第80話 評価される枠
暫定判断共有枠が、話題になり始めた。
成功例でも、失敗例でもない。
存在そのものが、だ。
「便利だと思う」
若手の作業員は言う。
「迷ってるって言えるのが、楽」
「責任を押しつけられない」
その一方で。
「甘えだ」
慎重派の声は、はっきりしている。
「判断を薄めている」
「誰も決めなくなる」
どちらも、間違っていない。
昼の会合で、意見が出る。
「枠を使う基準を、決めるべきだ」
「それを決めたら、元に戻る」
「使わなかったら、どうする」
「何も」
それが、不安を生む。
若い魔導師は、聞くだけに徹した。
今日は、まとめない。
夕方、連絡官が珍しく口を出す。
「評価され始めた時点で、これは“制度”になりかけている」
全員が、息を呑む。
「制度になると、正解を求められる」
「正解がないのが、売りだったはずだ」
沈黙。
夜、慎重派の代表が、若い魔導師に言う。
「君は、これを残したいのか」
少し、疲れた声。
「……はい」
「なぜ」
答えは、短かった。
「これがないと、
判断がまた、誰かの胸の中に戻るからです」
代表は、しばらく考えた。
「使わなかった結果が、また出たら?」
「その時は」
一拍。
「枠を、疑います」
守らない。
でも、捨てない。
微妙な立場。
夜、街を見下ろしながら、リーナが言う。
「嫌われ始めたね」
「うん」
「いい兆候?」
「……悪くない」
嫌われるということは、
無視されていないということだ。
暫定枠は、
まだ、どこにも属していない。
だからこそ、
誰のものでもあり、
誰のものでもない。
この曖昧さが、
次に、試される。




