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【完結】レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった  作者: あめとおと
王都外縁・連鎖異変編

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第99話 選ばれた失敗

 異変は、予定どおり起きた。


 あまりに、整いすぎた形で。



 早朝、外縁西部。


 魔力循環の一部で、数値がわずかに乱れる。

 基準値を外れない。

 即時対応は不要。


 だが――

 報告の回り方が、異様に早かった。


「評議院から、確認が来ています」


 中央管理局の連絡官が、硬い声で告げる。


「“判断は、誰が行うのか”と」


 若い調整官は、胸の奥が冷えるのを感じた。


 来た。

 これが、カイルの言っていたものだ。



 臨時会合。


 今回は、逃げ道が用意されている。


「地図士の見解は?」


 最初に、そう聞かれた。


 空気が、一斉にカイルへ向く。


 だが、彼は首を振った。


「地図は、更新済みです」


「見解は?」


「ありません」


 沈黙。


 誰かが、わざとらしく咳払いをする。


「……では、判断枠を」


「待ってください」


 若い調整官が、声を上げた。


 心臓が、うるさい。


「今回は」


 一拍。


「私が判断します」


 ざわめき。


 評議院側の使者が、視線を向ける。


「前回と同じか」


「はい」


「失敗した場合は?」


 若い調整官は、カイルを見なかった。


 地図だけを見る。


「私の責任です」


 使者は、わずかに笑った。


「記録に残します」


 その言葉が、

 罠であることは、誰の目にも明らかだった。



 判断は、難しくない。


 数値は軽微。

 即時停止は不要。


 だが、敢えて。


「西部循環を、一段階落とします」


「理由は?」


「重なりがある」


 それ以上、説明しなかった。



 結果。


 午後、別区画で小規模な滞留が発生する。


 被害は限定的。

 だが、「ゼロ」ではない。


「判断ミスだな」


 誰かが、待っていたように言った。



 夜。


 責任確認の場。


 今回は、早かった。


「判断によって、滞留が発生した」


「因果関係は?」


「完全ではない」


「だが、判断がなければ?」


 若い調整官は、逃げなかった。


「起きなかった可能性はあります」


 ざわめき。


「では、失敗だな」


「……はい」


 その言葉を、飲み込まずに言った。



 外縁記録室。


 若い調整官は、重い足取りで訪れる。


「……やられたな」


 カイルは、地図を閉じながら言った。


「それでも」


 若い調整官は、顔を上げる。


「逃げなかった」


「それが、答えだ」


 カイルは、そう言って、

 地図の一角に、小さく印を付けた。


「失敗は、消すな」


「消えない」


 若い調整官は、静かに頷く。



 翌日。


 評議院からの結論は、意外なものだった。


 ――判断に問題はあった

 ――だが、意図的な隠蔽や怠慢は認められない

 ――個人責任は記録に留め、処分は行わない


 不満は、残る。

 だが、決定的な介入は、なかった。



 夜。


 カイルは、白紙の地図を一枚、机に置く。


 そして、その上に、

 失敗の印を写す。


「……選ばれた失敗、か」


 独り言。


 だが、その失敗は、

 誰かに押し付けられたものではない。


 引き受けた失敗だった。


 空白は、まだある。


 だが今度は、

 その空白を埋めようとする手が、

 確かに、現場側にあった。



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