第69話 保留の余波
会合から、三日が過ぎた。
何も決まっていない。
それが、決定事項だった。
限定運用は続いている。
止めるとも、広げるとも言っていない。
現場は、静かだった。
静かすぎる。
作業報告の数が減った。
不具合の申告が、遅れる。
「……様子見か」
若い魔導師は、帳簿を閉じた。
判断を先送りしたことで、
人は“報告しない”という判断を始めている。
悪意ではない。
関わりたくないだけだ。
昼、倉庫区画で、小さな事故が起きた。
魔力循環のズレ。
処理自体は、問題なかった。
だが――
「誰も、触らなかった?」
「触っていいか、分からなくて……」
現場の声は、揃っていた。
“決まっていない”という状態は、
現場を止める。
夕方、慎重派の代表が訪ねてくる。
「予想通りだ」
責める口調ではない。
「だから、早く戻すべきだと言った」
「戻せば、動きますか」
「少なくとも、迷わない」
それは、強みだ。
リーナは、別の帳票を見ていた。
「続ける派も、動いてない」
「分かってる」
「勝つか負けるか、様子見してる」
どちらも、正しい。
だからこそ、進まない。
夜、若い魔導師は、会合の議事録を読み返した。
強い言葉はない。
でも、疲れた言葉が多い。
そのとき、使者が来た。
「王都より、照会です」
短い文面だった。
――限定運用に関する現状報告を求む。
「……来たな」
介入ではない。
だが、無関心でもない。
返答期限は、二日。
時間は、こちらを待ってくれない。
リーナが言う。
「決めないって、楽だけど」
「うん」
「一番、長く持たない」
若い魔導師は、返答文の白紙を見つめる。
止める。
続ける。
条件を変える。
どれも、誰かを切る。
だが、選ばなければ、
全員が少しずつ削れていく。
窓の外、街はいつも通りだった。
だが、その下で、
歯車は、音を立てずにずれている。




