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異世界での目覚め -後-

 ユーカ達が目覚めた場所から3時間ほど歩いた場所には、砦のような「街」があった。

この場所は魔物も強くて、街も砦のように強化しておかなければ、強大な魔物達から守り通せないという事情もあった。

三人はそこへたどり着くと、まずは街で一番高価な宿へ寄り、その最上階のスイートルームへ泊まる事にした。


 なぜ三人が迷わずに街へたどり着けたかというと、現実となったゲームの世界であるのだが「ゲームのような」と形容して差支えが無いような「メニューパネル」が実装されていた為である。

手を小刻みに振るうとメニューが現れ、地図や持ち物を異空間へ格納できる「アイテムボックス」が選択できたり、自らの身体状態をモニターすることができるゲーム的な画面が出てきた。

持ち物の中に「手紙」という項目を見つけてクリックしてみると、この世界へ来る前に見た「手紙」と似ているが、封が開いていない手紙が出てきた。


 三人がそれぞれ中身を確認すると、そこには神からの「贈り物」として、使用可能な技能のことが、マニュアルのように事細かに書かれていた。


 辞書のような淡々とした文章と、最後に『せいぜい頑張ってね』という適当な文言で締めくくられていたのだが、それに文句を言う人は居なかった。

むしろ、ここまでしてくれて、親切な方だと思えた。

 つまりで言えば、この世界は基本的にはゲームと変わらず、NPCが通常の人間に変わった程度の違いしか無いということだった。

それさえ分かれば、三人にとってはどうでもいいことだった。


 三人はお金を払って、一番高い宿の一番良い部屋を貸切にする。

ユーカ以外は衣服も汚れていたので、お風呂に入りたいと思っていたところ、素直に喜べた。

スイートルームを貸切にすると、一つの大きなフロアと、それぞれに個室とベットが付いている広々とした部屋だった。

お風呂は大きなものが一つあり、一つの部屋毎に共用ではあるもののお風呂が取り付けられていた。

お金もゲームの時に所持していた金額が、まるまる持ち物に入っており、何年でも泊まり続けて差し支えないほどの金額を持っていた。


 そんな時、三人の中で一つの問題が発生した。

ユーカは個室に入り、ぱたんと装備もそのままベットに体を投げ出し、眠りに付こうとしていた。

 しばらくして、コンコン、とドアをたたく音が聞こえて、眠気でシャットダウンしそうな頭をどうにか叩き起こすと、ドアの前まで歩いて対応する


「リーダー、お風呂入ろう」


 サクヤを伴ったミレイが現れて、修学旅行で同性の友達とお風呂へ行くような感覚で、誘ってくる。


「え……と……」


 ユーカの今の体は女である。

しかし、男だった頃の常識が頭の隅にひっかかり、戸惑ったような反応を返してしまう。

ミレイ達だって、何かしらの抵抗が無いのだろうか? と一瞬だけ思ったが、そんな様子はミレイ達には無く、何かがおかしいと思い始める。


「ん……?」


 ミレイが不思議そうに首をかしげているが、なぜかユーカと根本的に思考が違っているように思えた。


「さあ、行こう」


 腕を掴み、ユーカを連れ出そうとするミレイ。

だが、ここで言わなければ、なんだか拙い事になるような気がした。


「ちょ、ちょっと待って」


 二人はユーカの方を振り向くと、不思議そうな顔をしている。

まるで「何をそんなに焦っているの?」と不思議がるように。


「えっと……、確認なんだけどさ……」


 戸惑ったように、ユーカは話を切り出す。


「皆は……その……、元の世界では男だったり……しないの?」


「え……?」


「え……?」


 ミレイとサクヤはしばし「言われた事の意味が分からない」という顔をしていたが、少しして「納得」したような表情を浮かべる。

サクヤが口を開くが、それはユーカが予想した内容とは少しだけずれた回答が返ってきた。


「ああ、そんな事を気にしてたの? ……大丈夫。私達はリアルで姉妹だったから。両方女だよ。そこは保障する」


 うんうん、と頷いているミレイに、今度はユーカの方が別の意味で困惑してしまった。

ユーカは当初、ネットゲーマーなんて殆ど男だと思っていたので、幸か不幸かその予想は見事に裏切られてしまった。

二人が嘘をついているようには見えず、頭の中で「マジで?」と思いつつ、今度は自分が男だった事を言っても大丈夫だろうかと心配になった。

だけど言わないと不誠実な気がして、ユーカは意を決して口を開いた。


「その……そうじゃないんだ。私の方が……リアルで男だったんだ」


 その瞬間、空気が固まったような気がしたのは、ユーカの気のせいではないだろう。

ピシッと音を立てて、サクヤとミレイはフリーズして、ミレイに至っては「え、嘘でしょ?」という表情をしている。

居心地が悪くなって、もじもじとしてしまったユーカだが、それが別の意味で「かわいさ」を引き立てていて「男であった」なんて言われても、説得力がどんどんなくなっていく。


 しばし、微妙な空気が続くが、一番早く復活したのはサクヤだった。

ミレイと目くばせすると、サクヤはユーカの後ろに回り、おもむろに胸や体のあちこちに触れて、ボディチェックをしてくる。


「え、ちょっと二人とも、なにするの?」


 気恥ずかしさと、いきなり触られてびっくりしたユーカは、動けなくなってしまった。

最後に姉妹が頷き会うと、拍子抜けするような言葉をユーカは聴いた。


「大丈夫。今は女だから、私達は気にしない。さあ、お風呂行こう」


 今度は、フリーズしたのはユーカの方だった。

表情が「え、この人達何を言ってるのか分からない」とでも言いたげな表情をしてしまった。

それに構わず、ミレイとサクヤの力は強くて、風呂場へ連行されていった。

 ゲームでも無茶振りが多くて、少々天然な所があった二人であるので、今更驚きこそしなかった。

だが、それとは別にユーカが納得したかどうかは、違った話である。


「私、風呂入らなくても装備の効果で清潔に保ててるから! 必要ないよ!」


 そう言って逃げようとするも、どこにそんな力があるのか、戦士と後衛では力の強さも違うはずなのに、抵抗できずに一枚、また一枚と衣服を脱がされていく。


「女の子なのに、お風呂嫌いはよくない」


 どこかわくわくしたような表情を浮かべているミレイとサクヤは、是が日でもお風呂に入れようとしてくる。

部屋は防音設備がしっかりしていて、他の利用客にユーカの悲鳴が聞こえることはなかった。

お風呂から出たユーカは疲れこそ取れたものの、精神的な疲れからぐったりとしてしまった。

逆に、二人はツヤツヤとした表情で、お茶を飲み、雑談を楽しんでいた。


「もう、寝させて…」


 女性の体になってしまい、よくある性転換モノのように、自分の体で妄想をしたりという事は一切なく、初日からユーカの「かわいさ」ゆえに、女性プレイヤー達から「着せ替え人形」に変えられてしまった。

称号の「傾国の美少女」というのは伊達ではなく、常時取り外す事のできない呪いのようなものであった。

そして、天然系の姉妹との冒険者生活が、この時から始まったのだった。




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