第89話 割れる立場
その夜から、空気が変わった。
「判断枠は、危険だ」
「いや、使い方の問題だ」
「だったら、誰が使うか決めろ」
議論は、はっきり二つに割れる。
・判断を集めるべきだ、という側
・判断を戻すべきだ、という側
どちらも、失敗を見ている。
だからこそ、譲らない。
「判断を預ける構造が、責任を曖昧にする」
「個人判断に戻せば、また隠れるだけだ」
言葉が、鋭くなる。
若い魔導師は、会合の端で聞いていた。
ここで、自分が立場を示せば、
対立はさらに深くなる。
だから、言うべきことだけを言う。
「判断枠は、正解を出すためのものじゃありません」
場が静まる。
「間違いを、一人で抱えないための場所です」
反対派が、首を振る。
「理想論だ」
「失敗した以上、見直すべきだ」
「見直すのは、構造です」
彼は、はっきり言った。
「枠を消しても、
判断は消えません」
「誰かの胸の中に戻るだけです」
それは、誰もが知っている現実だった。
夜、主人公は地図を見ていた。
線は、まだ残っている。
だが、その上に、別の線が重なり始めている。
人の立場。
組織の思惑。
それらもまた、
地図の一部になりつつあった。
対立は、まだ小さい。
だが、次に何かが起きれば――
割れ目は、はっきり見える。




