第84話 調整対象としての外縁
通達は、静かに出された。
掲示板の最上段でもなく、
緊急印の朱もない。
ただ、文面は明確だった。
――王都外縁区画における調整判断について、
――当面の間、中央管理局が把握対象とする。
把握対象。
それだけの言葉。
命令でも、介入でもない。
だが、意味は重い。
「……対象になった、ってことか」
誰かが、ぽつりと言った。
若い魔導師は、通達を読み返す。
判断枠についての言及はない。
地図士の名も出てこない。
だが、外縁で行われた“遅らせる判断”“使わない判断”が、
すべて記録対象になる。
「これ、自由度は変わらないよな?」
「形式上はな」
だが、全員が分かっている。
見られている、という意識が判断を変える。
◇
午後、簡易説明会が開かれた。
「誤解しないでほしい」
中央の担当者は言う。
「外縁を縛る意図はない」
「ただ、連鎖の兆候が見えた以上、
全体像を把握する必要がある」
正論だ。
誰も反論できない。
「判断は、これまで通り現場で行っていい」
「ただし、理由と経緯は残してほしい」
それは――
枠の思想に、近い。
若い魔導師は、気づく。
中央は、枠を否定していない。
だが、吸収しようとしている。
◇
説明会のあと、リーナが小声で言った。
「これ、制度化の入口だね」
「うん」
「嫌?」
「……早すぎる」
制度は、正解を求め始める。
今はまだ、迷いを残す段階だ。
その夜、主人公は地図に、
新しい印をつけた。
外縁と中央を隔てていた線を、
点線に変える。
もう、完全な境界ではない。




