叫号の後に
目が覚めた。
気分が重かった。
昨日の夜がいつも通りの夜でなかったことが嫌で、自分にいつも通りの朝が来たことが恨めしくて、もう何も考えたくなかった。
涙が流れる。
目が腫れていた。
「いい加減起きなさーい?」
下から母の呼ぶ声がした。
“昨日の悲しみは誰に分かって貰えるのだろう。誰が信じてくれるのだろう。”
母の声を聞いたときふと頭に浮かんだ。
昨日の出来事を誰かに信じてもらうのは無理なことだろうと、頭を振る。
重たい体を起こした。
「今…降りる…。」
やっとの思いでそう答えると下に降りた。
「目が腫れてるけど、大丈夫?」
いつもと様子の違う息子に心配そうに母が話しかけた。
「大丈夫!学校、遅れるからもう行くね。」
笑顔の仮面を顔に張り付けて、黒は何か母が言いかけていたような気がしたが聞こえなかったふりをして家を出た。
朝、黒はみんなには会わなかった。
だからだろうか、同じクラスの白と青は心配そうに黒を見つめ、また、悲しげに菜次の席を見つめていた。
黒もまた同じように菜次の席を見つめ昨日の出来事を脳裏に蘇らせていた。
何もできない自分。
菜次と美雪の姿。
“くそっ。なんなんだよ。こんなことって…こんなことって…あるのかよ…。”
歯を食い縛る。
友人の死は12才の少年少女が背負うには重すぎるものだった。
“どうして僕たちなんだ。”
そうやって見えない何かをみんなは何度も罵った。
朝のホームルーム、空席を見つめ、担任の先生が思い詰めた表情で話し始めた。
「みなさんにとても悲しいお知らせがあります。私たちのクラスメイトの茶野菜次くんが行方不明になりました。昨日の夜から連絡がとれていないそうです。みなさん、茶野くんの姿を見た人はすぐに連絡をください。また、みなさんも十分注意して…。」
「菜次は行方不明なんかじゃないっ…!」
先生の話に割って入る叫び声がした。
「黒浜くん、まだ先生が話して…。」
黒だった。
「あいつは行方不明なんかじゃないっ…!あいつがっ…!」
再び黒が叫んだ。
黒の目の前に菜次が鬼に刺されて倒れていく姿が浮かぶ。
菜次のもとへ駆け寄ると菜次が笑顔で話しかけてくる。
「死にたくなかったな。どうして僕を助けてくれなかったの?」
菜次の表情が変わり、醜い声で黒を罵った。
「うわあああああああぁぁぁぁっ!」
黒は思わず立ち上がりそして頭を抱える。
菜次の醜く歪んだ表情が頭から離れない。
「う…そだ…。」
黒の視界が歪む。
「黒っ…!」
白と青が駆け寄ってくる姿を見たのを最後に黒は気を失った。