造花は残り、花は枯れてしまう
――こつこつという足音が遠ざかる。
――世界に色が戻り、混ざり合うような感覚を覚える。日常に戻り、夢から覚めるのが恐ろしい。ゴッホのひまわりの描かれたパンフレットを持って冷たい手で小さな手を握る。
「今日は楽しかったね、皆理華」
「よくわかんなかったし、たいくつだった!」
「いつかは皆理華にも分かる日が来るさ」
「ぜったいこない!」
「絶対なんてないんだよ、皆理華。今も持っている人形だって最初絶対いらないと言っていたじゃないか」
「いってない!」
もこが、さいごにおしえてくれたのは、ごっほのひまわりでした。
「最後に説明する、あちらの絵です!」
「ごっほのえでしょ、しってるよ」
「知っていましたか、それでも芸術は何度も見るたびに、答えが変わるのが面白いところ」
もこは、しっていたえもおもしろくおしえてくれました、すごいとおもいます。
いつかわたしも、
もこみたいになんどもみにきたくなるようなはなしがしたいです。
「……なんですよ、凄いですよね!」
「はじめてしった!でもなんでパパはおしえてくれなかったのかな?」
「知らなかったのでは?」
「しらないならなんでみせたの?」
「考えて欲しかったと、予想します」
「なまえくらいしかおしえてくれなかったのに、かんがえてほしいってひどい!」
「自分自身が、知らないことを教えるのは難しいですからね。しかも芸術ともなれば決まった答えがないので、上手く説明が思いつかなかったのでは」
もこは、しらないことをおしえるのはむずかしいと、そうおしえてくれました。
「じゃあ、こたえがないびじゅつかんにつれてこなければよかったじゃん」
「そうかもしれませんね、でも芸術は花とは違い枯れません。いつか分かって欲しかったのでしょう」
「いつかって、いつ?」
「さあ、わかりません。でもいま知ったじゃないですか」
「……なんかずるい!」
「確かにずるいですよね、ですが人ってそうなんですよ。答えを作らず問いを作ったりするんです。知って、考えて欲しいんです」
もこは、すこしずるいかもしれないです。
こたえをしっているのに、わたしになにかききます。
「このおんがくはなに?」
「別れのワルツです、もうすぐ閉館みたいですね」
「へいかんってなに?」
「美術館が閉まることです、だからまた……またいつかあいましょう。それではさようなら」
ほたるのひかりみたいなおんがくがながれると、もうすぐへいかんといい、またあいましょうといって、きえてしまいました。
ゆめだったのかもしれません、すこしさびしいです。
こつこつという足音が響く。
静かで少し恐ろしい美術館は、少し神秘的。
枯れも咲きもしない芸術は変わらずに美しい。
「この絵が何かわかるかな?」
「しってる、モナリザだろ」
「詳しいね、でもこれはね動きながら見ても、ずっと目が合うんだよ」
「ほんとだ、なんでなのママ」
「さあ……なんでだろうね」




