第90話 選ばされる場
その日は、最初から決まっていた。
判断するか。
判断しないか。
第三調整課からの連絡は短い。
――外縁南部区画にて、負荷上昇を確認。
――調整判断を求める。
曖昧さを許さない文面だった。
「……今回は、逃げ道がないな」
誰かが言う。
数値は基準内。
だが、余裕はない。
輸送予定、魔力循環、補助区画の稼働。
どれもが重なっている。
「判断枠、使いますか?」
若い作業員の声が、わずかに震える。
場の全員が、主人公を見る。
使えば、記録が残る。
失敗すれば、責任論が再燃する。
使わなければ、
「なぜ使わなかった」が問われる。
若い魔導師は、地図を見た。
線は、複雑に絡んでいる。
だが――決定的な兆候は、ない。
「……今回は」
一拍。
「判断枠は、使わない」
ざわめき。
「ただし」
続ける。
「各区画の裁量で、
作業を一段階遅らせる権限を共有する」
「中央の承認は?」
「取らない」
それは、明確な線引きだった。
枠に預けない。
だが、個人にも押し戻さない。
構造の外での判断。
危うい橋だ。
だが結果、
区画ごとに微調整が行われ、
重なりは避けられた。
被害は出なかった。
だが――
「勝手に判断した」
その一言が、
中央の記録に残った。




