表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった  作者: あめとおと
王都外縁・連鎖異変編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/102

第98話 空白を嫌うもの

 異変は、外から来た。


 王都の内部ではない。

 外縁区画でも、現場でもない。


 上からだった。



 中央管理局に、一通の通知が届く。


 形式は、ただの確認依頼。

 内容は、曖昧。


 だが、差出人の名を見た瞬間、

 誰もが言葉を失った。


「……評議院、か」


 それは、制度を動かす側だ。


 現場の判断や、枠の使い方など、

 本来は口を出さない。


 その評議院が、

 “最近の調整判断の在り方”について、

 説明を求めてきた。



 臨時の説明会。


 いつもより、席が多い。

 空気も、硬い。


「最近、判断が個人に委ねられる事例が増えていると聞く」


 評議院側の使者は、

 感情を交えずに言った。


「制度上、問題はない」


「だが、

 再現性に欠ける」


 その言葉に、

 若い調整官は息を呑む。


「地図士の記載内容も、

 以前より簡略化されている」


「判断の根拠が、見えにくい」


 それは、

 空白を問題視する声だった。


「……地図は、

 判断の根拠を示すものではありません」


 若い調整官が、勇気を出して言う。


「現状を示すものです」


 使者は、ゆっくり首を傾げた。


「だが、

 判断が伴わない情報は、

 不安を生む」


 静かな言葉。

 しかし、重い。



 その夜。


 外縁記録室に、

 正式な問い合わせが届いた。


 宛名は、カイル。


 内容は、丁寧だった。


 ――判断を誘導する記載が減少している理由

 ――今後も同様の形式を維持する意図があるか

 ――責任の所在についての見解


 逃げ道は、用意されている。


 「善意の助言」

 「参考線」

 「注意喚起」


 どれかを選べば、

 空白は埋まる。



 カイルは、紙を置いた。


 しばらく、何もせず、

 地図だけを見ていた。


 空白の地図。


 誰のものでもない。

 だからこそ、

 誰もが向き合わなければならない場所。


「……嫌われるわけだ」


 小さく呟く。


 空白は、

 責任を押し付けられない。


 だから、

 制度はそれを恐れる。



 返答は、短かった。


 ――地図は、現状を示すものである

 ――判断は、読み取った者が行う

 ――誘導は行わない

 ――今後も、この形式を維持する


 理屈だけを、淡々と書いた。


 言い訳も、弁解もない。



 数日後。


 噂が流れ始める。


「地図士、危ないらしい」


「評議院を敵に回したとか」


「次の異変で、

 責任を押し付けられるんじゃないか」


 若い調整官は、

 それを聞いて歯を噛みしめた。



 夜。


 記録室。


「……大丈夫?」


 若い調整官の問いに、

 カイルは肩をすくめる。


「さあな」


「でも」


 地図を一枚、持ち上げる。


「空白を嫌うなら、

 それはもう、

 必要な問いになってるってことだ」


 若い調整官は、

 言葉を失った。


「次、来るよ」


 カイルは、静かに言う。


「“異変”じゃない」


「責任を押し付けるための事件だ」


 窓の外、

 王都の灯りが揺れている。


 何も起きていない夜。


 だが――

 最も危険なのは、

 何かを起こす準備が、

 整えられている時だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ