第53話 選択の揺り戻し
異変は、
静かに
起きた。
翌朝。
川の水位が、
わずかに
下がっていた。
「……昨日より
三指分」
見張りの男が
報告する。
慌てるほどじゃ
ない。
だが――
見過ごすには
早すぎる。
「流れが、
偏ってる」
リーナが
水面を
見る。
「名前を
定めたことで、
向きが
一つ
強くなった」
俺は
頷く。
「最初の
揺り戻しだ」
⸻
街は、
ざわつく。
「ほら、
危なくなった」
「だから
王都式に
戻すべきだ」
「いや、
様子を
見よう」
議論は、
まとまらない。
それで
いい。
だが――
放置は
違う。
若い女が
俺たちを
見る。
「……どうすれば」
俺は、
即答しない。
「選んで」
「今度は、
すぐだ」
酷だ。
だが――
ここで
外が
決めたら、
戻る。
⸻
提案は、
三つ
出た。
一つ。
水門を
閉じる。
一つ。
取水を
減らす。
一つ。
川に
触らない。
それぞれ、
利点と
欠点がある。
「水門は、
街の外」
「閉じれば、
下流に
影響が出る」
「取水を
減らせば、
畑が
困る」
「触らなければ、
様子は
見える」
誰も、
決めない。
昨日と
同じ
空気。
だが――
違う。
迷いが、
内側にある。
⸻
子どもが
また
言う。
「……少しだけ
減らすのは?」
「全部じゃ
なくて」
大人たちが
顔を
見合わせる。
「取水を、
一部だけ?」
「試す、
ってことか」
完全じゃない。
だが――
退かない。
若い女が
頷く。
「じゃあ、
今日だけ
減らす」
「数字を
記録する」
誰も、
笑わない。
だが、
否定も
ない。
それで
十分だ。
⸻
夕方。
水位は、
元に
戻りつつ
あった。
畑も、
問題ない。
「……小さいけど」
リーナが
言う。
「自分たちで
直した」
「そう」
俺は
地図を
閉じる。
線が、
少しだけ
太くなっていた。
完璧じゃ
ない。
だが――
戻らない。
王都式なら、
この揺れは
消せただろう。
その代わり、
街は
また
止まった。
今は、
揺れている。
揺れながら、
進んでいる。
それで
いい。




