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【完結】レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった  作者: あめとおと
王都外縁・連鎖異変編

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第94話 線を読んだ者

 その会合は、重かった。


 結論を出すための場ではない。

 だが、出さずに帰ることも許されない。


 若い魔導師は、卓の中央に地図を広げていた。


 カイルの線だ。


 補助路、外縁区画、中央寄りの循環経路。

 どれも見慣れたはずの配置が、

 一本の流れとして浮かび上がっている。


「……これは」


 誰かが、息を吐く。


「三日後、だな」


 若い魔導師は、ゆっくり頷いた。


「現状の進行が続けば、

 負荷はここに集まります」


「回避策は?」


 問われて、彼は一瞬だけ言葉を探した。


「判断枠を使えば、

 調整案はいくつか出せます」


「だが――」


 別の者が、続きを受ける。


「また、同じ構造になる」


 空気が、さらに重くなる。


 枠を使う。

 合意を取る。

 失敗すれば、責任は拡散する。


 それは、もう一度通った道だった。


「……カイルは?」


 誰かが、ふと口にした。


「何か、言っていたか?」


 若い魔導師は、首を振る。


「判断は、しないと言っていました」


「地図として残しただけです」


 その言い方に、微かな苛立ちが混じる。


「無責任じゃないのか?」


 若い魔導師は、即座に否定した。


「違います」


「これは――」


 地図を指す。


「責任を引き取らないための線じゃない」


「引き取らせないための線です」


 沈黙。


 誰も、すぐには理解できなかった。



 会合は、いったん休憩に入る。


 若い魔導師は、廊下の端で立ち止まった。


 胸の奥が、ざわついている。


 カイルなら、どうするだろう。


 いや――

 もう、その問い自体が違う。


 彼はいない。

 だからこそ、自分がここに立っている。


「……逃げるなよ」


 誰に向けた言葉か、自分でも分からなかった。



 再開。


 若い魔導師は、席に着くと同時に言った。


「判断します」


 ざわめき。


「個人判断です」


「枠は使いません」


「責任は――」


 一拍、置く。


「私が持ちます」


 静まり返る。


 それは、この場で最も避けられてきた言葉だった。


「具体策は?」


「三日後の負荷集中前に、

 南部区画の進行を一段階落とす」


「理由は?」


「地図が、そう言っているからです」


 反論が出かける。


 だが、誰も決定的な否定はできなかった。


 線は、そこにある。

 読み取ったのは、彼だ。



 決定は、通った。


 正式ではない。

 だが、実行される。


 調整は行われ、

 負荷は分散された。


 三日後、

 何も起きなかった。


 それが、結果だった。



 夜。


 外縁記録室。


 若い魔導師は、静かに地図を戻しに来た。


「……通ったよ」


 カイルは、地図から目を上げなかった。


「そうか」


「聞かないの?」


「結果は?」


「何も起きなかった」


 少しだけ、間が空く。


「……それでいい」


 カイルは、そう言った。


「判断は、

 起きなかったことで証明される」


 若い魔導師は、地図を見つめる。


「正直、怖かった」


「だろうな」


「でも」


 彼は、はっきり言った。


「初めて、自分で決めた気がします」


 カイルは、何も言わなかった。


 ただ、線を一本、消した。


 役目を終えた線だった。



 その夜、記録に一行が加わる。


 ――判断者:若手調整官

 ――根拠:地図読解

 ――結果:問題なし


 小さな一行。


 だが、それは確かに示していた。


 判断は、移った。


 地図から、人へ。


 そして――

 次は、その重さが問われる。



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