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発された叫び

夜。仲間のみんなは昨日のようなことが起こりませんように、そう願いながら眠りについた。

だが、空しくもその願いは届かなかった。


目が覚めた。

やはり、体育館にいた。

まわりを見渡した。

みんながいた。


「おはよ、黒。」


支ノー灰行支ノ恵ーが緊張した面持ちで黒に話しかけた。


「また、来るのか。」


黒が呟く。

それと同時に扉の方に気配を感じた。

みんなが気を引き締める。

昨日と同じように大きな音を立てて扉が開いた。

今日は人の姿をした奴ではなかった。

昨日の奴が姿を変えたあとと同じ鬼の姿。


「昔感じたのと同じ気配を感じて来てみれば、前の奴等と同じ奴等がいるじゃないか。」


昨日の鬼と同じように愉快そうである。

黒は鬼の言葉がずっと引っ掛かっていた。

以前自分たちと会ったことがあるかのような言動。

その思考に意識を寄せていた一瞬の出来事。


「並みの人間より殺し甲斐があるよなあ。」


耳の横で声がした。

いつの間にか扉の前にいた鬼が黒の横に立っていた。


「なっ…!」


爪が自分の頭めがけて降りかかってくる。

それを横に跳び、避ける。

黒がもといた場所のすぐ後ろには美雪が立っていた。

気づいた時には遅かった。

黒の方に向かってきてきた勢いのまま美雪に向かって爪を突き立てた。


「うっ…。」


美雪は何の抵抗もできなかった。

鈍い音がした。

鬼の爪が美雪の体を貫いていた。

鬼は笑うと、爪を美雪の体から抜き、再び黒を目標に定める。

美雪の体が床に崩れ落ちる。


「おい、黒いの。お前が一番強そうだったからお前に行ったのに、避けやがったから仲間が死んじまったぞ?」


黒はその言葉に唇を噛み締めた。


「お…まえ…、よくも…美雪を…」


黒の背後から震える声が聞こえた。


「お、おい、菜次…」


青の声も聞こえる。


「お?そっちの坊主のほうが殺る気か?」


鬼が標的を菜次に変えた。


「あああぁぁぁぁっ!」


菜次は叫びながら鬼に跳び掛かっていった。


(動きが大きすぎるっ…!)


黒が菜次を助けようと手を伸ばした。

しかし、その手は空を切る。

菜次の背にその手は届かず、大きすぎる動きの隙を鬼の爪が狙う。

菜次は無惨にも斜めに斬り下ろされた。


「お、まえ……っ!」


黒は怒りで煮えたぎっていた。

自分の愛する大切な仲間を傷付けた鬼が許せなかった。

無我夢中で刀を鬼に投げつけた。

傷付いて血を流す菜次を見て笑っていた鬼はそれに気付かなかった。

黒の刀は心臓に命中した。


「な…なんだと…っ!」


鬼は信じられないといった表情をした。

そして前の鬼と同じように砂のように崩れて消えた。


「美雪…っ、菜次…っ。」


二人の元に駆け寄ると黒は膝から崩れ落ちた。

みんなが同じように二人の元に行く。


「く…ろ…。」


菜次は苦しそうな声で横に崩れ落ちた黒を呼ぶ。


「何…菜次っ…」


黒は項垂れていた頭を起こして菜次を見つめる。

その目には大粒の涙が浮かんでいた。


「俺…黒と居て…みんなと居て…こんなことになったけど…後悔したこと…ないからね…。」


菜次は途切れ途切れだが、確かに、言った。

黒は大きく頷いて、菜次の手を握った。


「み…ゆき…。」


菜次は隣にいるであろう美雪の名を呼んだ。

美雪の手を握っていた赤が彼女の胸に手をあて、そして、首をふる。


「守りたかったのになぁ…。」


菜次も泣いていた。


「もう、喋んなくていいよっ!」


白が叫んだ。

菜次が微笑む。

黒が握っていた彼の手の力が抜ける。


「なつっ…」


その名前を呼ぶ声は最後まで続かず、みんなは暗闇に溶けていった。




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