第49話 名前のない街へ
街道は、途中で途切れていた。
「……地図だと、ここから先も
道があるはずだけど」
リーナが眉をひそめる。
「ある」
俺は頷く。
「あった、が正しい」
轍は、消えかけている。
人の往来が減った証拠だ。
それでも――
完全に使われていないわけじゃない。
踏み固められた部分が、
まだ残っている。
「最近まで、使われてた」
「ええ」
「止まったのは、急だ」
⸻
馬車を降り、歩く。
風の音が、変わる。
強くも、弱くもない。
ただ――
向きが定まらない。
「……落ち着かない」
リーナが首元を押さえる。
「流れが、街に入るのを嫌がってる」
「嫌がる?」
「拒絶じゃない」
「迷ってる」
この感触は、初めてだった。
王都でも、
リュネでも、
感じなかった。
流れが、
意思を持っているような揺らぎ。
⸻
丘を越えた先で、街が見えた。
小さい。
壁も、塔もない。
だが――
完全な村でもない。
「……中途半端ね」
「そう」
「成長しかけて、止まった街だ」
家はある。
倉もある。
広場もある。
だが――
中心が、ない。
視線が集まる場所が存在しない。
「名前は?」
リーナが聞く。
俺は、首を振った。
「分からない」
「依頼書にも、なかった」
「……そんなこと、ある?」
「ある」
「呼ばれなくなった街だ」
名前は、呼ばれてこそ残る。
呼ばれなくなれば、消える。
街も、同じだ。
⸻
入口らしき場所で、
一人の人影が立っていた。
こちらを警戒する様子はない。
だが――
歓迎もない。
「……来たんだ」
声は、低い。
「王都から?」
「王都“経由”だ」
俺はそう答えた。
相手は少しだけ笑った。
「そうか」
「なら、話が早い」
名前を名乗らない。
こちらも、聞かない。
この街では、それが普通らしい。
「街は、壊れていない」
「でも、続かない」
それだけ告げて、踵を返す。
「案内する」
街の中へ。
人はいる。
暮らしている。
だが――
未来の話をしていない。
子どもが、少ない。
店が、増えない。
修繕が、行われていない。
「……止まってる」
「ええ」
リーナが小さく言う。
「壊れてないのに」
それが、一番厄介だ。
壊れていれば、直せる。
だが――
止まっているものは、どうすればいい?
街の中央。
何もない広場で、足が止まる。
「ここが、中心だった」
案内役が言う。
「昔は」
俺は、地図を開かなかった。
まだ、線を引く段階じゃない。
ここは――
見る場所だ。
この街が、
なぜ名前を失ったのか。
なぜ流れが迷っているのか。
その答えは、きっと――
線の外側にある。




