第6話 失われた職――地図士
古代区画の手前で、私たちは一度足を止めた。
無理に進めば危険。
それは、カイルの地図にも、私の感覚にもはっきり出ていた。
「……ねえ、カイル」
私は壁に背を預け、静かに口を開いた。
「少し、話しておきたいことがあるの」
「うん」
彼は素直に頷いた。
こういうところが、この人の危うさでもある。
「“地図士”っていう職業、聞いたことある?」
「……ない」
即答だった。
それも、無理はない。
「今の時代には、もう存在しないから」
私はゆっくりと言葉を選ぶ。
「昔――
正確には、古代文明が滅びる前」
この世界には、
戦士でも、魔法使いでもない役割を持つ者たちがいた。
「世界を“記録する”人たち」
地形。
魔力の流れ。
ダンジョンの構造。
封印された場所。
「彼らは戦わなかった。
でも、誰よりも多くを知っていた」
そして――
「それが、地図士」
カイルは、黙って聞いている。
「地図士が描いた地図はね、
ただの紙じゃなかった」
魔法陣の一種。
世界と同期する“情報媒体”。
「だから、
地図士がいれば、戦争の流れが変わった。
国境が揺らいだ。
隠していたものが、暴かれた」
――便利すぎた。
そして、
危険すぎた。
「結果、どうなったと思う?」
「……消された?」
小さな声で、カイルが言った。
「正解」
私は苦く笑う。
「直接殺された人もいるし、
スキルそのものが“発現しないように”
世界側が書き換えられたとも言われてる」
地図士は、
伝説になり、
やがて、物語にすら登場しなくなった。
「だから、あなたの【地図作成】は」
私は、彼の目を見る。
「偶然じゃない」
遺跡。
認証。
条件未達。
全部、繋がる。
「この場所は、
地図士が“自分たちの後継を待っていた”場所」
カイルは、しばらく黙ってから言った。
「……俺、そんな大それたつもりは」
「分かってる」
だからこそ、怖い。
「でもね」
私は、はっきり告げた。
「あなたが地図を描くたびに、
世界は“隠してきたもの”を一つずつ失う」
それは、救いにもなる。
同時に、敵も生む。
「……それでも」
カイルは、少し考えてから言った。
「俺は、地図を使う」
逃げない。
誤魔化さない。
「知らないまま歩くより、
知った上で、ちゃんと進みたい」
その答えに、私は息を吐いた。
(やっぱり……この人、地図士だ)
覚悟の種類が、違う。
遺跡の奥。
地図が、静かに光っている。
【認証条件:進行可能】
世界は、
もう後戻りさせる気がないらしい。
「行きましょ、カイル」
私は杖を握り直した。
「地図士が消えた理由を、
確かめに」




