コメディ自衛隊 当たりは三人、採用は四人
本作はフィクションです。
作中に登場する「自衛隊」は「自立衛星観測隊」の略称であり、現実のいかなる組織・制度・人物とも一切関係ありません。
なお、万一よく似た部分があったとしても、それは偶然です。たぶん。
隊長:隊員の採用面接、ご苦労さん。有望な子はおった?
科長:いやぁ、面接官は疲れるっすね。十人見て、当たりは三人ってとこです。
隊長:そんなに厳しいん!?
……あれ、今回の採用予定、何人やったっけ?
科長:四人っす。
隊長:ハズレの中から一人選ばなあかんのか……。
科長:まぁ、そうなりますね。当たりから聞きます? ハズレから聞きます?
隊長:……当たりからにしとこか。
科長:まず自分のイチオシは三番っすね。
隊長:三番……。
(申込用紙を見ながら)
どこが良かったん?
科長:志望動機っす。
隊長:『遊ぶ金欲しさ』……って、これは志望動機ちゃうやろ。どっちか言うたら犯行動機や。
どう見ても二番の方がええやろ。
科長:『災害派遣で働いている姿に感動しました。人の役に立ちたいです』っすか。
隊長、見る目ないですねぇ。
隊長:なんでやねん。使命感に燃える、ええ隊員になりそうやないか。
科長:普段、私ら何してます?
隊長:は?
科長:体力錬成、野外訓練、掃除、整備、そしてまた訓練。たまに点検。
つまり地味です。
隊長:その地味な積み重ねが大事なんやろ。有事のときに動けるように、日頃から鍛えとるんや。
科長:それはそうっす。
でも、おめめキラキラで入ってくる子らが求めてるのって、そういう泥臭い地味な積み重ねやないんすよ。
人を助けて感謝される自分なんす。
隊長:いまさらっと危ないこと言わんかった?
科長:だから理想が強すぎる子ほど、『こんなつもりじゃなかった』で辞めやすいんです。
その点、三番は最初から金目当てです。ブレない。
隊長:その評価軸、嫌すぎるやろ。
科長:でも現実的ですよ。
自衛隊って、金だけ見ればかなり強いんす。営内なら家賃無料、食費無料、水道光熱費もほぼ無料。保険も団体で強い。
ぶっちゃけ、自由に使える金は幹部の私より新隊員の方が多いです。
隊長:まぁ……生活コストが低いのはたしかやな。
科長:でしょ?
だから『遊ぶ金欲しさ』って、実はかなり素直な志望動機なんすよ。前に一回辞めて民間行って、翌年また受けに来た子もおりましたし。
隊長:実例あると急に説得力出るな……。
科長:結局、理想より損得で来る人間の方が長続きするんす。
隊長:採用面接で聞きたくない結論やなぁ……。
で、他の当たりは?
科長:五番っすね。
隊長:ええと……十九歳、三歳の子あり、シングルマザー。子どもは実家で親と同居。
高校中退からの高認取得……。
だいぶ人生の密度が高いな。
科長:強いっすよ、この子は。
隊長:なんでや?
科長:高校中退ってことは、たぶん人生が予定通りにいかんかったんです。
でも、そこで終わらんかった。高認まで取ってる。子育てしながら。
根性が違います。
隊長:そこは、たしかに大したもんやな。
科長:しかも実家の支援がある。ここがでかい。
入隊後って教育やら入校やらで、身軽でもしんどいじゃないですか。そこを支えられる環境がある。
つまり、続けられる見込みが高いんす。
隊長:なるほどな。能力というより、生活基盤も見とるわけか。
科長:採用って、そういうもんでしょう。
優秀でもすぐ辞める人材より、ちゃんと続く人材の方が現場は助かるんすよ。
隊長:それはそうやけど……。
お前、言い方さえもうちょい丸ければ、めっちゃええ面接官なんやけどな。
科長:褒め言葉として受け取っときます。
隊長:受け取るな。
で、三人目の当たりは?
科長:八番の高卒っすね。
隊長:八番……。
成績も普通、資格も特筆なし、志望動機も無難。
そんな引っかかるか?
科長:家族欄見てください。
隊長:……自衛官まみれやな。父、母、叔父、兄二人に姉もか。
あ、お父さん俺の先輩や。
科長:そこっす。
自衛隊がどういうとこか、身内見て育ってきてる。つまり、変な理想を抱きにくい。リアリティギャップで辞める可能性が低いんすよ。
隊長:夢見すぎず、幻滅もしにくい、と。
科長:はい。
結局、辞めずに続けてくれるのが一番ありがたいんです。
隊長:それはほんまにそうやな……。
頑張って育てたのに辞められるのが、一番しんどいからな。
科長:でしょう?
採用は能力を見る場でもありますけど、同じくらい“辞めなさそうか”を見る場でもあるんす。
隊長:せやな。
……ほんなら逆に、ハズレの中で一番あかんかったのは誰や?
科長:一番っすね。絶対採らんです。
隊長:えっ、一番?
三十歳で年齢は高めやけど、資格いっぱい持っとるやん。使えるんちゃうん?
科長:職歴見てくださいよ。
隊長:……あ。
八年で七回転職。
科長:そうっす。
会社が潰れたわけでもない。キャリアアップで一貫してるわけでもない。全部ちゃんと残ってる会社を、ころころころころ辞めてる。
もうここまで来ると、経歴やなくて習性です。
隊長:言い方。
科長:しかも持ってる資格と職歴が噛み合ってない。
取るだけ取って、活かしてない。
極端な話、全種の車両免許持ってるのに三十年運転してない操縦手の助手席、座りたいです?
隊長:嫌やなぁ……。
それは嫌や。
科長:でしょう。
資格って、持ってるだけじゃ意味薄いんすよ。使って経験を積んでるかどうかが大事なんです。
隊長:なるほど……。
これは不採用やな。
科長:即決ありがとうございます。
隊長:ところで、さっきからお前の基準、ずっと一貫しとるな。
理想より現実、能力より継続、経歴より生活基盤。
科長:現場が欲しいのは、結局そこですからね。
夢を語る逸材より、多少クセあっても辞めん人の方がありがたいんす。
隊長:採用担当としては正しい気もするし、聞いててちょっと世知辛い気もするな……。
科長:世の中そんなもんです。
隊長:面接会場でそのまま言うたらあかんぞ。
科長:そこはちゃんと猫かぶってます。
隊長:一番怖いやつや、それ。
おかしいな
このフィクション、びっくりするくらい筆が進む……




