第5話 遺跡に刻まれた、最初の一歩
遺跡の入口は、思っていたよりも狭かった。
「外から見るより、ずっと小さいな……」
「意図的にね」
リーナは周囲を警戒しながら答える。
「人が入ることを、前提にしてない構造。
たぶん、隠すための遺跡よ」
俺は、無意識に地図を確認していた。
入口の先。
薄暗い通路。
曲がり角の向こう――
すでに、地図は“中”を描いている。
「……やっぱり」
中に入っても、表示は途切れない。
壁の厚さ。
通路の幅。
そして――
「リーナ、ここ」
「?」
「左の壁、少しだけ色が違う。
……地図だと、奥に空間がある」
彼女は眉を上げ、杖の先で壁を軽く叩いた。
――コン。
鈍い音。
「……本当だ。隠し扉ね」
「え、もう?」
「普通なら、調査魔法を何分も使うところよ」
リーナは、少し楽しそうに笑った。
「あなた、ダンジョン泣かせね」
隠し扉の先には、小さな部屋があった。
石造りの床。
崩れかけた棚。
そして、中央に置かれた――古い石板。
地図が、淡く光る。
【記録部屋】
【魔力残滓:微】
【危険度:なし】
「……安全?」
「少なくとも、罠はないわね」
リーナが石板を調べる。
「古代文字……完全じゃないけど、読める」
彼女は、ゆっくりと音読した。
「――『ここは、地を記す者のための場所』」
心臓が、嫌な音を立てた。
「地を、記す……?」
「ええ」
リーナは振り返り、俺を見る。
「地図。
測量。
探索者――呼び方は色々あるけど」
一拍置いて、続けた。
「この遺跡、あなたみたいな人のために作られてる」
冗談だと思いたかった。
でも、地図は否定しない。
さらに奥。
通路が分岐する地点で、表示が変わった。
【未探索ルート:2】
【推奨:左】
【右:構造不安定】
「……右は危ない」
「理由は?」
「……地図が、赤い」
短く答えると、リーナは即座に頷いた。
「了解。左ね」
迷いはなかった。
それが、少し怖かった。
この人は、
俺の“見えないもの”を、完全に信じている。
通路を進むと、行き止まり。
――の、はずだった。
地図には、まだ続きがある。
「床、だ」
「床?」
「下に、空間がある」
慎重に調べると、隠し階段が現れた。
「……これは」
リーナが、静かに息を吐く。
「未登録ダンジョンどころじゃない。
これ、本来は封印されてたタイプよ」
階段の先。
地図の表示が、一段階変わった。
【古代区画】
【危険度:中】
【警告:条件未達】
「条件……?」
言葉の意味を考える前に、
地図の端に、新しい文字が浮かぶ。
【認証対象:地図作成スキル】
――俺の、名前。
「……なあ、リーナ」
「なに?」
「これ、俺が来るの……
最初から、分かってたみたいだ」
彼女は少し黙ってから、答えた。
「なら尚更よ」
杖を握り、前を見る。
「ここで引き返したら、
あなたは一生、地図の“表側”しか歩けない」
その言葉に、覚悟が決まった。
「……行こう」
階段を降りた瞬間、
地図が――完全に書き換わった。
それはもう、
“周辺地図”なんかじゃない。
世界の一部だった。




