隠されたブーゲンビリア
なんか、文字を覚えるのは書くのが一番らしく、ボスになんでもいいから書けって言われた。ので、適当に書いていく。でも情報はメモ程度に、仲間の事もあまり書くなっていうけど、落とさなきゃいいよな。
この街の事もだいたいわかってきたが、ボス以外に顔を知っている仲間は5人。三人の男は名前を教えてくれなかった。〝鼠〟って事が知れ渡っているオッティールトとレオノーレは名前を教えてくれた、のはいいんだが、男が嫌いらしくって握手は断られた。あの汚い物を見る眼を女性に向けられたのは久々だ。ボスが拾ってくれたとはいえ、僕は招かれてないらしい。まぁ、生きていけるならいいか。
ホテルメイドのリリー、ホテル利用客の情報有り、パブで待ち合わせ
銀行員のイェフが嫁の事で話があると掴みかかってきた。マズイかな。
ホテルメイドと銀行員夫婦が大喧嘩して大変だっていわれたけど、僕が居ない間に全部終わったらしくって意味が解らない。ボスが大爆笑してるけどアンテルムは僕を睨むし、ゲオルギーとベネデッタは怪我をしたっていうし、何があったんだよ。僕はそこに居なかったって。誰か事情教えてくれないのかよ? 自分で調べるのが〝鼠〟だっていうのか? まじで?
『帽子屋のナディアと肉屋のヴェラがキャットファイトをしたぞ』
『八百屋のイニャキがベルナルドを殺すって包丁持って殺気立ってる。しばらく東の方は寄るな』
メモくれるくらいなら止めるとかもう少し情報くれるとか助けるとかして欲しいんだけど。メモくれるくらいには、僕も〝鼠〟の一匹になれてきたのかな。
『お前は立派に〝鼠〟だよ』
メインストリートが見える公園のご婦人、
『後で連絡くれ ゲオルギー』
この街に来て何年だろう。最近、やっと〝鼠〟の皆が僕を仲間と認めてくれたようで、顔を見せてくれる。人に恨まれるのも騙すのも同じだけど、表で注目を集める僕のやり方は今までの〝鼠〟の人達とやりかたが違い過ぎて、良く思われてなかったらしい。やり方もだけど、新人の僕がミスって巻き込まれるのはゴメンだったから距離を置いていたとも、アレクサンドラは教えてくれた。もう少しがんばれば皆も色々、教えてくれるんじゃないかってさ。とりあえずアレクサンドラが色々教えてくれたからがんばるかな
新しくインセットの花屋が作られるらしい。
『どこに』 メインストリートだって『メインストリートに花屋ぁ?』
『無理じゃない?』
『南向きの角のところか』そこまで知らないよ
劇場チケット売り場 ベネデッタ
テーラー見習い フリードリーン 『こいつ男色よ』
掃除婦 エリーザ
学校教師 マリレーナ、リーゼロッテ、ステファン
今度は、慎重に。
『メインストリートの花屋、本当に生花を売る店らしいぞ』
『女じゃないのか』へー。
インセットに新しく女が入るらしい。マンマレジーナ直々のスカウトで外から来る子。ローザ。ボスが暫くこの子を見張れっていう。それも本人に会わず、こっそり遠くから。僕もそこそこ隠れたり逃げたりは上手になったけど、〝鼠〟としてはまだまだ、なんだってさ。めんどくせぇ。でもまぁ、いつこの顔が使えなくなって表に出られなくなるかもわからないんだ。ボスの言うとおり、〝鼠〟らしく暗がりから見学するとしますかね。
庭師のローザは、遠くからでも見つけやすい赤毛の子だった。僕、土袋担ぎ上げる女の子はじめて見た。
『あんたも持ち上げられるんじゃない?』
怖いこと書かないで。この字誰だよ!
僕この手帳、いっつも持って歩いているのに〝鼠〟の皆はいつメモ書いたり挟んだりしてるんだよ。
こういう事には答えてくれないんだよな。くそっ。見てろよ。
何日もローザを見てるけど、代わり映えしない日々で飽きる。規則正しい生活に毎日勉強してて、見てる僕が疲れる。 『あんたもついでに勉強したら』
暇すぎてしてるよ。『昨日のスコールはお前のせいか』
洗濯できて良かったじゃないかエルナン
毎日見てるせいかな。ローザが可愛く見えてきた。
『赤毛が可愛いとか正気か』
そうだねマルティン僕もどうかと思う。
『珍しいだけじゃないの』 多分そうだよね。
どうしようどうしようどうしよう。
なにあの子ほんと可愛いんだけどどうしよう。
え、マフィアって恋愛禁止だっけ。別チームとじゃダメ? ねぇ。
『落ち着け坊主』 『どうした』
ローザ可愛い
『ボスが一度戻れってよ』『ベルナルド、メモ読んでるだろう』
『ボスの命令だ』
『戻れベルナルド』
他の情報収集がおろそかになってローザばっかり見ていた僕は未熟者です。
〝鼠〟として失格です。反省してます。今後はちゃんと仕事します。
ベルナルド
反省文書いたのにボスがローザの事を書いたページを返してくれない。酷い。
『諦めろ』やだ
『どうするのこの子本気じゃない誰よたきつけたの』
オッティールトだって煽ったじゃないか。
『マルティンにあやまっとけよ、ベルナルド』
やなこった。マルティンのばーーーーか。
ボスと話をした。仕事をちゃんとするなら別に誰とくっついてもいいって。ただ、〝鼠〟が一人に固執することを考えろって言われた。考えろっていわれても、何をだ……?
僕マルティンに一生付いてく
『ついてくるな子鼠』
まだよくわからないけど、もう一度ボスと話してくる。皆にも迷惑がかかるんだろうか。
この手帳を見る人はもうボスから聞いているかな。まだの人はボスの所へ行って欲しい。僕は〝鼠〟のままでいたい。トーポのベルナルドでいたいんだ。でもローザの側にもいきたい。でもさ、まだローザは僕を知らない。
だからボスに提案を一つした。
皆の意見には従うよ。ボスの命令にもだ。
ローザが花屋の店員として店先に出る。
まだかよボス。まだ〝鼠〟全員分は揃わないのか。
ローザが店に出る日が決まった。
親愛なる〝鼠〟の皆、ありがとう。
僕はローザがはじめて店に出る日に、彼女に会ってくる。
これからは毎日彼女に会えるんだ。
誰か助けて『どうした』ローザが『なになに』『何事なの』
ローザの手強さがほんともう、難攻不落の城だよあれなにあれ。まったく僕の事見ない! 皆のアドバイス全滅だよあんな子はじめてだどうしたらいいのさ! 誰かなんか良い案ないの! 『諦めろ』
やーーーだーーーー。
『あの子は無理よ』なんでさ
『あんた一年近くかけて相手にされてないんだから諦めなさい』
まだ! まだ一年だって! まだいけるって!
僕、一生マルティンとレンナルトに付いてく
『がんばれ』『付いてくるな一人で行け』
『ベルナルドはもう一人前だから、ってちゃんと付けなよマルティン』
店に来ていたパヴォーネの様子がなんかおかしかった。
リーオとフレデリックに伝言。
『受取った』
ローザにどうしてインセットに入ったのか聞いてみたけどはぐらかされた。家族は故郷に居るって言うし、家族の事も楽しそうに話すから身売りじゃないみたいだ。帰りたいか聞いてみたけど、帰るつもりはないってさ。よし。
花屋に来るパヴォーネの人物について教えてもらった。ヘンリクは既婚者で娘息子もいる愛妻家だから問題ないらしい。シーギスムンドは堅物で女が近寄っても相手にしない男だったけど、ローザは気に入っているんじゃないかって言う。理由を聞いたら僕がローザに惹かれるのと同じだろうって。僕はあんなむすっとしてないし愛嬌だってあるぞ。一緒にするな。
『そっちじゃねぇよ』
花屋に行く途中、不思議な5人組を見かけた。この街に来たばかりなのか、随分周囲を気にしてたし、なんとなくびくびくおどおどしてた。
最近、パヴォーネの人の出入りが激しい。『花屋か?』
違う、この街から。でもなんか、なんか変だ。
『パヴォーネは新しく〝エーテル〟機械を手に入れるらしい』それのせいか?
思い出した。この街から出掛けるパヴォーネ。前に見かけた5人組の2人とパヴォーネの人とが一緒に居たんだ。今思えばパヴォーネの方が相手を接待している風だった。あのパヴォーネが相手を持ち上げるなんて、どういう関係だろう。リーオとフレデリックに聞いてみようか。
ボスが緊急招集をかけてきた。こんな時期になんだろう
誰か、無事だったら、返事をくれないか
誰か『どうした』
あぁ、マルティン。よかった。無事だった『何事なの』レオノーレも。
ごめん、嫌な夢を見たんだ。皆にすごい会いたくなった
『昨日のスコールはお前のせいか』酷いなエルナン。今も雨じゃないか。
皆のメモが残されるから、あれは悪い夢だったんだ。
そうだろう、皆。僕、ずっと〝鼠〟でいるよ『ついてくるな子鼠』
僕も〝鼠〟だ『付いてくるな一人で行け』
『ベルナルドはもう一人前だから、ってちゃんと付けなよマルティン』
『ベルナルド、メモ読んでるだろう』 『落ち着け坊主』
『ボスの命令だ』
『諦めろ』『がんばれ』
ローザは僕が、護るよ。