第86話 捨てられる判断
判断の記録は、増え続けていた。
外縁区画。
中央寄りの補助路。
魔法街区の端。
どこも、問題は起きていない。
それでも、記録は積み上がる。
「……多すぎるな」
主人公は、机に積まれた束を見下ろした。
違和感あり。
念のため遅延。
様子見。
どれも、間違ってはいない。
だが――地図に落とすと、線が消える。
「判断が、互いに打ち消し合ってる」
線は薄くなり、方向を失う。
避けるべき場所も、避ける理由も、曖昧になる。
若い魔導師が、同じ結論に至っていた。
「残す判断と、捨てる判断を分けないと」
「捨てる?」
周囲がざわつく。
「記録を、消すってことか?」
「違う」
彼は首を振った。
「判断として扱わない、というだけだ」
問題が起きなかった理由が書かれていない記録。
責任を恐れて出された、形式だけの判断。
「それらは、残しても連鎖を濁らせる」
沈黙が落ちる。
捨てる、という言葉は重い。
だが、その夜、整理は始まった。
理由のない判断。
線に落ちない判断。
それらは、記録庫の奥に回される。
消されない。
だが、使われない。
地図に残る線は、少なくなった。
代わりに、くっきりする。
「……怖いな」
誰かが言った。
「判断を、選ぶって」
主人公は答えなかった。
選ばないことも、また判断だからだ。




