していたとでもいうのか……!!
まずい、こいつらはさっきの奴らとは格が違う……そう思っている瞬間には相手は赤々と光る特別製の警棒を振り上げていた!
"俺"は背後を向けたまま。 漏れ出た僅かな殺気の気配に気付いていないのか、このままではやられる! そう思った時、俺は自然と口にしていた。
「マドマドマドラー(΄◞ิ౪◟ิ‵)ʃ」
「ぐあぁッ!!」
"俺"の背中から腕の長さ程度のマドラーが突き出て、特高警察の男を突き刺していた。
マドラーは深々と体を貫き、真っ赤な鮮血が撫子の花のように散っていき、その男は血を出し尽くされて干からびて死んだ。
せ、成功した……
どうして詠んだのかわからない。 わかりたくない。 ただ、先ほど"俺"が出来たことが、なぜか俺にも出来る、そんな気がして俺は"俺"が詠んだ詩を詠んでいたのだ。
だが俺は決定的なミスを犯してしまったようだ。 そう、禁詩法を奴らの目の前で侵してしまったのだ。
「こんなとこにも控えているとは、お前たちはどうも『できるヤツら』のようだな」
"俺"は振り返り、そうつぶやくと、地鳴りがするような大声で別の特高警察の笑い声が聞こえてくる。
「フフフフ、ハハハハ、ハァーーーッハッハッハ!!
似たもの同士で、手を組んだというわけか」
屋上のプレハブ小屋の上に仁王立ちしている別の特高警察は、しばらく高笑いした後、意味不明なセリフとともに宙返りをし、そのまま降りて着地した。
「いや、それは絶対に違う!」
何を言ってやがる、こんな奴と仲間じゃないぞ。 狂気なJOKEとしても笑えない。
それに、似ている? こんなキチガイサーフボードと? この街にはキチガイしかいないのか? キチガイランキングを作ったとすれば、こいつは殿堂入り、お前はベスト10入り確定だぞ!?
そんな疑問もお構いなしに特高警察は話を続ける。
「先ほどの喫茶店で、貴様は詩を考え付いたろう?
我々のヘルメットだけが頭の中の詩を読み取れると思っていたようだが、トンだ勘違いだ」
特高警察は自信たっぷりににやりと笑いながら言った。
「監視カメラだよ……」
24時間監視社会……こいつらは啓蒙活動をこの地上から根こそぎ排除しようというのか!!
詩によって行われる社会への疑問、啓示をすべて叛旗として抹殺するつもりなのか……!!
自分も少しではあるが啓蒙活動家であるがゆえに、この社会に対する束縛に怒りがふつふつと沸いてきた。
「われわれの秘密本部に通報が来た。 貴様が詩を思いついている可能性があると。
しかし我々はあえて貴様が詩を思いついたと知りつつも知らないフリをした。 なぜだか分かるか?」
「うーん……」
知るかよ死ね。 あれ、これなんかデジャブを感じる。
「それはお前が、我々が追っている者と似たオーラを持っていたからだ」
オーラ!?
ますます訳が分からなくなる。 一体こいつは俺をどうしたいのか。
「もう分かっているのだろう……
貴様らの力は互いに共鳴しあっている」
な、なんだって!?
こんなキチガイサーフボードと共鳴しているならば、俺がキチガイってことになるではないか。
突然お前はキチガイだと言われ、黙っているわけにはいかない!
「我々に目をつけられて消(BAN)されなかった者はいない……
私も特高警察の中でも最強のチーム、法律が世の全てが掟、裏負嶺の一人! まずは貴様からだ! 世の理を外れしものよ! 冥府の彼方に堕ちるがいい!」
男はそのゴツい体格からは想像できないような、まるで踊るような動きでヒョォォオウッっと"俺"向かっていく!
チャンスだ。 こんなやばい奴と戦えるてかってんだ。 俺は颯爽と風のように気持ち風のように脇を駆け抜け、階段へ続くドアへとダッシュした。
キチガイ同士、互いに勝手に殺しあってくれ。 アバヨッ!!
「逃げられると思っているのか!」
駆け込もうとするドアが突然開き、中から二人の特高警察が飛び出てきた!
「喰らいやがれ!」
特高警察の一人が振り下ろした警棒を間一髪で回避する。 警棒は勢い余って呪詛を吐いていたうさぎを真っ二つにした。
うさぎは絶命してしまった。
「といったって、どうするんだ? ここから君は一人で逃げれるのか?」
「うっ……」
周りには特高警察たちが特性警棒を構え、じわりじわりとにじり寄ってくる。
「いいかい、詩とは出会いだ。 君との出会いがなければ、この詩は生まれてなかったんだ」
「観念したようだな! 喰らいなあ!!」
立ち止まる俺たちにしびれを切らした一人がとびかかってきた!
「マドマドマドラー(΄◞ิ౪◟ิ‵)ʃ」
「ギャアアム!!!」
とびかかった特高警察は鋭利なマドラーに腹を貫かれ、上半身と下半身が分断し、その命は終わってしまった。
「これは君との出会いがくれた詩だ。」
「くっ……応援だ、応援をよこせ!!」
特高警察は大慌てだ。 しばらくするとけたたましいサイレンの音が下のほうから聞こえてきた。
「君、詩を詠めるのか。 だが、まだパワーが足りない!」
"俺"が謎の詩で生み出した一つ目の悪魔が特高警察の攻撃を防いだ。
「君の心、喜び、悲しみ、怒り、苦しみ……それらすべて、言葉でぶつけるんだ!
心の動きの数だけ、詩が生まれる! 心を動かせ!!」」
そうか、詩の可能性は無限大なんだ!!
心の動きをコトバにすれば、どんなものでも詩になるんだ!!
「君が思いついた詩を披露てやれ!!」
ヴォオオオオオという唸り声とともに悪魔が消えていく。 特高警察が口から放った聖ビームに焼き尽くされたのだ。
しかし、僕の心は虚心坦懐。 さっきまでの俺なら狼狽えていただろう。 かの暴虐な特高警察たちに歯向かうことを。
しかし、今の俺には恐れはない。 ふと、心が動いた。 風のように、川のように。 俺はゆっくりと口を開き、心の動きに従い詩を詠む。
「アコアコアコーディオン( ΄◞ิ .̫.̫ ◟ิ‵)⊃≓∰⋛⇋⇋⇋>」
目の前の特高警察の三人が蛇腹状に折りたたまれで絶命した。
今まで出会ったことのないような圧倒的な詩唱力を見せつけられ、流石の特高警察もまごまごしている。
「な、なんだこいつら」
「隊長……こんな奴だとは聞いてませんよ」
「よし、ここは一斉に攻撃してばらばらにしてやるぞ!!」
3人の特高警察が一斉にとびかかり、赤黒く輝く警棒で串刺し、あるいは八つ裂きにしようとしている!
絶体絶命のピンチに何やら走馬燈が回り始める。
ここは精神世界。
真っ白に輝く、天も大地も何もない空間に俺と"俺"はいた。
「さあ、心を一つにして戦うんだ。 二人分の心の動きで、二倍の強さで戦おう!」
「わ、分かったよ……」
そうだ、力を合わせれば何も怖くない。 俺、いや俺たちは無敵だ! もう半ばヤケクソだ!!
俺と"俺"が一つになる……
心の動きが俺たちに集まってくる……監視体制への憤り、暴虐無知な社会への哀れみ、キチガイと一緒になるしかなかった悲しみ、境地を脱したら真っ先にズラかろうという謀り、かわいいうさぎ。
現実世界、特高警察たちが跋扈する戦場に俺は降り立った。 そう、純白の衣に純白の羽、純白の耳を頭から生やし彼は降臨した。
「我は救世主。愚かな人類を抹殺する使徒也」
今、世界創生が始まる。