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【完結】レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった  作者: あめとおと
王都外縁・連鎖異変編

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第61話 選ばれたあとで

 朝は、いつもと変わらず訪れた。


 鐘は鳴り、水路は流れ、人々は仕事に向かう。

 グレイザは、平穏だった。


「……静かすぎる」


 リーナが小さく言う。


 それは、嵐の前というより、

判断が下された後の静けさだった。


 宿を出ると、通りの空気がどこか違う。

 慌ただしさはない。

 だが、昨日まであった“様子見”の気配が、薄れている。


 若い魔導師は、もう街の東にいた。

 目の下の隈は消えていないが、背筋は伸びている。


「決まりました」


 彼はそう言った。


「全面停止ですか?」


 俺の問いに、彼は首を振る。


「いえ。限定継続」


 意外な答えだった。


「監査局からの指示は、範囲を明確にし、責任者を定めること」


 つまり――

 街としては、止めなかった。


「僕が、責任者になります」


 その言葉は、軽くなかった。


「一時的に、です。記録と結果が揃うまで」


「……覚悟は?」


 彼は、少し考えてから頷いた。


「正直、まだ怖いです」


「それでいい」


 怖さを知っている者の判断は、暴走しない。


 水路の制御は、昨日と同じ設定に戻された。

 ただし、例の倉庫群の一角だけは、現場裁量が残る。


 人々は、それを知っている。

 掲示板に貼られた、簡素な告知文が、静かに読まれていた。


「“不具合が出た場合、即時復旧を優先”……」


 リーナが文面を読み上げる。


「逃げ道を、ちゃんと用意してるわね」


「逃げ道があるから、踏み出せる」


 それは進路の街で、何度も見た光景だった。


 昼前、最初の小さな問題が起きた。

 荷の到着が、予定より一刻遅れたのだ。


 以前なら、即座に上へ報告が行き、指示待ちになる。


 だが今回は違った。


「こっちを先に回す」


「水路、少しだけ絞れるか?」


 声が交わされ、決定が下る。

 誰も、王都の名を口にしない。


 結果、遅れは取り戻された。

 完璧ではない。

 だが、十分だった。


「……街が、自分で動いてる」


 リーナが呟く。


「まだ、試運転だ」


 俺はそう答えた。


 夕方、若い魔導師が報告に来た。


「監査局には、予定通りの記録を送ります」


「怒られるぞ」


「ええ。でも……数字は嘘をついてません」


 それでいい。


 この街は、革命を選ばなかった。

 全面的な自由も、全面的な管理も、どちらも取らなかった。


 狭い範囲で、選ぶことを選んだ。


 夜、灯りがともる街を見下ろしながら、俺は思う。


 進路の街とは、違う。

 ここは、もっと慎重で、臆病で、賢い。


 それでも。


 選ばれたあとの街は、

 もう昨日と同じ場所には戻らない。


 グレイザは、まだ変わらない。

 だが、変わらないままではいられなくなった。



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