第68話 公の場で
会合は、昼下がりに開かれた。
場所は、市場に隣接する集会所。
誰でも来られる、誰でも聞ける場所だ。
それだけで、意味があった。
人は多い。
だが、騒がしくはない。
若い魔導師が前に立つ。
今日は、肩書きではなく、名前を名乗った。
「本日は、限定運用についての意見を聞きます」
それだけ言って、口を閉じる。
最初に手を挙げたのは、古参の作業員だった。
「失敗が出た」
事実だ。
「処理できた」
これも事実だ。
「でも、次もそうとは限らない」
沈黙が落ちる。
「俺たちは、危険を取るためにここで働いてるんじゃない」
拍手はない。
だが、頷きは多い。
次に立ったのは、若い作業員。
「前は、考えなくてよかった」
素直な言葉。
「でも、今は分かる。
遅れたら、どう取り戻すか。
詰まったら、どこを触ればいいか」
彼は、少し言葉を探した。
「……仕事してるって感じがする」
空気が、揺れた。
「それは、理想論だ」
別の声が飛ぶ。
「失敗したら、誰が責任を取る?」
若い魔導師が、答える。
「私です」
即答だった。
「ただし、判断は一人でしません。
記録も、残します」
「それでも、足りない」
慎重派の代表が立つ。
「街全体の責任は、誰が取る?」
それは、核心だった。
若い魔導師は、少し考えた。
「……取れません」
ざわめきが走る。
「だから、範囲を限定しています」
「逃げだ」
「現実です」
声は荒れない。
だが、線が引かれた。
続ける派は言う。
「全部を賭ける必要はない」
慎重派は返す。
「一部でも、賭けは賭けだ」
正論と正論が、ぶつかる。
そのとき、後方から声が上がった。
「王都は?」
短い問い。
若い魔導師は、はっきり答えた。
「止めていません。
でも、広げることも認めていません」
それは、守りでもあり、縛りでもある。
「……なら、決めるのは、私たちか」
誰かが呟く。
会合は、結論を出さなかった。
出せなかった。
だが、意味はあった。
反対意見が、声として残った。
賛成意見が、理由として残った。
夜、集会所の外で、二人が話していた。
「戻すべきだと思う」
「続けたい」
互いに、頷く。
分かり合えなくても、
分かろうとはしている。
若い魔導師は、会合の記録をまとめていた。
一言一句、削らずに。
それを読めば、
この街が、どこで迷ったかが分かる。
グレイザは、この日、
“話し合った街”になった。
正解は、まだない。
だが、黙って決められる場所ではなくなった。




