第56話 真似したい街
グレイザは、
大きな街だった。
城壁こそないが、
門は立派で、
人の流れも
途切れない。
「……活気は
あるわね」
リーナが
周囲を見る。
「ある」
「だから、
止まりにくい」
だが――
流れは、
硬い。
整いすぎて、
曲がらない。
⸻
応接室は、
すでに
準備されていた。
市政官。
水路管理者。
魔導師。
全員、
帳面を
持っている。
「ようこそ」
「進路の街の
事例、
大変
参考になりました」
言葉は
丁寧だ。
だが――
視線は
俺ではなく、
資料に
向いている。
「我々も、
あの方式を
導入したい」
「王都式を
基礎にしたまま」
「自由度を
段階的に
上げる」
リーナが
首を
傾げる。
「……自由度を
上げる、
って?」
「裁量を
増やす、
という意味です」
市政官が
即答する。
だが――
誰の裁量かは、
言わない。
⸻
「質問を」
俺は
静かに
言う。
「今、
困っている
ことは?」
一瞬の
間。
「……将来です」
「今は、
問題ない」
「だが、
成長率が
鈍化している」
数字が
並ぶ。
安全。
安定。
持続。
どれも、
正しい。
だが――
誰も、
選んでいない。
「進路の街は、
違う」
「彼らは、
“困っている”
状態から
始めた」
市政官は
眉を
ひそめる。
「では、
危機が
起きるまで
待てと?」
「いいえ」
「だが――
決断は、
数字の外に
ある」
⸻
街を
歩く。
商店は
整っている。
水路は
綺麗だ。
だが――
人々は、
指示を
待っている。
「掲示は?」
「王都基準です」
「変更は?」
「承認待ちです」
誰も、
止めてはいない。
それでも、
動かない。
進路の街とは、
逆だ。
ここは、
中心が
多すぎる。
だから、
誰も
一歩を
出さない。
⸻
「……どう?」
リーナが
小声で
聞く。
「今は、
触れない」
「触れたら?」
「真似して、
失敗する」
その失敗は、
この街のものでは
なくなる。
進路の街の
責任に
される。
それだけは、
避けなければ
ならない。
⸻
応接室に
戻る。
「結論を」
市政官が
促す。
「今回は、
導入しない」
即答。
空気が
凍る。
「理由は?」
「この街は、
まだ
選んでいない」
「選ばない街に、
選択の
仕組みは
入らない」
不満が、
滲む。
だが――
怒りではない。
理解が、
追いついていない
だけだ。
⸻
宿へ
戻る途中。
「嫌われたわね」
リーナが
言う。
「ええ」
「でも、
壊さなかった」
それで
いい。
連鎖は、
同じ形では
起きない。
真似したい街と、
変わりたい街は、
別物だ。
それを
見誤れば――
次は、
もっと
大きく
歪む。




