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日常の始まり

夜。

みんな家へ帰り着き、自分達の手元にある刀を不思議な気持ちで眺めた。

何故か懐かしい感じがした。


「何が起きているんだろう。嫌な予感がする。」


黒は一人そう考えながら眠りに落ちた。

その眠りが悲劇の惨殺の始まりとは知らずに。


「も…もう…朝?」


黒はまだぼんやりとする周りを見渡しながら呟いた。

見覚えがあるようでないような空間。


「黒っ!黒っ!…っ黒!!」


菜次ー茶野菜次ーの叫ぶ声で黒の視界ははっきりとした。

そしてしっかりと見えるようになった目に写ったのは、仲間のみんなの姿だった。


「み…んな!しかも…何で…そんな格好っ…!」


みんな浴衣だった。

いや着物か。

暗くてよくわからないようである。

わずかな明かりのなかで黒はなんとなく浴衣だと認識したようだ。

みんなも同じように思っている。


「…って、僕も…!」

「俺ら多分みんな眠って、目、覚ましたらここにいたんだよ。」


白ー白井隼人ーが不機嫌そうに呟いた。


「もって帰った武器と一緒にね。」

「どういうことだ?」


普段はあまり動じない方である和ー黄原和止ーもこの状況が飲み込めず狼狽えている。


「俺にもさっぱりわかんねぇよ。」


白が乱暴に言い放つ。

黒は取り敢えず立ち上がった。

辺りを見回す。


「どうやらここ、僕らの小学校の体育館だな。」


そう呟いたと同時に黒は突然体育館の扉の方を見た。


「どうしたの、黒?」


心配そうに美雪ー緑沢美雪ーが黒を呼ぶ。


「何か来る。」

「えっ…」


黒の呟きに全員動揺を隠せない。


「武器かまえて。」


黒のよく通る声を聞いて急いでみんなはその言葉にしたがった。

そしてそれと同時に体育館の扉がけたましい音をたてて開いた。

緊張が走る。

入ってきたのは、人だった。

人と言ってもその雰囲気は人のそれではなかった。


「ははは、さすがだな。この姿を見ても気を抜かないとは。倒しがいがある。」


と、こちらに話しかけてきた。


「僕たちはお前となんの関係もないと思うんだが。」


と黒が返した。何故か冷静な自分に黒は驚きが隠せない。


「関係がない?そんな訳ないだろ。江戸の頃から仲良くさせてもらってたじゃないか。その借りを返しに来たんだが。」


とても愉快そうにそいつは笑った。


「は?僕らはあんたなんか知らない。」


黒は怪訝そうに返した。


「ごちゃごちゃうるせーぞ。早く命を懸けて戦おうぜ?かかってこいよ。それともこっちからいこうか?」


"戦い"と聞いて黒たちは驚いた。

今の日本ではあり得ないその言葉に。

しかし、みんなが気を抜くことはなかった。

彼らには受け継がれてきた血が流れていたから。


「来ないのか?じゃあ、こっちからいくぞ?」


そう言うや否や"人"は徐々に人としての姿を失っていった。

その姿は"鬼"そのものだった。


キーン。


甲高い金属音が響いた。

鬼の姿になり襲いかかってきたそいつの鋭い爪と黒の刀がぶつかり合った音だった。

みんなはその様子を見ていることしかできなかった。

自分の頭めがけて振り下ろされた爪をどうして自分が受け止められたのか分からないままに黒はその爪を払い上げ、刀が自身の重さで落ちる勢いに任せて鬼に斬りかかった。

もはや黒の体は黒のものではなかった。

鬼からの攻撃をかわし、攻撃する。


「並みの人間とは違うぜ。」


鬼は楽しそうに笑う。

鬼が隙を見せたその時だった。

黒が刀を横に薙いだ。

滑り気のある血が鬼から溢れだした。

黒の体に鬼の血がかかる。

ちょうど雲から顔を出した満月が血で染まった黒を麗しく照らし出した。

誰も何も言うことができなかった。


「これは始まりだ。俺たちは必ず悲願を達成するためにお前たち人間を手に入れる。」


血を体から滴らせながら鬼はニヤリと笑うと砂のように崩れて消え去った。

その直後、黒の体にも靄がかかり、だんだんとその姿が薄まっていく。


「くっ…!」


黒、と叫ぼうとした赤の声は最後まで発することができずに自身も闇に溶けていくように消えていった。

みながみな同じように姿を消した。

体育館にはもう何の形跡も残ってはいなかった。



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