第91話 決めなかった者の名前
会議室は、静まり返っていた。
「今回の判断について、確認する」
中央の担当者が言う。
「枠を使わず、
承認も取らず、
現場裁量で進めた」
「はい」
若い魔導師は、否定しない。
「結果は?」
「問題なし」
「だが」
担当者は、視線を上げる。
「前例にできない」
その言葉は、
成功よりも重かった。
「誰が、その判断を許可した?」
沈黙。
誰も、名乗らない。
だが、視線は自然と一人に集まる。
「……私です」
主人公は、静かに言った。
初めて、
判断の“代表”として名を出した。
「枠を使わないと決めたのも」
「承認を取らないと決めたのも」
「私です」
場が、張り詰める。
若い魔導師が、口を開く。
「彼が決めたのは、
決めないという選択肢を残すことです」
「結果として、
現場が判断した」
「それは、責任放棄ではない」
反論は出なかった。
だが、納得もされなかった。
夜、記録が残される。
――判断枠未使用。
――中央承認なし。
――代表責任者:地図士。
初めて、
主人公の肩書きが、
判断の欄に記された。
地図を描くだけの者。
判断をしない者。
その立場は、
この日、終わった。
外縁は、静かだ。
だが、王都の中心では、
次の段階が、準備されている。
判断を、誰のものにするか。




