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【完結】レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった  作者: あめとおと
王都外縁・連鎖異変編

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52/102

第52話 最初の名前

 名前は、

 すぐには

 出なかった。


 広場に

 集まった人々は、

 互いの顔を

 見て、

 また

 視線を落とす。


 沈黙は、

 重い。


 だが――

 逃げ場は

 ない。


「……昔は」


 年配の男が

 口を開く。


「川の名で

 呼ばれてた」


「この街は、

 上流に

 白い石が

 多かったから」


 誰かが

 頷く。


「そうだ」


「子どもの頃、

 そう呼んでた」


 だが、

 別の声が

 重なる。


「でも、

 今は違う」


「川は、

 もう

 街の中心じゃない」


 反論ではない。

 確認だ。


 名前は、

 過去だけで

 決められない。



 若い女――

 最初に

 一歩

 踏み出した

 彼女が、

 息を吸う。


「……なら」


「今の

 私たちに

 合う名前を

 考えよう」


 誰かが

 笑う。


「急すぎる」


「でも、

 いい」


 言葉が、

 少しずつ

 増えていく。


「守られてた

 場所」


「安全な

 通り道」


「何も

 起きない

 街」


 どれも、

 間違ってはいない。


 だが――

 決め手に

 欠ける。


 その時、

 子どもの声が

 響いた。


「……ねえ」


「ここって、

 止まってる?」


 大人たちが

 一斉に

 見る。


「動いてるよ」


「みんな、

 いるだろ?」


 子どもは

 首を振る。


「でも、

 進んでない」


「前にも、

 後ろにも」


 静まり返る

 広場。


 その一言が、

 刺さる。


「……じゃあ」


 若い女が

 呟く。


「進むって

 入れよう」


「止まらない

 って意味で」


 誰かが

 続ける。


「道、

 って言葉も

 欲しい」


「ここは、

 通り道だった」


 言葉が

 繋がる。


 重なる。


 形を

 持ち始める。



「……じゃあ」


 若い女が、

 はっきりと

 言った。


「進路の街」


「進むための

 道がある街」


 一瞬の

 沈黙。


 そして――

 誰かが

 頷く。


「悪くない」


「いや……

 好きだ」


「呼びやすい」


 完全な

 合意じゃない。


 だが――

 否定も

 ない。


 それで、

 十分だ。


 俺は、

 地図を

 開いた。


 白紙だった

 場所に、

 初めて

 文字が

 浮かぶ。


【進路の街】


 線が、

 震える。


 まだ、

 細い。


 だが――

 消えない。


 流れが、

 確かに

 街を

 通った。


 安全域の

 数値が、

 わずかに

 揺れる。


 危険ではない。


 選択が

 戻った

 証拠だ。



「……これで」


 案内役が

 呟く。


「戻ったのか?」


「いいえ」


 俺は

 首を振る。


「始まった」


 名前は、

 完成じゃない。


 宣言だ。


 これから

 失敗も

 起きる。


 迷いも

 増える。


 それでも――

 呼ばれ続ける

 限り、

 街は

 消えない。


 俺は、

 一歩

 下がった。


 もう、

 俺の

 出番じゃない。


 選んだのは、

 彼らだ。


 その責任も、

 未来も。


 夜風が

 広場を

 抜ける。


 流れは、

 迷わず

 街を

 通り抜けていった。



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