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ゲーム廃人達の日常

 華奢な体つき、鋭い眼差し。

体に似合わぬほどの大剣を背負い、服装はドレスのように煌びやか。

剣を一振りすれば、大柄な魔物さえも怯み、肉が裂ける。

小柄な魔物では、そもそも切れ味と乗せられた勢いに負け、屍の山になっていく。


 こんな事を言えば、誰もが想像するだろう。

大男か、肉付きの良い男性であるのを。

でも、それは間違っていて、華奢と言う言葉が表すとおりに、小柄である。

加えて、ドレスのようなレースの付いた防具を着込んでいるのは、少女である。


 これはオンラインゲーム「ファンタジーワールドオンライン」というゲームで、実際に活躍し、伝説とまで言われた女性プレイヤーのお話である。

「ファンタジーワールドオンライン」では、性別から職業に至るまで、かなり厳格に適正値が定められている。

戦士なら男性キャラクターの方が有利に作られているし、重量に対するボーナスすら付く。

防御や力、そしてスタン系の特技に対しても、男性キャラクターの方が決して少なくない、最終的には中級強化アイテム二つ分ほどの差がレベルが上がるにつてれ強化されていく。


 その分、女性キャラクターでは身軽な軽装戦士としては優秀で、瞬間火力が高い武器が装備でき、準前衛的な役割をこなすのに向いている。

だけど魔法使いや暗殺者など、軽装戦士では比較にならないほどの火力を叩き出す職業はいくらでもあるし、女性キャラクターはそちらに高い適正を持つ。


 このゲームの最大の特徴は、最適解が厳格に定められており、廃プレイを好むネットゲーマーにしてみれば、縛りプレイでもない限り滅多にセオリーに反することはしない。

ある一定のレベルまで男女の変換が可能であり、初級から中級の間をただよう程度になると、皆はこぞって適正の高い性別へ変更する。

そんな、既に「強い育成方法」のテンプレートが定められているオンラインゲームゆえに、はみ出し者はパーティーに誘われなくなる。

適正値セオリーを守らないプレイヤーは、守っているプレイヤーよりレベル数個分の差が付く。

加えて、パワーレベリングには厳しい縛りが存在していて、レベルの違いにより受けられる恩恵が、割に合わないものになっている。


 だけど、そんなスタンスを真っ向から否定するギルドがあった。

リーダーは女性キャラクターを使い、重戦士としてトッププレイヤーに名を連ねるている。

その仲間達も個性的で、セオリーに反したり、本来想定されるプレイスタイルから逸脱した者ばかりであった。


 そのプレイヤーのリアル情報を知るものはいない。

ボイスチャットも実装されていないので、チャット(電文会話)では女性らしい喋り方をしている程度しか、皆はしらない。

このゲームでは社会人が多く遊び、リアルでのプレイヤー間の繋がりが強く「オフ会」は頻繁にされるオンラインゲームだった。

それでも、くだんの女戦士がそれに参加することは無かったし、自らが主催する「ギルド」と呼ばれる集団において、ギルド用チャットでの「リアルに関わる会話」を禁止するという条項が存在していた。


 ギルドメンバー間のそういう情緒には感知しないが、ギルド内でおおやけにリアル情報の探りあいをした者は、追放処分となる。

そんな雰囲気が、居心地が良いという者や、そのゲームの特殊性ゆえに居場所を失った者、それでもゲームを辞めたくないという者達だけが、その女戦士の元へ集った。



----


 でも、リアルなんて少し考えれば予測できてしまうような、些末な結末である。

誰がそんな話をして楽しいのだと、ある所に実在した「青年」は考えていた。

それは女戦士のリアルにおいての姿。

ニートで、ネットゲーム廃人で、もう自分の人生などどうしようもないくらいに終わっていると考えている「青年」だった。


 ゲームだけが、己の全てだった。

親の遺産があって、あと30年は最低限の生活だけで、ニートを続けられる。

ゲームがあって、オンラインゲームをする為の設備(ゲーム機やPC)があって、ディスプレイは一つのPCにつき三つ、専用コントローラがPCの脇に置いてある。


「こんな人生、くそ食らえだ」


 そう呟きながらも、カタカタとゲームを操作する音だけが聞こえる。

ハイエンドのボスモンスター相手に、本来は最低10名で挑戦するはずの冒険者達の姿は、わずかに3名ばかりである。

赤髪で女性キャラクターのソーサラー(魔法使い職)であり、ヘイトなど気にしない、ぶっちぎりで火力特化した前衛困らせなプレイヤー。

白髪で同じく女性キャラクターのヒーラー(回復職)であり、一切の無駄を取り除いた動きでモンスターの動きをほぼ読みきり、行動に余裕が無い中で最善の選択を繰り返している天才派のプレイヤー。


 最後には、黒髪のショートヘアで小柄な重戦士の少女が、モンスターにぶつかり大立ち回りを繰り広げている。

致死攻撃だけを適切に判断し、ダメージ軽減技、魔物を一瞬だけひるませる技、後ろでヘイトを全く気にしない魔法使いに代わり一瞬だけターゲットを自分に固定させる特技を巧みに使いながら、致死となる攻撃を後衛に一切漏らさずに、前線を維持する技能派の戦士。


 彼女達は、ギャラリーが居ない深夜のボスステージにて、前代未門も偉業を達成しようとしている。

普通に考えれば、10人以上で挑むコンテンツボス相手に、3人など正気の沙汰ではない。

そもそも、廃人達がひしめくFWO(ファンタジーワールドオンラインの略)の世界で、ハイエンドに類されるようなボスで、3人で挑もうというバカはいない。


ユーカ:やああああ


 黒髪の少女の名前は、ユーカという。

気合を入れ直すようにチャットが流れながらも、操作はよどみなく、戦士系の上位職であるガーディアンという職業の特技を放つ。


 モンスターは後ろの魔法使いの方をしきりに意識し、そこへ攻撃を加えようと歩みだそうとするが、そうすると目の前の黒髪の少女が攻撃を加えてくる。

薙ぎ払うと、少女のHPは赤く染まるが、そうすると後ろから待ってましたと言わんばかりに、本来は詠唱に3秒かかる回復魔法が、合計10個飛んでくる。


 この時の為にヒーラーである少女、名をサクヤという少女は、3分に一回しか使えないヒーラーの奥義である、多重スペルを使い、前衛の体力を回復させる。


 ほぼ一瞬で回復し、次の攻撃が来る頃になると、少女の技に掛るディレイ(次の技発動までの待ち時間)が解除される。

一瞬怯み、追撃で失神の追加補正がある技を叩き込む。


 後ろでは、魔法使いが攻撃から支援に回り、速度を速める魔法をパーティー全体によどみなく掛けてゆき、それと同時に全員でヒーラーの霊力を回復させる。

きっかり4秒で失神が切れると、次にその技を使えるのは90秒後になる。


 続いてユーカは武器を持ち替えると、その武器の固有スキルで同じく失神効果のある特技で、再度4秒の空白タイムを作る。

すると今度は魔法使いの少女、名をミレイは、ソーサラー固有の魔力ブースト(魔法威力3倍)と、20秒の間の消費魔力を0にする特技、そして受けるダメージを15秒の間無効化するシールドを展開し、広域殲滅魔法の詠唱に入る。


 ボスモンスターの周りに光が集まりはじめ、五分に一度、ボスの周囲の空間にリポップ(出現)する小物モンスターが50体現れ、鋭い牙と、長い爪、狡猾そうな顔をした悪魔型モンスターが現れる。

これが、このボスが厄介と言われる所以であり、周囲へランダムにターゲットを移し、前衛・後衛問わず低くない攻撃力で体力を削って行く。


 ここで、きっかり4秒経ち、ボスが失神から目覚めると、魔法使いめがけて襲いかかってくる。


ミレイ:今


 戦士のユーカが、いつの間にかボスの眼前に迫り、周囲20歩の範囲に居る小型悪魔のターゲットを、無理やり自分に引き付け「ヘイト(敵意)」を自分に集中させる特技を使う。

ヒーラーはユーカに、即死回避の一回限りである魔法を、余裕が無い中で詠唱し付与する。

サクヤは後衛の体力は後回しにしている為、無敵時間の続くミレイに向けて、遅延回復魔法を叩き込み、ぎりぎり広範囲殲滅魔法の範囲に入らない域まで離脱する。


 ユーカがミレイの元に走り込み、次の攻撃にむけ準備動作に入る。

ミレイが、ユーカが引き連れて来たモンスターに向けて、広域殲滅魔法を放つと、自分とミレイを巻き込み、巨大な爆発を巻き込む。


 ミレイの装備は防御など捨て、ヘイトを軽減するという小細工すらも破棄して、ただひたすら火力に特化した魔法を放つ為だけに存在する。

そのダメージは、本来誰も見る事の無い魔法攻撃の上限値、運営サイドだって、誰も出せるなんて思って付けた訳じゃない最大威力の魔法が襲い来る。


 即死回避の魔法が効果を発動し、ユーカの体力が残りわずかの所で耐える。

ミレイはダメージ無効のシールドで無傷となる。

ダメージ値は、10240という数値を叩き出し、50体の悪魔型モンスターの体力は、残り2000という所まで削れた。

だが、倒れてはいない。


ユーカ:私の出番だね!


 わざわざそうチャットを打ち、狙ったかのようなタイミングで発動する特技。

大剣を振り回し、周囲に居る敵・味方関係無く襲う諸刃の攻撃。

それがきっかり悪魔モンスターの体力2000程度を削り切る。


 ボスモンスターのターゲットは、魔法使いに行っており、無敵のシールドは残り5秒を切る。

ボスの連撃がミレイを襲い、巻き込まれそうになったユーカは急いで離脱する。

近づけないというのが分かり切っている場面で、今度はヒーラーが弓を構える。


 このオンラインゲームにおいて「弓」とは実装こそされているものの、使う人が極端に少ない。

それは、長距離なら魔法で事足りてしまうし、装備できるのが回復職や魔法使いなどの後衛職業のみ。

ゆえに、誰もがその存在を忘れるし、命中率を良くする為に膨大な時間を費やしても、ダメージもそれほど出ないし、労力に見合わないほどの微々たる効果しか得られないという不遇武器。

だけど、弓には敵を弱体化させる効果と、ヘイトを弱める効果など、支援の為の特技が数多くそろっている。

その中で使われたのは、取得するのに最も時間がかかると言われる、失神系の特技。

さらに4秒の空白時間が、戦場に停滞をもたらす。


 だが、忙しいのはここからで、ヒーラーも、ソーサラーも、ガーディアンさえも、霊力・魔力・気力という特技や魔法を使う上で必要な数値が底を尽きている。

それらを回復する為のアイテムを湯水のように使い、アイテムを使う指のミス一回や遅れで、霊力や魔力が足りなくなり戦線崩壊さえありうるような緊張感が、全員の中を流れる。


 最後に魔法使いが弓を取り出し失神させることで、この一連の作業がふりだしに戻る。

これを3時間も続ける頃になると、ボスの体力が青から黄緑へ、そして赤の色を刻み、そしてついには全てを削りきる。


サクヤ:・・・


 この達成感というか全てを出しきったような高揚感と、全員がチャットを発さずとも分かる満足気な沈黙が場を支配する。

全員がこの瞬間や、ボスを倒した事で得られる戦利品の数々を眺めるのが、プレイヤーにとって一番の楽しみであったりする。


サクヤ:GJ

ユーカ:グッジョブ!

ミレイ:・・・


 それぞれが机の前でキーボードを叩いたり、布団に突っ伏して達成感に胸を躍らせている。

今は深夜4時であり、誰もが寝静まった時間。

廃人達は、人知れず廃プレイに勤しんでいる。






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