第88話 誰の判断だったのか
失敗は、処理された。
区画は復旧し、
報告書は整理され、
表向きの問題は、すべて片づいた。
だが、会議室には、まだ空気が残っている。
「……で、誰の判断だった?」
中央の担当者が、低い声で言った。
誰も、すぐに答えない。
資料は揃っている。
記録も残っている。
だが、そこに書かれているのは
“みんなで決めた”という事実だけだった。
「外縁の判断を参考にした」
「中央で最終確認した」
「手順は、規定どおり」
どれも、間違っていない。
だからこそ、責任が浮かばない。
若い魔導師は、机の端で黙っていた。
この沈黙は、知っている。
判断が失敗したあと、
誰もが一歩ずつ下がる時の音だ。
「責任を明確にすべきだ」
誰かが言う。
「でないと、次が決められない」
その言葉に、主人公は顔を上げた。
「明確にできますか」
静かな声。
「この判断は、
誰か一人が決めたものですか?」
沈黙。
違う。
違うから、ここに集まっている。
「なら」
続ける。
「これは、“構造の判断”です」
視線が集まる。
「集めて、使って、
正解のように扱った」
「その構造が、
今回の結果を生んだ」
責任は、ある。
だが、肩書きの上には置けない。
担当者は、ゆっくり息を吐いた。
「……つまり」
「誰かを罰しても、
同じことは繰り返す?」
「はい」
その答えに、反論は出なかった。
責任を取らせられない失敗。
それが、いちばん扱いづらい。




