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レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった  作者: あめとおと
街道調整編

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9/22

第9話 それでも、嗅ぎつける者

 ギルドを出た瞬間、

 空気が少しだけ軽くなった気がした。


「……思ったより、静かに済んだわね」


 リーナが周囲を見回しながら言う。


「隠してくれた、ってことだよな」


「ええ。

 だからこそ、油断しちゃだめだけど」


 その言葉の意味を、

 俺はすぐに思い知ることになる。


 視界の端。

 いつもの地図が、微かに揺れた。


【追尾反応:あり】

【距離:中】

【意図:不明】


(……え?)


 足を止めると、反応も止まる。

 再び歩き出すと、少し遅れて動く。


「リーナ」


「なに?」


「……尾けられてる」


 彼女は一瞬だけ表情を引き締め、

 何も言わずに歩調を合わせた。


「数は?」


「一。

 でも……変だ」


「変?」


「殺気がない。

 敵意も、薄い」


 地図上の反応は、赤ではない。

 黄色に近い、曖昧な表示。


「……探り、ね」


 リーナは小さく舌打ちした。


「ギルドが隠しても、

 “異常な動き”までは消せない」


 角を曲がった先。

 人通りの少ない通りに入ったところで――


「失礼」


 背後から、穏やかな声がかかった。


 二人同時に振り返る。


 そこに立っていたのは、

 地味なローブを着た男だった。


 年齢は三十代半ば。

 武器は見えない。


 だが――


(……地図が、警戒してる)


【対象:外部組織】

【分類:宗教系】

【危険度:測定不可】


 測定不可。


 初めて見る表示だった。


「お二人に、少しだけお話を」


 男は、敵意のない笑みを浮かべる。


「私は、

 “記録と導き”を司る者です」


 リーナが、半歩前に出た。


「教会の人間ね」


「ご名答」


 男は軽く頭を下げた。


「名乗るほどの者ではありませんが、

 皆からは“巡察司祭”と呼ばれています」


 地図が、

 彼の足元を淡く縁取る。


「ギルドでの報告。

 表には出ていませんでした」


 それなのに。


「ですが、

 “世界の反応”までは隠せない」


 その言葉に、

 背中を冷たいものが走った。


「あなた、最近――

 道を、一本増やしましたね?」


 心臓が、跳ねる。


「……何の話ですか」


 俺が答えるより先に、

 リーナが低く言った。


「それ以上踏み込むなら、

 ここでは終わらない」


 司祭は、苦笑した。


「脅すつもりはありません」


 そして、俺を見る。


「ただ、忠告を」


 地図が、警告を強める。


【干渉:言語情報】

【危険度:中】


「“地を記す者”は、

 かつて世界を救い、

 同時に、世界から消された」


 ――遺跡で、リーナから聞かされた。

 地図士は救い、そして消された存在だという話。


 その記憶と、司祭の言葉が、

 ぴたりと重なった。


「教会は、

 それを忘れていません」


 司祭は、一歩下がった。


「今すぐどうこうする気は、ありません。

 ですが――」


 穏やかな笑みのまま、告げる。


「あなたが次に“何かを記した瞬間”、

 必ず、誰かが現れます」


 そして、付け加えた。


「私たちとは限らない、

 “もっと強引な誰か”が」


 司祭は、それ以上何も言わず、

 人混みに溶けるように去っていった。


 しばらく、誰も口を開かなかった。


「……どう思う?」


 俺が聞くと、

 リーナは即答した。


「敵じゃない。

 でも、味方とも言えない」


 彼女は俺を見る。


「少なくとも、

 あなたを“観測対象”として見てる」


 地図が、静かに表示を更新する。


【外部注視:増加傾向】

【推奨行動:慎重】


(……隠れても、限界か)


 俺は、無意識にペンを握っていた。


 世界はもう、

 俺が“何も書かない存在”であることを

 許していない。


「カイル」


 リーナが、真剣な声で言う。


「次の冒険、

 選びなさい」


「選ぶ?」


「ええ」


 ――記すか。

 それとも、記さないか。


 地図士としての選択が、

 初めて、

 俺の意志に委ねられた。



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