あの日
あの日の放課後。僕たちは運動場にいた。
「もっと遊びたい。もうちょっとだけ…。」
遊びたい盛りの小学生にとって放課後の時間は短い。
いつもあっという間にすぎていく。
時間を告げるチャイムとともに家に帰るよう放送が流れる。
このまま運動場にいれば教師がでてきて、早く帰るように諭しはじめ、下手をすれば明日の掃除か宿題が増やされると相場が決まっている。
「もう時間かよー。」
口々に文句を言いながらも、ベンチの上にほったからしていたランドセルをのそのそと背負い運動場を後にしようとする。
いつも仲間の集合をかけたりしているリーダー格である黒ー黒浜大樹ーが言った。
「規則を破って遊ぼう。」
その言葉にみんなはギクリとした。
黒は優秀で規則を破ったりしない。
集まったときは時々いたずらっぽくなるが放課後、帰るときは先頭をきって、
「帰ろうぜ。」
と言い出すのだが、今日はいつもとちがう正反対のことを言い出したのであった。
いつもと違う黒の言葉を聞いて仲間のみんなはびっくりしたが、
「少しぐらいなら。」
と、思い黒の言ったことに賛成した。
だが、やはり青ー青鈴正悟ーはしてはいけないことをするのに気後れして、黒に理由を聞いた。
「黒、何で今日は規則破ることにしたの?」
「えっ、覚えてないの?今日、記念日じゃん、みんなが集まった。せっかくだから、ちょいとやろうかと。」
いたずらっぽい笑みを浮かべて黒が言った。
「なるほど。」
紫ー紫園得ーが納得したように頷く。
今日、黒はみんなが集まった記念として規則破りを考えたのだった。
今、みんなは小学六年。
みんなが集まってから三年たつ。
みんなが集まったのはみんなが小学三年の時、仲間のみんなが同じクラスになったときだった。
仲良くしようと声をかけたのは黒だった。
親に期待され、小さい時からあれこれ言われてきた黒はなかなか親に本音が言えなかった。
先生にも親に変なことを言われては困るので遠慮し続けた。
そんな日々が嫌になった黒はあることに気づき、息抜きができる、信頼できる仲間を作ろうとみんなに声をかけたのだった。
誰に言われるでもなく、彼らならば信頼できると本能がささやいたから。
『せっかく苗字に色の漢字が入ってるっていう共通点があるんだから仲良くしない?』
という一言で。
それ以来、何か打ち合わせをするでもなく仲良くなり、そしていつの間にか仲間としていつも一緒に過ごすようになった。
仲間のみんなは事あるごとに色々な悪事を働いていた。
そのうちの一つで、鍵破りの技術を手に入れていた。
仲間のみんなはもともと器用だったのか、難なくみんな習得したのである。
どう習得したかは彼らの秘密である。
その技術を使って体育館に入り、かくれんぼをしよう、
先生たちは体育館まで見回りには来ないから、
というのが黒の考えだった。
幸い、校舎自体古いせいもあってか、今時珍しい南京錠の施錠である。
破るのはそう難しくはない。
早速体育館に忍び込むと、誰から言うでもなくかくれんぼが始まった。
鬼も心の中で数を数える。
沈黙か流れる。
最初の鬼は赤ー赤根愛実ーだった。
赤が動き出した、みんなそう感じた。
空気が変わる。
かくれんぼが始まった、そう感じた一方で、黒たちはもっとすごいものに気づいた。
みんなが息を飲む音が静かな体育館に少しだけ響く。
みんなが固唾を飲んで見つめるその視線の先には、煌々と輝く魂でも宿っているのかと思わせるような刀があった。
どこからともなくいつの間にかその手に握られていた。
そして、もうひとつ不思議なことに、みんなが握るその刀は各々の名字と同じ色をしていた。
しかし、ひとつ違和感。虹ー虹久正美ーの手に握られているものだけ、なぜか槍だった。
しかも、みんなと同じように自分の名前にある色ではなく、銀色。
「な…何だ…これ…?」
ようやく意識の束縛から解放されたみんなは、その言葉しか口にできなかった。
ようやくまともにしゃべれるようになったころ、夕日が沈みかけているのか、辺りは急に暗くなり始めた。
「なあ、黒、これなんだと思う?」
首をかしげながら青が黒に尋ねる。
「刀…だなあ。」
間違いないと確信しながらも黒の答えには間があった。
「こんなものが何でこんなところに?」
みんなは不安を隠しきれなかった。
「これどうする?」
「どうしようか。」
何も解決策など見つからず、どうしよう、という言葉だけが繰り返される。
しかし、何故か今手にしているこの武器を手放す気になれなかった。
何か分からないものが気づかないうちに自分を操っているような。
「とりあえず、持って帰ってみる?」
赤は何となく思ったことを口にした。
みんながみんな同じように思っていた。だから、赤の意見に反対するものは出なかった。
「か…えろうか?」
これ以上遊ぶ気にもなれず、黒が提案した。
「そうだね。」
困惑と不安を抱えたまま帰路についた。