第7話 遺跡の核心と、地図士への報酬
階段を降り切った先は、広間だった。
天井は高く、円形の空間。
壁一面に、細かな線と文字が刻まれている。
「……地図?」
思わず声が漏れた。
それは、街や森を描いたものじゃない。
大陸そのものだった。
しかも、ただの地形図じゃない。
魔力の流れ。
ダンジョンの位置。
封印区域と、その状態。
――全部、重なっている。
「これ……世界地図よ」
リーナの声が、わずかに震えた。
「しかも、更新式。
地図士が“生きている限り”、書き換わるタイプ」
俺の視界の地図が、勝手に同期を始める。
目の前の壁。
自分のスキル。
情報が、重なった瞬間――
【認証完了】
【個体名:カイル】
【職能:地図士(仮登録)】
「……仮?」
疑問に思った瞬間、文字が続いた。
【世界記録へのアクセス権:一部解放】
【報酬を付与します】
広間の中央。
何もなかった空間に、石の台座が現れる。
その上にあったのは――
一本の、細いペン。
「……ペン?」
拍子抜けするほど、地味だった。
だが、地図が警告を出す。
【神器:記録具】
【名称未設定】
【破壊不可】
「神器……?」
リーナが、ゆっくり息を呑む。
「地図士専用の記録具よ。
“描いたものが、世界に反映される”」
「え、それって……」
「ええ」
彼女は真剣な顔で頷いた。
「あなたが地図に“道がある”と記せば、
人はそこを道として認識する」
軽く、震えが走った。
「逆に、
“ここには何もない”と記せば……」
「消える可能性もある」
ペンを取る手が、少し重くなる。
「……報酬って、重すぎない?」
「地図士の報酬は、いつもそう」
リーナは苦笑した。
「金でも、名声でもない。
責任そのもの」
だが、それだけじゃなかった。
地図に、もう一つ表示が浮かぶ。
【副次報酬】
【経験補正:探索系スキル強化】
「……お?」
体が、少し軽くなる感覚。
視界の地図が、はっきりした。
危険度の精度。
未探索領域の範囲。
――全部、底上げされている。
「ちゃんと、冒険者向けの報酬もあるみたいだ」
「でないと、続かないもの」
リーナは安心したように息を吐いた。
遺跡全体が、ゆっくりと光を失っていく。
【遺跡機能:停止】
【次の地図士を待機】
「……役目、終わりか」
「ええ。
でも代わりに――」
リーナは、地上へ続く出口を見る。
「あなたの役目が、始まった」
地上に出ると、夕暮れだった。
森も、街道も、変わらない。
なのに――
俺の地図には、
さっきまでなかった“線”が一本、増えていた。
遺跡から、街へ続く細い線。
「……道、できてる」
「記録されたのよ」
リーナは微笑む。
「今日からここは、
“冒険者が通っていい道”」
胸の奥が、少し熱くなった。
最初の報酬は、金でも装備でもない。
――世界に、痕跡を残したこと。
それが、
地図士としての第一歩だった。




